第48話―6 光
陽電子シールドと反陽子砲。
地球連邦軍で開発中の次世代装備で、戦列艦で使用されている重金属粒子シールドと、重巡洋艦の粒子ビーム砲を代替することを目的としたものだ。
陽電子シールド。
これは従来戦列艦が装備していた重金属粒子シールドを更新し、さらに主要大型艦へ装備艦を拡大することを目論んだ防御兵装だ。
重金属粒子シールドが構造上展開したままの移動に大幅な制限が加わるのに対し、陽電子シールドは艦首に磁場によって固定した陽電子を用いた壁を生成するため展開したままの戦闘機動が可能という特徴がある。
さらに敵弾命中時にその弾頭を粒子ビームによって破壊するという構造上、一定以上のサイズや強度の攻撃は防げなかった重金属粒子シールドと違い、衝突した物体を対消滅させるためほぼ無制限に攻撃を防御可能という夢の様な防御装備なのだ。
反陽子砲も同様に従来の重金属粒子を用いたビーム砲を反物質である反陽子を用いるものに変更した武器である。
これは従来の粒子ビーム砲とは違い、命中した対象を砲に用いた反陽子と対消滅させつつそのエネルギーによって破壊するという革新的な兵器で、いわば敵の命中箇所自体を爆弾に変えて撃破するという凄まじい兵器だ。
この点反物質を装填した誘導兵器と同じではあるが、迎撃のリスクや推進剤という枷のあるミサイル類と違い、亜光速で射出される反陽子砲の脅威は比較にならない。
この両者が実用化された暁には、地球連邦軍は将来遭遇が危惧される先進宇宙文明とも十分に戦う事が出来る。そう言われている。
長らく、言われている 長らく、言われている
実際には、この両者の開発は滞って久しい。
陽電子シールドは研究所の実験室では生成可能かつ防御出来たものの、いざ宇宙空間でとなると磁場と陽電子の制御に難があり、その上宇宙特有の様々な物質や現象の影響により、生成すらおぼつかなかった。
さらにいざ標的弾をぶつけてみると、対消滅時のエネルギーをシールドの補強と拡大に用いる機構が上手く働かず、陽電子シールド展開艦が損傷を追うほどの爆発が生じてしまう。
つまり、敵弾を防ぐたびに大爆発する盾を想像してもらえばわかりやすい。
これではおおよそ実用的な装備とは到底言えず、近年では試験艦に搭載しての実験からも遠のいていた。
反陽子砲はより酷かった。
エデン星系で行われた最初の実験において、試作陽電子砲は発射と同時に自信が生成した反陽子によって砲自体が対消滅。ギガトン級と言われる巨大な爆発を起こし、一切の実験設備と実験に従事していた艦艇を巻き込んで文字通り消滅した。
これ以来、反陽子砲は実地実験すら行われずコンピューター上の仮想空間でのシミュレーションのみが行われるだけになった。
いちいち研究設備と運用者を吹き飛ばしていては元も子もないので当然の判断だった。
この長い長い停滞を突き破った……否、突き破るために計画されたのが項羽級重巡洋艦だった。
このボリバル級を代替するべく開発された最新鋭の重巡洋艦は、その設計に最初からこの二つの最新兵器を盛り込んだものになっていた。
ほとんどの軍関係者と政治家、官僚からは無駄飯ぐらいとの評価を下された実験だったが、それでも着実に積み上げられたその成果は結実し、実験成功の芽を官僚と政治家に納得させる程度の成果を上げていたのだ。
こうして承認され、建造された項羽級重巡洋艦は一番艦と二番艦の項羽、ジャンヌ・ダルクを新装備開発の実験部隊へ。
三番艦のオダ・ノブナガ以降の艦には反陽子砲実用化までの繋ぎとして開発された新型粒子ビーム砲を搭載し、現場へと配備されることが決定。
両者は偶然にもある程度近い距離の星系でそれぞれの任務に付き、そのうち項羽とジャンヌダルクは支援部隊と共にシールド及び砲の初めての実験を行う、予定になっていた。
その予定をぶち壊しにする、とある情報が入るまでは。
その情報の提供者は、前潟美羽代将。
異世界派遣軍史上最年少で打撃艦隊司令候補生試験に合格した才女にして、(情報提供時は)連邦議会議員の娘。
彼女がもたらした、ワーヒド星系の部隊が危機に瀕しているという情報を受け、項羽とジャンヌダルク。
そして実験監督官であるとある男がワーヒド星系へ援軍として向かうことを決定したのだ。
その男の名は黒野和己少将。
第21独立旅団、通称ザンスカール旅団旅団長にして、ギニラス事件の際実地研修中だった一木の教官役を務めていた男である。
今回色々と多忙のため中途半端な内容で申し訳ありません。
もしかしたら後程修正等あるかもしれませんが、一旦ご了承ください。
次回更新は3月24日の予定です。




