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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第48話―3 光

 爆散した標準艦の破片が周囲に降り注ぐ。

 宇宙空間に置いて生じたそれは地上よりも格段に危険な存在だ。

 空気抵抗や重力から解き放たれ加速し続けるそれは、生半可な兵器を凌駕する威力を持つ。

 実際に今もすぐ横にいた標準艦が大量の破片を浴びて大破している。


 だが、メフメト二世はそれを見ても進路を変えない。

 破片と残骸の中を傷つきながらも突き進む。

 艦首に仁王立ちする端末が見る間にボロボロになるが、それでもヤタガンで進路を示し続ける。


『敵艦隊の中を通り抜けろ! 敵を盾にして進み続けろ! 進め、進め、進め!』


 そうして先頭でメフメト二世が指揮する中、オダ・ノブナガの前、つまり戦闘に参加する重巡洋艦の一番最後尾を行くのが重巡洋艦アウンサンだった。


 アウンサンは最後尾で艦隊全体を見ながら、各艦に指示を出していく。


『セテワヨはメフメト二世と主砲を交互射撃し進路を開けてください。後続各艦は主砲を全方位に向けつつ敵を補足と同時に即時攻撃。2598戦隊はクリスカイル以下主砲射撃体勢で待機しつつ副砲で攻撃、私からの指示あるまで主砲攻撃は温存して敵襲に備えてください』


 その時、アウンサンの前で攻撃よりも索敵に集中していた重巡洋艦ペク・ソンヨプから警告が発せられた。


『アウンサン! 後退中だった敵中央部から6隻が分離。こちらへの増援だ』


 その報告に対し、アウンサンは即座に対応を取る。


『了解。2598戦隊はイエロー、168、チャーリー60に主砲一斉射。敵中央部へ牽制。その射撃に主砲右指向艦は追随せよ』


 三発の粒子ビーム砲が命令とほぼ同時に放たれ、中央部から分派して急行していた6隻の標準艦は回避のため動きを止めた。

 さらに次いで主砲を右方向に向けていた重巡洋艦によって放たれた粒子ビーム砲に、瞬く間に分派艦隊は殲滅されていく。


 こうした先頭のメフメト二世と後方のアウンサンによる指揮によって艦隊は火星艦隊右翼を瞬く間に突破していった。

 他の艦隊からの増援にもそのつど2598戦隊による一斉射撃を軸とした砲撃を加え牽制、殲滅していく。


『ゲート鏡面まであと5000……何とかこのまま……』


 先頭を行くメフメト二世の撃破数は既に10隻に迫ろうとしていた。 

 艦隊自体の細かな管理と指揮は副官のアウンサンに任せ、自身はただひたすらに道を開くことに集中する。


 この突撃は速度が命だ。

 敵に立て直しの時間を与えては全てが終わる。


 だからこそ、幾度か特攻同然の逆突撃を仕掛けてきた足止めの標準艦を機動力で躱し、少し後方で防御陣形を取ろうと密集し始めていた敵に果敢に挑み、反撃の芽をつぶしながら進み続ける。

 幸いな事にアウンサンによって後方分断を狙った動きも防ぐことが出来、ここまでは順調に艦隊は進み続けていた。


『よし……行けるぞ我が精鋭達! もうじき敵右翼艦隊を突き抜けて中央部へ……』


 火星艦隊は全集包囲のために艦隊外周部を薄く広げている最中だった。

 その外周部艦隊の一画である右翼艦隊を突破すればその先は中央部艦隊だ。

 ウメタロウを中心とする旗艦と中央部艦隊はゲート中心部まで後退していたが、包囲を狙っている外周部艦隊との間に隙間を作らないための作戦線を担う部隊がいる。

 右翼艦隊を抜けた後は、その作戦線部隊を盾にしながら中央部へと進む。メフメト二世はそのつもりだった。


『待ってくださいメフメト二世……おかしい。敵の右翼艦隊への支援が少なくなって……』


『どういうことだ……何!?』


 アウンサンの警告の直後、右翼艦隊最後の防御ラインを越えたメフメト二世は驚愕した。

 本来ならば敵艦隊中央部まで続く筈の作戦線部隊が途絶え、何も無い空間が広がっていたからだ。


『やられた……奴ら、右翼艦隊をとっくに捨てていたのか』


 メフメト二世は悔しそうに呻いた。

 敵の只中を進み、近距離戦闘で敵を潰しながら進むこの戦法ならば数的不利を覆せるはずだった。


 しかし敵の対応はメフメト二世の……いや、アンドロイドのそれを上回っていた。

 

 クワベナ少将は異世界派遣軍艦隊に喰いつかれた右翼艦隊を早々に本体から切り捨てて、その戦力をゲート中央部と異世界派遣軍後方に回り込む艦隊とに二分したのだ。


 確かに最適解ではある。

 喰いつかれて壊乱した味方を捨てて、効果は高いが構築に時間のかかる全集包囲隊形を諦めてシンプルな挟み撃ちに持ち込む。


 だがここまで簡単に味方を捨てるという行為を簡単に成せるという事実を、メフメト二世達は予想できなかった。


『ふっ……人間の感情を利用したつもりが、逆に感情を読み違えたか』


 メフメト二世は火星艦隊司令部の”恐怖”を利用してこの態勢に持ち込んだが、逆にその”恐怖”によって窮地に陥った。


 クワベナ少将達にとっての恐怖とは死や敗北では無かった。

 その恐怖の源泉とは”名誉や出世の喪失”だったのだ。

 アンドロイドによって好機を逃し、裏をかかれ異世界派遣軍指揮官と残存部隊という功績を逃す。

 その恐怖が故に、彼らは指先に喰いつかれた右腕をいきなり肩口から切り落とすような所業を行えたのだ。


 だが、その過剰反応じみた損切。

 異世界派遣軍が出来ずにここまで損害を被ったその決断が、メフメト二世達を追い詰めた。


『ゲート中央部以外の敵艦隊が急速に合流しつつあり! 我が艦隊の後方に展開!!』


『ゲート中央部艦隊に右翼艦隊から離脱した艦が合流しつつあります』


 敵艦隊を突破したとほぼ同時に、異世界派遣軍は挟み撃ちにあっていた。

 気が付かれないように全集包囲と右翼艦隊支援の振りをし続けながら……見事な艦隊運動と言わざるを得ない。


『……まいったなこりゃ』


 努めて軽い口調でメフメト二世は言った。

 絶望した声色など使った時の一木やグーシュの気持ちを考慮したからだ。

 実質的な敗北と言って差し支えない状況だが、まだ可能性があるならば諦める訳にはいかなかった。


(……一木司令、命令を完遂出来ず申し訳ありません。ですが、オダ・ノブナガだけは逃がします)


 心中で謝罪すると、メフメト二世は次の指示を行った。


『オダ・ノブナガを中心に距離を開けつつ球陣形! 全艦突撃! オダ・ノブナガを守りつつゲート鏡面へ突っ込め!』


 遮蔽物も何もない空間を行くには単縦陣は脆すぎるし、挟み撃ちの状態でオダ・ノブナガを後方にも置けない。

 しかし防御力こそあるが、球形陣は実質標的になるような陣形だ。

 それでも、ここに至っては選択せざるを得ない。


 長かったワーヒド星域会戦が終わる時が近づいていた。

次回更新は3月16日の予定です。

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