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状況その1 太陽系戦線―4

「その後両軍はしばらく睨み合いを続けましたが、火星側にハストゥール級とアウリン、地球側に追加の戦艦二隻が到着した段階でとうとう戦端が開かれたそうです」


 クラレッタ大佐の言葉を聞いて、グーシュがごくりと喉を唾を飲み込んだ。

 ここまで来ると結果はある程度予測できるが、大統領親衛隊などと言うものの存在を今初めて知った一木も興味を抱かずにはいられなかった。グーシュの喉と同じように、軽い緊張でモノアイが動くモーターの音がする。


「で、どうなった?」


「だいたいはお分かりでしょう? ある程度の撃ち合いをすると、火星側はアウリン隊を殿(しんがり)にして撤退を開始したそうですわ。地球側も追撃を図りましたが、月面の施設を攻撃するそぶりを見せられ断念したそうです。プトレマイオス工廠を始め、宇宙軍、異世界派遣軍関係の製造施設が集中していますから無理もありません……」


 月面の裏側に設置されたダイダロスクレーター基地が防衛のための施設ならば、表のプトレマイオスクレーター基地にある工廠は宇宙空間で運用する兵器全般の製造開発を担う中枢施設だ。失われるような事があれば、それは地球連邦宇宙軍と異世界派遣軍の背骨をへし折る事と同義だ。


「なるほど。絶対防衛圏内に侵入したのと同時に月面基地に手を出さなかったのはそう言う事か。撤退時に人質にして脱出する意図があったのか」


「まあな……最初に破壊してしまっては人質にはならんからな。だが……」


 一木の言葉にグーシュが納得して頷き、そして首を傾げた。


「地球制圧を諦めたのはまあ、想定外の親衛隊の存在があったのだからわかるが……月面の基地を破壊せずに人質にだけして撤退というのは解せぬな。わらわだったら人質にしつつ最後には破壊するか、最低限ダメージを与えられるようにする手を打つぞ」


 グーシュの言う事ももっともで、火星艦隊は結局月面の重要施設に対して手を出すそぶりだけで何もせずに撤退していったのだという。つまり、地球連邦に致命傷を与える機会を目の前で逃して撤退してしまったのだ。

 プトレマイオス工廠を失えば製造はともかく開発力に甚大な影響を及ぼす。ハストゥール級やアウリンといった新兵器への対抗手段を長期にわたって制限することが可能なはずだった。

 

「まるで主力艦隊を撃破する事だけが目的だったようだな?」


 グーシュがクラレッタ大佐に問いかけるが、大佐の方も困惑した風に困った表情を浮かべるだけだ。


「わたくしはあくまで他の参謀や接続できるネットワークの情報を話しているだけですので……とはいえその点わたくしも気になりますわね。そうなると、地球の近くで反物質兵器を使用させて量子通信ネットワークを寸断する事が目的なのかしら………」


 反物質兵器を使用するのは地球連邦側だけだが、本格的な火力投射手段として

 クラレッタ大佐の言葉を聞いて、一木の脳裏にとあるひらめきが浮かんだ。


「そうか! 情報の寸断……確か異世界への攻撃もあったんだよな? 奴らの狙いはそこだったんじゃないのか? 地球に攻撃を仕掛け、反物質兵器を地球側に使用させる。そしてそれによって生じた量子通信の婦長によって参謀型アンドロイドや艦艇に通信障害を起こさせ、それによって異世界への襲撃を容易に……」


『それは狙いの一端にすぎんよ』


 唐突に中年男性の声が一木の話を遮った。

 その場にいる一同聞き覚えのある声だ。


「「「サーレハ司令!?」」」


 名を呼ぶ声と同時に、メインモニターに医療用カプセルに完全固定された痛々しい姿が映しだされる。

 シャフリヤールによる緊急機動によるダメージは想像以上に重いようで、ギブスによって固められた体は指先すら動かせない程に見えた。


『何とか無事だったがご覧の有様だ。しかし、本当に君たちには……特に一木代将と殿下には迷惑をかけた。謝罪させてくれ』


「そんなものは気にしてないからどうでもいい。さっきの言葉はどういう意味だ?」


 どことなく胡散臭いその謝罪に対し、一木が何か言う前にグーシュが話を促した。

 サーレハ司令も何か思う事があるのか、しばし沈黙して……一木と視線を合わせた。


『まあ、殿下がそういうのならいいか。それで言葉の意味だが……そのままの意味だ。彼らの地球侵攻……いや、今回のワーヒド星域会戦を含むドゥーリトル作戦と呼ばれる彼らの軍事行動全般の目的、それからすれば主力艦隊の撃滅も通信妨害も異世界襲撃も些末な事に過ぎない』


「……サーレハ司令。あなた、どこまで知っているんだ?」


 グーシュがモニターのサーレハ司令を睨みつけた。

 さすがの彼女も好奇心を抱くだけでは済まない。失ったものがさすがに多すぎる。


『どの道話そうと思い今日は連絡したのだ。この一連のどこか中途半端な軍事衝突とは一体何だったのか……その中心にいるつもりで都合のいいコマでしかなかった憐れなピエロとしては、君たち被害者に真実を伝える義務があるだろうからね』


「コマ? 黒幕がいるような言い方ですが……」


 一木がモノアイを回しつつ尋ねたが、サーレハ司令は視線でそれを否定した。


『誰もが黒幕であり、誰もがコマだったと言うべきか……皆が火星の軍事行動にかこつけて自分たちの利を得ようとして、結果全員が目的を達成しつつ大多数が損をした。それが一連の結末だ』


「じゃあやっぱり損をしなかった連中が黒幕じゃないか?」


『そう言う意味ではナンバーズ達が黒幕と言えなくもないがね』


 グーシュが口を尖らせたが、サーレハ司令は笑った。どこか自嘲的な笑いだった。


『まあ、簡単に言ってしまうとだ。火人連とカルナーク残党を主力とした今回の行動における七惑星連合の目的とは即ち……準備運動だよ』


「何の?」


『戦争のさ。連中は地球との全面戦争前に自分たちの中に巣食う無能と地球にいる支援者の手先を処分する必要があったんだよ。つまり……』


 最後に一拍開けて、もったい付ける様にサーレハ司令は言い切った。


『彼らの目的は間引き、だったんだよ』


 想像もしていなかった単語が聞こえた事に、グーシュと一木は驚きを隠せなかった。

次回よりサーレハ司令の総括 が始まります。


次回更新は4月27日の予定です。

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