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状況その1 太陽系戦線―1

 火星より進発した宇宙艦隊は総数約1000隻。

 おおよそワーヒド星系に襲来した艦隊と同規模だった。


 重統制艦、統制艦を中心とした投射艦と防護艦主体の主力艦隊約700隻。


 標準艦300隻を中心とした300隻。


 そして、真の主力を務める艦隊旗艦であるハストゥール級二番艦”エメラルド・ラマ”とその艦内に搭載された総勢100機のアウリン第二大隊。


 これらが堂々たる艦列を組んで一路地球を目指し侵攻したのだ。


 地球側はこれに対し当初は通常通りの対応をとった。

 即ち、外交チャンネル及び火人連へパイプを持つ官僚や政治家を介した落としどこをを探ったのだ。


『事前申請の無い大規模宇宙船団の航行は禁止されている。即刻火星に引き返し、申請済みの施設に帰還せよ』


『政府がうるさいから、演習を一時停止……せめて火星近隣のものに切り替えてよ?』


『ケイン議員が忙しい時にやめてくれたまえ! 挑発するときは事前に相談してくれとあれほど……』


 この段階では例のスルト大佐によるナンバーズ暴露演説前だったためこのような対応だったが、当然のごとくこの対応は黙殺された。

 このことに火人連にコンタクトをとった当人たちは困惑した。

 ある意味当然ではあった。

 火人連との関係とは、即ち建国以来の八百長だったからだ。


 火人連側は地球との対立を通して自分たち政府の正統性を得つつ、食糧や技術を地球から得る。

 地球側は政治や経済、民意のための都合のいい横車を押す舞台装置として。


 互いに互いを必要とし、事前相談をしつつ都合のいい行動を互いにとる。


 それが火人連と地球連邦との関係だった。


 それは一木が悲劇に見舞われたギニラス事件ですら例外ではない。

 あの事件によって、火人連は新型サイボーグの実戦試験を(最強のサイボーグを失うというイレギュラーこそあったが)。

 地球連邦は火星サイボーグ対策名目の国防費増額と、異世界派遣軍軍人の危険性を喧伝するという政府、反政府双方の立場から利益を得ていた。


 だから突然の宇宙艦隊の出現と言う事態に際しても、対火星強硬派ですら安穏としていたのだ。


『どこかのだれかが火人連と取引しているのだろう。根回し不足で困ったものだな』と。


 この考えが甘かった事に誰もが気が付いたのは、スルト大佐によるナンバーズ告白演説と楊大統領により火星による侵攻が宣言されてからだった。


 そして、その時点でも考えの甘かった火人連のシンパの多くは、家や職場に踏み込んできた少女型の歩兵型SSによって逮捕され、シリアやイラン、北朝鮮に設置された特別収容施設に収監されることとなった。

 彼らは拷問のプロ直伝の技術を持つ内務省のアンドロイドにより、この世の地獄を見る事となる。


 こうして八百長プロレスを一方的に破棄した形となった火人連に対して、地球連邦政府が取った対応はシンプルだった。


 地球軌道を守る地球軌道艦隊と月面の裏側、ダイダロスクレーターにある基地に駐留する宇宙軍主力艦隊を出撃させ、侵攻する火人連艦隊の迎撃に向かわせたのだ。


 地球軌道艦隊の十個護衛戦隊と十個水雷戦隊、そして司令部艦隊合わせて200隻。


 そして主力であるダイダロス基地の宇宙軍主力艦隊、通称ビックナイン


 ワシントン級宇宙戦艦から物資輸送能力をオミットし、その分のスペースを武装強化に充てた宇宙軍専用の改ワシントン級宇宙戦艦


J・F・ケネディ


広東


ピョートル・ヴェリーキー


クイーンビクトリア


ヤマト


ジュリオ・チェーザレ


エウロペ


世宗大王


アーリシュ


 の九隻を主力とした地球絶対防衛圏艦隊だ。


 この九隻最大の特徴は、重巡洋艦と同型の粒子ビーム砲を旋回可能な連装砲塔に収めたものを二機装備した圧倒的な火力と、主要セクションに人間と艦のSA端末ではなく個体のアンドロイドを配した事による艦の効率的運用システムからなる高スペックだ。


 この二つの特徴により、宇宙軍は改ワシントン級のスペックを異世界派遣軍のワシントン級の四倍以上と喧伝していた。


 つまり火人連第二艦隊に対するこの艦隊の戦力は、単純に考えてシャフリヤール36隻と049艦隊以上の補助艦艇からなるという事になる。


 ワーヒドからハストゥール級の情報を得ていた宇宙軍首脳はこの時点で事態を楽観視していた。


 なぜなら、ハストゥール級と互角に渡り合い撃破寸前まで追い詰めたのは通常のワシントン級なのだ。

 それを上回るスペックの艦艇九隻に機動艦隊以上の数の補助艦艇が組めば、同規模の敵など恐れることは無い。


 それが宇宙軍首脳の判断だった。


 月から40万キロ程進んだ地点で火人連艦隊を待ち受ける事にした彼らは、華々しい実戦デビューを夢見ていた。


 自分たち自身も地球連邦政府によって捨て石にされている事にも気が付かずに。

 あえて細部をぼかした戦訓だけを伝えられて、敗北を前提に前線に赴いている事にも気が付かずに。


 そして、彼らの夢はエメラルド・ラマとアウリン隊がハストゥール同様の超高速機動で突撃を敢行した事で終わりを告げた。


 後に太陽系の戦いと呼ばれる一連の戦闘。

 その始まりであるダイダロスの虐殺はこうして開幕した。

明日も更新します。

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