第48話―4 光
オダ・ノブナガを中心とした球陣形を組んだ異世界派遣軍艦隊はゲート鏡面へと突撃を敢行した。
だが、先ほどまでとは違い壁になる敵艦がいない。
そのため火星艦隊は火力を全て、しかも異世界派遣軍艦隊の前後から発揮することが出来た。
「さらに損害を増やしおって……報いは受けさせてやるぞ! 撃て、撃て、撃て撃て!」
クワベナ少将が叫ぶと同時に挟み撃ちに持ち込んだ火星艦隊による壮絶な砲撃が開始される。
お馴染みの250mmレールガンだけならば迎撃も間に合っただろうが、距離が5000以下となった事から攻撃には200mmレーザー砲と40mm機関砲によるものも混ざっており、もはや迎撃は困難となっていた。
特にレーザー砲による攻撃は今の異世界派遣軍艦隊にとって困難をもたらした。
というもの、レールガンを始めとする実体弾兵器が迎撃可能なのに対して、レーザー砲や粒子ビーム砲といった非実体兵器はそれが実質的に不可能なためだ。
ポリーナ大佐が用いた様な微細ガラス片を封入した対ビーム弾頭を炸裂させる事によりある程度防ぐことは可能だが、数には限りがあるし何より高速機動を行っている際には無力だ。
そうなると非実体兵器は通常どのように対処するかと言うと、回避機動を取る事が主となる。
レーザー砲は命中即撃破とはならず、現代の技術を以てしても損害を与えるまでに照射後数秒の時間を要するからだ。
これは発射前に同軸レーザーによる事前照射を行う必要がある粒子ビーム砲においても同様であり、これによって非実体兵器はレーザー照射を検知したと同時に回避機動を取ればほぼ損害無しに避ける事が可能な兵器なのだ。
つまり、逆に言えば非実体兵器は必ず回避機動を強要できる、という事でもある。
火星艦隊はこの点をよく熟知していた。
レーザー砲による攻撃によって回避機動を行った直後にレールガンによる攻撃を行ったのだ。
球陣形は互いに砲の死角を補い合うことにより迎撃、防御に特化した陣形である。
だがそれゆえに、回避機動によって各艦の位置が変わってしまえば死角が生じてしまう。
回避、迎撃、回避、迎撃。
このサイクルを異世界派遣軍艦隊に強いる事により、本来ならば迎撃できるはずの攻撃を撃ち漏らし始めた。
迎撃管制を行う護衛艦が挟み撃ちにより前後に分散した事も追い打ちになった。
レールガンの軌道を察知して適切に割り振る管制能力が実質的に半分になったからだ。
『モントゴメリー被弾! 粒子ビーム砲大破の模様……ダメです爆散しました』
『ハリソンに至近弾……姿勢制御困難のため回避能力が低下……シャーニナが曳航を試みます』
『イヨタケ、レーザー砲による破損確認……各艦装甲温度上昇のため対レーザー防御が限界です! ああっ、イヨタケが艦隊から落後していきます……シグナルロスト!』
艦隊情報を取りまとめているマンダレーからは次々と損害の報告が入る。
特に最後の報告は最悪だった。
撃破されたイヨタケを始め全艦がレーザー砲の照射を受けすぎて装甲温度が上昇しているのだ。
これまではレーザー砲命中後損壊までは数秒の猶予があったが、このままでは命中後即座に破損しかねない……。
『……一木司令』
メフメト二世はオダ・ノブナガの一木に通信を行った。
最後の手段。
オダ・ノブナガ以外の全艦で前後の敵に突撃を敢行し、生じた隙にオダ・ノブナガ単独で全力での反物質推進機動でゲート鏡面へ突っ込む。
分の悪すぎる賭けだ。
いくらG対策をしていてもそんな高機動にグーシュが耐えられる公算も無い上に、残存艦による突撃で隙が出来るかも怪しい。
『どうしたメフメト二世……』
一木の声が聞こえる。
時間の無い状況だというのに、メフメト二世は思わず沈黙してしまう。
自分の選択が地球連邦への大きな不利益となりかねない状況に、感情が悲鳴を上げているのだ。
『気にせず言うがよい。わらわはそなたたちの献身に感謝している』
グーシュがやたらと優しい声色で囁くように言った。
征服の父は不思議と心が和らぐのを感じた。
(……この異世界人は、他者の心の機微を察して言葉を紡ぐのだな……こう言う所がオダ・ノブナガが懐いた理由か)
妙な納得を得ると同時に、メフメト二世は決意して口を開く。
『……我々は』
『メフメト、ゲートが!?』
アウンサンが突然割って入ってきたのはその時だった。
メフメト二世が反応して空間湾曲ゲートを見ると、ゲート鏡面が強く発光しているのが見て取れた。
ゲートの向こう側から何かがこちら側に入ってこようとしているのだ。
その光は一見すると希望の様に周辺を明るく照らしていた。
「馬鹿な!? アセナ大佐……いくら何でも無茶だ!!!」
メフメト二世は思わず叫んだ。
空間湾曲ゲートの周辺には敵が密集している。
しかもその標準艦の群れは、後部に設置された砲を漏れなくゲート鏡面に向けているのだ。
ゲート通過のため減速した艦などいい的だ。
250mmレールガンで滅多打ちにされれば、たとえ粒子シールドを展開した戦列艦と言えども無事では済まない。
そしてアセナ大佐指揮下の艦隊には戦列艦は存在しない。
残存艦でゲートから逆侵攻などしても、メフメト二世達への支援どころかゲートの向こう側を制圧されるリスクにしかならない。
『メフメト!? 後方の敵が広がりつつ距離を詰めてきている……俺たちを追い立てる気だ!』
後方を担っていた重巡洋艦クリス・カイルが悲鳴の様な声を上げた。
やはり、ゲート逆侵攻は悪手だったのだ。
現に敵は好機と見て、異世界派遣軍艦隊を追い立てに掛かった。
このままメフメト二世達を撃滅した後、後方の艦隊を鏡面に突撃させて一気にゲートの向こう側をも制圧する気なのだ。
『空間湾曲反応検知! ゲートから何かが出てきます』
メフメト二世は思わず天を仰いだ。
しかし、彼にはどうすることも出来ない。
ただただ、ゲート通過時のまばゆい光が周辺空域一帯を照らすのを見るしかなかった。
次の瞬間、ゲート鏡面から現れた物に対し、火星艦隊は一斉にレールガンを放った。
回避など出来るはずもない。
数十の250mmレールガンが命中し、ゲート鏡面は爆炎に包まれた。
次回更新は3月18日の予定です。




