状況その1 太陽系戦線―3
消耗したエメラルド・ラマとアウリン隊を後方に回しつつ、統制艦と標準艦の主力艦隊が文字通り無人の荒野を行くが如く絶対防衛圏内を悠々と進む。
ほとんど警戒らしい警戒すらしていない。
というのも、絶対防衛圏内には先ほど戦ったダイダロスクレーター基地の宇宙軍主力艦隊と地球軌道艦隊以外の戦力が存在しないためだ。
他にある宇宙軍の戦力と言えば太陽系警備艦隊がある。
しかしその艦隊は文字通り地球から遠く離れた宙域を警備する無人の航宙艦SAのみの戦力であり、今から呼び戻したとしても地球に火星艦隊が到着するまでに間に合うのは不可能だった。
この辺りの情報も、地球と火星の八百長の結果共有されていた情報である。
さらに言うと、火星側がハストゥール級やアウリンと言った戦力を秘匿していたのに対し、地球側は馬鹿正直に本当の戦力を伝えていた上にその裏付け情報まで一部の議員が融通していた。
だからこそ、唯一の戦力を撃破した火星艦隊はただ一つ残った絶対防衛圏内の戦力である異世界派遣軍の13個艦隊を撃滅するべく進む。
文字通りならばルーリアトの13倍と言う強大な戦力だが、その大半が地球上の治安維持活動のために大気圏内に降下可能な戦力を降ろしているために戦闘力は皆無に近い。
シャフリヤールのように各艦隊の旗艦が高機動戦闘をしようにも、13隻の艦隊の格納庫には降下部隊のための物資が大量に積み込まれており、おおよそ戦闘に耐えうるような状況にはなかった。
だからこそ、重統制艦”フジウルクォイグムンズハー”の火星艦隊司令部は先ほど自分たちが倒した地球連邦宇宙軍主力艦隊の司令部と同じように状況を楽観視していた。
エメラルド・ラマに続き、今度は自分たちが地球軌道の虐殺をするのだ、と。
その楽観はちょうど地球と月との中間地点に四つの小さな物体がいるのを見つけても変わる事はなかった。
ルーリアトの惨状や戦訓を地球連邦軍が知らないのと同様に、彼ら火星艦隊もルーリアトで起きている出来事について無知だったためだ。
もしも、ルーリアトの月周辺で標準艦”ウメタロウ”とその指揮下の艦隊を襲った存在について知っていたならば、この戦争の初戦はだいぶ趣を異なったものにしていたに違いない。
その四つの物体とは、四人の女性達だった。
正確に言うと四体のアンドロイドだ。
通常のアンドロイドよりもかなり大柄な身長2m30cmの巨体をピッタリとフィットする特殊素材のスーツに身を包み、その上に戦闘機や戦車を彷彿とされる汎用装甲を身に着けている。
だが、それ以上に特異なのが脚部と背部に装備している巨大なメカだった。
強化機兵の脚部と戦闘機と航宙艦のパーツが複雑に入り組んだようなその装備によって、彼女達は小型艦に匹敵する威容を誇っている。
中でも、両肩から伸びた巨大な腕の様なパーツと武装を満載したウェポンコンテナ、槍の様に巨大な粒子砲は殺意に満ち溢れ、鋭利な指先は悪魔のそれを思わせた。
彼女達こそ地球連邦の大統領直轄の武装組織である親衛隊の一員にして唯一の戦力。
かつての要塞歩兵構想の一翼を担っていたポリーナ大佐の四人の妹、狂気の科学者デグチャレフ博士の遺物。
アーニャ・コンキスタドロフ准将
オリガ・ヴォイノフ准将
キラ・ゴロドフ准将
ナディア・スメルトフ准将
地球連邦軍には存在しない将官のアンドロイドであり、通常空間戦闘ユニットを装備して二交代で大統領の傍で待機する最強戦力。
それが全機揃い、火星艦隊を待ち受けていた。
『あー、こちら楊文理だ。地球の荒廃この一戦に有り。オールウェポンズフリー……敵を殲滅せよ』
サンフランシスコのゴールドハウスからの通信がきっかけだった。
黙示録の四騎士が如く。
宇宙を駆ける重騎兵が火星艦隊へと襲い掛かった。
彼女達の動きはポリーナ大佐のそれを上回っていた。
技量、という意味では互角か、むしろポリーナ大佐の方が経験の差で上だったが、装備が違った。
彼女達が装備する空間戦闘ユニットは昨年更新された文字通りの最新のものだった。
項羽級にも搭載された最新型の粒子ビーム砲を小型化したモデルにAI制御により反物質を状況により自動的に噴射、温存、自爆するようセットされた小型マイクロミサイル。
そして高出力の力場とレーザー、プラズマのハイブリットタイプの大型ブレード等、全てがポリーナ大佐のものよりも数世代進んだ装備だった。
彼女達は見知らぬ兵器である彼女達に初動が遅れた所を強大な戦列に入り込まれ、瞬く間に艦隊を寸断された。
さながら長槍を構えた重装歩兵戦列が短剣を携えた軽装歩兵に内側から破壊されるが如く。
機関銃と鉄条網に防御された塹壕戦が浸透戦術によって破壊されるが如く。
四人の騎士がただひたすらに蹂躙していく。
しかもただのゴリ押しではない。
統制艦や分艦隊旗艦と言った重要な艦を狙い撃ちし、各艦自体も爆散ではなく艦橋や推進能力だけを奪い、置物同然の足手まといを着実に増やしていく。
四機が一通りの武装を使い切った頃には大破した標準艦と制御を失った投射艦、防護艦が立ち尽くす有様だった。
この太陽系戦線の第二戦は地球側の勝利と言っていい状態で終わりを告げたが、無論これで双方の手札が尽きたわけでは無い。
補給を終えたハストゥール級二番艦エメラルド・ラマとアウリン第二大隊。
そして格納庫から余剰物資を慌てて廃棄してかろうじで戦闘可能な状態になった三隻の戦艦。
地球連邦軍と火星艦隊の次鋒が態勢を整え、地球から20万キロの地点で睨み合うこととなった。
ちょっと多忙&疲労状態で遅くなりました。
申し訳ありません。
次回更新は4月23日の予定です。




