第49話―1 追放皇女
「グーシュ……それにみんな。本当にすまなかった。この結果は全て俺のせいだ」
ようやく落ち着いたオダ・ノブナガ艦橋で一木が最初にしたことは謝罪だった。
上半身しかない身体で器用に床に転がりながら言った。土下座のつもりらしい。
「よせ一木。たしかドゲザだろその姿勢? 親と交わる以上の屈辱と聞く……」
グーシュがそう言うと、あっけに取られていたクラレッタ大佐とマナ大尉が一木に駆け寄って身を起こした。
「そうですよ一木さん、およしになってくださいまし」
「弘和君……」
「いいや、俺が……俺が引き際を誤ったんだ。もっと早き引いていれば師団のみんなも艦隊も……」
なおも続く一木の謝罪に対し、グーシュは大きめのため息をついた。
(こりゃあ謝罪じゃない……自分の心を宥めてるんだ。まあ、無理もないが……)
「そう言うな一木。だいたい、お前がそんな事を言ってはわらわの立場がないだろう? お前がギリギリまで粘ったのはわらわの立場を守るためなのだぞ」
「それは……」
グーシュがそう言うと、一木は目に見えて狼狽えた。
いつもの様にモノアイがクルクルと回りだす。
「お前とみんなの判断と努力があってわらわは故郷での立場をある程度とはいえ維持できたのだ。お前がそこまで謝罪するのならば、わらわも謝罪せねばならぬ」
そう言うとグーシュは自ら床に膝を付き、両手首をピッタリとくっ付けてアンドロイド達の方に差し出した。
剣を持つ両の手を切り落としても構わない。
そのような意図を込めてあルーリアトにおける最大の謝罪姿勢だ。
「やめてくれグーシュ! 君が……」
「ならば胸を張れ!」
グーシュは手を差し出したまま大声で言った。
ノブナガの端末だけだ空気を読まずにグーシュにすり寄っていた。
「お前はわらわの政治的立ち位置を維持したままワーヒド星系から脱出するという目標を達成したのだ。ならば、お前がすることはなんだ? 部下や協力者に対しうじうじめそめそ謝罪する事か? 違うだろ!」
グーシュは両手を一木の方へと向けなおした。
それを見た一木が気圧される様に呻いた。
「誇れ! 犠牲に見合う成果を上げ、脱出に成功したと誇れ! 自分のせいではない、自分と皆の結果を誇れ! 例えどんなにそれがツラかろうとも……な」
そこまで言うと、グーシュはそっと顔を上げ一木を睨みつけた。
「それが嫌で、自分の心の安寧のために謝罪したいと言うのならば……好きにするがいい。わらわも何も言わん。だがな、艦隊と師団をズタボロにした理由であるわらわの手は切り落とせ。あくまでも謝罪するというならばそれがアンドロイド達への筋であろう」
「そんな事できるか!」
一瞬の迷いもなく一木が叫んだ。
それを聞くと、グーシュはスッと顔を上げて一木の方を見た。
先ほど睨みつけた時とは違う、優しい笑みを浮かべていた。
「ま、お前ならそう言うだろうと分かってやったんだが……切ると言われたらどうしようかと思ってたんだぞ? なにせ手がなくちゃ殺大佐のアソコをまさぐれないからな」
「いやまさぐるなよ」というツッコミを無視してグーシュはカラカラと笑い、一木の頭を軽くポンポンと叩いた。
「お前は優しい男で、そこがいい所だがな。だが優しさとか腰が低いとか、そう言う事は場と状況次第では逆効果なのも覚えておけよ。お前が嫌いな偉そうとか、謝罪しないっていう態度も時には必要なんだよ。覚えておけよ」
そう言うと、グーシュはノブナガの端末を手招きした。
端末は嬉しそうに近づいて顔を寄せた。
「名モニターにルーリアト……惑星ワーヒドを映してくれ」
「ここからだと随分小さいですが、拡大しますか?」
「ああ、最大望遠でな」
グーシュが頼むとすぐにもメインモニター一杯にワーヒドが映し出された。
ほとんどが海洋の青い青い惑星の小さな大陸が見えた。
誰ともなく、嘆くような声が漏れ出た。
「……故郷よさらば……しばしの別れだ。皆も見送ってほしい。そして、全ての犠牲者に祈ってほしい」
グーシュが告げると、全員が俯き黙とうした。
多くの人間が、機械が散ったり散らしたりした、ついさきほどまでいた惑星の事を思い、誰もが心の中でそれぞれの思う愛しい人や物へと祈った。
ただ、グーシュだけは祈らなかった。
「少し、一人にしてくれ」
小さく一木に囁く。モノアイが光り、心配そうにグーシュを見た。
「大丈夫だ。心配するなよ、ちょっとだけ、ちょっとだけ気持ちを整理するだけだ」
「けどグーシュ……」
「わらわが落ち込むように見えるか? だいたいな一木。わらわはルーリアトを追放されたんだぞ? この意味が分かるか?」
グーシュの問いにモノアイがクルリと1回転した。
「追放した奴は酷い目にあい、追放された奴はここから成り上がるんだ。なろう物の常識だぞ?」
「ふふ……そうだな。その通りだ。ここからが君の物語の本番だよな」
一木の頭をまたポンッと叩くと、グーシュはノブナガの端末を伴って艦橋を後にした。
皆が見る背後のワーヒドをよそに、重巡洋艦オダ・ノブナガは空間湾曲ゲートの鏡面へと迫っていた。
更新が遅れて申し訳ありません。
今日中にもう一回更新します。




