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第8話ー2 異世界へ

「了解しました」


「あ、それと一木代将」


「はい? 」


「ジーク作戦参謀に手を出したんだって? あの娘はいい子だよー」


「はあ!? ち、違います……首席参謀ー!! あんた司令に何言ったんですか! 」


 顔を伏せて笑いをこらえているダグラス首席参謀に一木は叫んだ。

 今確信した、この女は一木をからかって楽しんでいるのだ。 


「申し訳ありません。首席参謀に聞きました。自分の態度が、アンドロイド達を惑わすような不純な態度だということを……艦隊内の規律を乱し……」


「ああ、違う違う。かしこまらなくていいよ。君は別に悪いことをしたわけではない。あの娘たちを思いやることは、何も悪いことではない」


「はあ……しかし」


 ちらりと不機嫌なマナ大尉の顔を見た一木に、サーレハはまた笑いかけた。


「パートナーと他のアンドロイドは別腹だよ? みんな人肌に飢えてるから気にせずにいたまえ」


 ああ、まただ。一木の胸がずきりと痛んだ。悪気はない、励まそうという意思を込めた、この時代の人間にとって当たり前の表現。

 しかし、一木には許容できない言葉だった。


「アブドゥラ・ビン・サーレハ大将。ありがたいお言葉ですが、新米の自分には任務がありますし、何よりパートナーを亡くしたばかりの上、マナという新しいパートナーを迎えたばかりです。ジーク作戦参謀とは公私ともに良い仲間として付き合っていきたいと思います」


 早口にまくしたてると、一木は頭を下げた。

 背後ではマナ大尉が一緒に頭を下げていた。


「……すまないね一木君、配慮が足りなかったようだ。参謀達には連絡しておくから、六時間ほど休むといい。そのあと各種準備に入ってくれ。さがっていいよ」


「失礼します」


 一木はそういうと、退室していった。


「パートナーが壊れた時こそ周りのアンドロイドを頼ればいい、っていうのは昔の人間には難しいのかねえ」


 サーレハの言葉に、ダグラス首席参謀は珍しく笑みを消して答えた。


「人間が人間と結ばれることがほとんど、っていう時代の人ですからね。喪失の悲しみが残る内にホイホイ他の女を抱くことに抵抗があるのでは? まあ、私が人間の心理がそこまで理解できてるのかはわかりませんが。ところでサーレハ司令……」


「なんだいダグラス君? 」


「あの一木って師団長何者ですか? 」


 ダグラス首席参謀の目が鋭くサーレハを射抜いた。部屋の空気が急速にきしみ、スルターナ少佐がヒジャブの下で、シャキリと刃物の音を立てた。


「将官学校を卒業して、艦隊に配属された新人の師団長。二十世紀末生まれの脳冷凍処置者で、強化機兵の体を持ったサイボーグ」


「そんな事を聞いてるんじゃないんですよ。あの師団長はおかしい……なんで私たちはあんなにあの新人に好意を抱いているんですか? 」


 そのダグラス首席参謀の言葉に、サーレハの表情が変わった。余裕ある笑みが、歓喜に満ちた感情の満ちたものに……。


「まるで、好意を抱くということが異常だとでも言っているように聞こえるね 」


「参謀達の感情まで常に共有してる首席参謀の私が言うんです。あの師団長には艦隊のアンドロイドっていうアンドロイドが好意を抱いている。態度や接し方なんて問題じゃない、私たちは無条件にあいつに惹かれてる……あの無愛想なジークまであんな積極的になるなんて……普通じゃない」


「君は首席参謀としては本当に優秀だねえ……平時から感情まで共有するなんて普通の首席参謀にはできない……」


「答えてください……ひょっとして、時折司令が接触してる『old low』が何か関係を? 」


 ダグラス首席参謀にとってこの言葉は一種のかけであった。

 確かにサーレハが『old low』と呼ばれる対象と通信をしているのは事実であったが、今回の事との関連など当て推量もいいところだった。


「ふ、ふふふふふふ……やはり君は良い首席参謀だ。君にとっては私も監査対象ということか……」


「司令……」


 サーレハが笑い終わるころには、すでに表情から歓喜は消えていた。old low……オールドロウ……一体何なのか……。


「一木君はただの変わったサイボーグに過ぎないが……少々変わった加護を受けている。これでは不十分かね? 」


「加護、ですか。誰からの? 」


 突然の宗教的な表現に戸惑うダグラス首席参謀。

 しかし、サーレハは気にせず続けた。


「加護を与えるのは”神”に決まっているだろう」


 ダグラス首席参謀は呆然と、自分の上官の顔を見た。

 神……あまりに場にそぐわない言葉だった。


「私は連邦の益にそぐわないことはしていない、そこは安心していい。もし何か見つけたのなら、容赦なく本部の憲兵に報告すればいいよ」


「サーレハ司令……あなたは……」


「この妙な出動命令も含めて、すべては地球連邦政府のためだ。決して君たちアンドロイドの存在意義に反することではない」


 この時ダグラス首席参謀はサーレハの言う神の正体に気が付いた。

 前々から察してはいたのだ。この昼行灯を演じてる艦隊司令が、ひょうひょうとした態度と裏腹に、積極的に異世界派遣軍の出動を様々なルートで働きかけている事を。

 異世界派遣軍の出動を促して得られることなど一つしかない。

 地球の勢力圏の拡大。すなわち、異世界派遣軍の目標の一つである星間国家建国が近づく。


「あなたはナンバーズ信奉者……札付きだったんですね」


 札付き。ナンバーズの来訪後、地球連邦設立のために積極的に動いた人間に、ナンバーズが与えた番号の書かれた札を語源とするナンバーズ信奉者の総称。

 番号札付き、通称札付き。


「君は気にせず一木君のサポートを続ければいい。それですべて、万事、うまくいく」


 アブドゥラ・ビン・サーレハ大将。札付きの盟主たる男は、ダグラス首席参謀に言い聞かせるように言葉を発した。 

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