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状況その2 ワーヒド後始末―3

 つまり、根回しや説明無しにアンドロイドの捕虜が言ったあの言葉のせいで今の状況があると言っても過言では無い。

 ましてや元々の悪感情に加えてつい先日まで地球連邦軍と戦っていた現場指揮官からすれば感情的になって当たり前だ。


(こいつ全部狙ってやってるのでは……)


 シュシュリャリャヨイティはまるで副官の様に振る舞う拾い物のアンドロイドを苦々しく眺めた。


 別段こちらを積極的に害するような事をしているわけでは無い。

 シュシュリャリャヨイティの治療や世話は献身的で適切だし、部下の医療関係のアンドロイド達と共に切り盛りする救護所では患者の所属を問わず完璧な治療を行っている。

 当初は反発して暴力沙汰を起こしていたカルナーク人や火星人、アイオイ人達もほんの数日で彼女達に心を開きつつある。


 見事、と言わざるを得ない。


 だが、だからこそ疑念が絶えない。


(意図的にこちらの攪乱をしているのでは……?)


 シュシュリャリャヨイティ個人や負傷兵に対して献身的な一方で、煽る様に降伏提言を行ったり、意図的に情報や考えを伏せている点に関して彼女はニャル中佐に対して疑念を抱いていた。


 そもそも一介の捕虜を信頼していたことが誤りと言えば誤りなのだが、自分の治療を考えれば今更放り出すなど出来ようもない。

 そうなると思っている以上に厄介な爆弾を抱えた事になりかねず、シュシュリャリャヨイティは悶々とし続けていた。

 

 だがその一方で、これを好機とも考えていた。


「…………割れた爪とて喉を裂き……か」


 シュシュリャリャヨイティは呟いた。

 それを聞いていたニャル中佐が首を傾げた。


「なんですかそれ?」


「ルーリアトの故事よ。割れた爪とて時と場合によっては敵の喉を裂く武器となる事もある……普通正すような不利不具合も使いようによっては利となる……奇貨、みたいな意味」


 そこまで言うと、シュシュリャリャヨイティはニャル中佐の尻を撫でた。


「あんたが割れた爪よ」


「……あなた達姉妹はセクハラ抜きでコミュニケーション出来ないのですか? それと、私は割れた爪ではありません。しいて言うなら美しい薬指です」


「やっぱりアンドロイドね。あんまりうまくない言い回しだわ」


 そんなやり取りをしている内に、二人は目的の場所へとたどり着いた。


 帝城の中庭。

 戦闘の余波で崩落の可能性がある箇所があるせいで城内に本部を設置できない結果設けられた、七惑星連合軍の仮設本部がある場所だ。


 本来ならばルーリアト様式の美しい庭だったが、アウリン達と工兵によって均され今ではただの地面と天幕が並ぶだけの味気ない場所だが、廃墟となった帝都においては最も活気ある場所でもある。

 

 数十台の無線送電の携帯受信機が並び、そこから無数に伸びたケーブルが様々な機器や端末に接続され、それらに百人近い人員がオペレーターとして忙しなく働くその光景は、少数の事務アンドロイドと将官が持つタブレット端末だけで司令部を構成する地球連邦軍には見られない昔ながらの軍司令部の姿だった。


 シュシュリャリャヨイティはそんな本部の外れにあるテントに足を向けた。

 慌ただしく働く火星人やカルナーク人がシュシュリャリャヨイティを見ると足を止めて敬礼するので、軍人ではない彼女はニコリとほほ笑み手を振り返す。


 ルーリアト人が一人もいないこの場では、当然彼女の人となりや評判を知る者もいない。

 よって可憐で妙齢の美女からの微笑みに対し、自然と連合兵達も笑みを浮かべる。


 一方で後ろを歩くニャル中佐が行うシュシュリャリャヨイティから見ると煽っているとしか思えない異世界派遣軍式の答礼に対しての反応は辛辣だった。

 唾を吐く者やシュシュリャリャヨイティには分からない罵詈雑言や舌打ちがあからさまに響く。

 司令部要員には負傷者などほとんどいないので当然と言えば当然だ。


 聞こえないようにため息をつきつつ、シュシュリャリャヨイティはアイオイ人の歩哨が立つ会議場所のテントへと足を進めた。


「そもそもお腹が痛いからってあなたが会議にまで付いてくるのを許した私が悪いのですよね……」


 自嘲気味にシュシュリャリャヨイティが言うが、それをニャル中佐が窘めた。


「言っておきますがあなたは重傷者なのですよ? 私を置いて仕事をするのは勝手ですが、怪我が悪化して出産能力や赤ちゃんに影響がある可能性は排除できませんからね」


「またそうやって脅す……」


「厳然たる事実です」


 ニャル中佐の言葉と同時に歩哨のアイオイ人によりテントの入り口のジッパーが開けられる。


「ルーリアト統合体議長シュシュリャリャヨイティ様。及び医療担当のニャル捕虜中佐殿ご到着です」


 鈴の音の様な声色のアイオイ人に紹介されつつ歩みを進めると、テント内にいる面々から好奇心や愛情や殺意の視線が向けられる。

 そこにいるのはまさしく七惑星連合軍の中枢だった。


 もめ事を避けるべく用意された円卓の一番奥に設置されたモニターに顔を映すのは赤黒い異形。


 アウリン隊総隊長

 最後のベルフ族 ゴッジ大将


 その隣に座るのは直立歩行する昆虫の様な異形であるンヒュギの生体機械兵。

 及びそれに意識を同調させた、現在地球を襲撃した第二艦隊旗艦にいるもう一人の先史文明の生き残り。


 七惑星連合宇宙軍司令

 最後のンヒュギ族 ガ・ンヒュギ大将


 その異形二人に続き座るのは今戦闘の立役者達だ。


 火星民主主義人類救世連合名誉評議会議員

 ニュウ・ヴィクトール神官長

 

 火星民主主義人類救世連合名誉評議会議員

 ジロード・ルモン騎士長


 カルナーク国民統合軍代表(ヤー)

  兼ハストゥール級一番艦ハストゥール艦長

   兼アウリン第一大隊大隊長

 クク・リュ8956・純カルナーク大佐


 カルナーク国民統合軍軍師長

 ダダ・グリ74050・一等カルナーク軍師中佐


 カルナーク国民統合軍第101超長距離射撃亜人連隊連隊長

 ポンポン・ガーネス666・名誉カルナーク亜人大佐

 

 火星陸軍特殊部隊RONINN

 副 隊 長 ジンライ・ハナコ少佐

 一番隊隊長 ルドラ・ヴァルメ大尉

 二番隊隊長 ハン・ヨヌ少尉 

 三番隊隊長 エリー・エリザベット少尉 


 これら堂々たる面子が、最後にやってきたシュシュリャリャヨイティ達を見ていた。


 見ていないのはたった二人。

 入り口に背を向けて座る、現場を担当するたたき上げの二人。


 火星陸軍第1完全機械化連隊連隊長

 マクダネル・ロビンソン中佐


 カルナーク陸軍第12師団臨時師団長

 ハク・ガル334896・二等カルナーク少佐


 もっとも被害を出した……否、出し続けている部隊の指揮官であり、もっとも地球とアンドロイドに対し高圧的な二人が、憎悪をありありと宿した背中で威嚇しているのをシュシュリャリャヨイティは感じた。

次回更新は5月11日の予定です。

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