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第7話 誘いと急報

もう寝ないとやばい。

細かい調整は後ほど。

結局、演習はその後突撃してきた王国軍をフェンスで足止めし、敵軍正面の車両部隊と両翼に伏せていた歩兵部隊の射撃で殲滅。敗走した所を背後の森林地帯に待機させていたB、C基幹連隊で包囲して、降伏させた。


 その段階でこの日の演習は終了し、今は一木、マナ、ジークの三人で一木の部屋へと向かっていた。


「君はすごく見所があるよ」


「いや、無理に褒め無くても……」


 歩きながら、ジーク作戦参謀はやけに上機嫌に一木を褒めた。あの後も細々と注意された一木としては、お世辞を言われているようで真に受けることが出来なかった。


「厳しめにあれこれ言ったけど、今日行ったことなんてそれこそ僕たち参謀が一言助言すれば済むことさ。君は何か手を打つとき、慎重に考えて、情報を精査して、結果を想像して動いてる」


「当たり前のことでは? 」


 一木としてはますます疑いを深めてしまう。


  エリートビジネスマンが赤ん坊の頃から学習したなら話は別だろうが、ただのサラリーマンだった自分が二年間基礎訓練レベルの学習をしただけで、プロの軍人から褒められるような軍略を発揮しているとは思い難い。


「意外と当たり前が出来ない師団長は多いのさ。ほとんど参謀に任せっきりっていう人間も少なくない。それに君は……」


 ジーク作戦参謀がスッと一木との距離を詰める。

 が、そこにマナ大尉が割り込んだ。

 しばしの沈黙。


「大尉、どうしたのかな? 」


「別に意味はありません、代将閣下の近くでサポートするのが副官の役割ですから」


「……そうか……そうかい。まあいいさ。一木君、君はアンドロイドを人間のように扱ってくれる。それが僕を含めて、みんなにとって心地いい」


「それ同期にも言われましたが、それこそ当たり前の事では? 」


「やっぱり自覚はなかったのか……ならいいさ。君のそういうところが師団のSS達にとっても心地いいんだろうね、今日の動きは格段に良かった」


 こういった場面の空気を読めないことにかけては、一木は絶大な自信を自らに抱いていたが、そんな一木でも分かったことがある。

 自分はこのジーク作戦参謀にやたらと懐かれている。

 先ほどから不機嫌な空気を隠さないマナ大尉をちらりと見て、これ以上親密な空気を出さないよう、一木は話題を変えることにした。


 しかし、こういったイベントは生身の頃。出来れば学生の頃に起きてほしかったものだ。


「そ、そういえば今日の演習で気になったことがあったんですが」


「なんだい? 」


「あの車載のRM2重機関銃なんですが、あれってもしかしてM2重機関銃の改良型なんですか? VRとはいえ自分の目で見ると似てるなーっと」


「改良型というか、使用弾薬を13mmにして樹脂薬莢に対応させただけで、ほとんど仕様は変わってないよ」


「ええ!? あれの採用って1933年ですよ? まさか230年も使われるなんて……」


 M2重機関銃。言わずとしれた口径12.7mm、高い信頼性と完成度の高さで、第一次世界大戦末期に開発された後、一木が生身だった二十一世紀初めの段階でも各国で使用されていた伝説的な名銃である。だがまさか、二十二世紀の宇宙の彼方でもマイナーチェンジして使用されているとは、驚きを隠せなかった。


「僕の頭部機関砲にも使われていたし、未だにああいった用途の銃であれを超える物は無いんじゃないかな」


 今、よくわからない言葉が……。一木はモノアイが音を立てるのもいとわず、ジーク作戦参謀の顔をじっと凝視した。どう見てもこの可愛らしい……いや小さな頭にあれが入っているようには見えない。

 すると、一瞬照れたような表情を浮かべた後、ジーク作戦参謀は慌てて説明した。


「ああ、僕は参謀型になる前は強襲猟兵だったんだ。その時にこめかみの部分に搭載されていたんだ」


「強襲猟兵! 」


 一木は思わず大声を上げていた。 強襲猟兵、全長8mの大型強襲用SA。要は巨大ロボットである。その名の通り衛星軌道上から降下して、目標を一気に制圧することを主任務とする兵器だ。


 存在を知ってから一度は見てみたかったが、異世界派遣軍でも配備数の少ない兵器で、将官学校でちらりと見学しただけだった。生身の頃からロボットものには目がなかっただけに、思わず前のめりになる。


「興味あるのかい? 」


「そりゃあもう。物心ついたころからアニメや特撮モノで巨大ロボットには親しんできました。一度でいいから本物を見て、触って見たかったんです」


「機動戦士シリーズなら僕も好きさ。猟兵時代もネットワークで映像を見て動きの参考にならないか試したりもしたんだ」


「本物の巨大ロボットが参考にするなんて……ちなみにどの作品が好きなんですか? 」


 いよいよ盛り上がってしまった一木に、ニコニコと笑顔を浮かべてジーク作戦参謀は応じた。

 一方でそのモノアイはマナ大尉の顔を視界に入れていなかった。


「僕はエックスやシードが好きでね。一木代将は? 」


「俺はやっぱり初代からニューが…………」


 数分後、盛り上がった会話は一木の部屋に到着したことでお開きとなった。


「では、代将。僕はここで失礼するよ」


「ええ、今日はありがとうございました」


 名残おしそうにジーク作戦参謀は作戦室に戻っていく。

 しかし、その帰り際。


「一木代将」


「はい? 」


「今もたまに、猟兵時代の感覚を忘れないように強襲猟兵の機体に自分を移して動かすんだ。今度……一緒にどうかな? 強襲猟兵を近くで見てみたいって言っていたから……その、いい機会ではないかと」


「ぜひ! 憧れの巨大ロボットを間近に見れるなら、お願いします」


「ああ。連絡するから、楽しみにしているよ」


 瞬間、ぱっと表情を明るくして、ジーク作戦参謀は去っていった。

 と、同時に一木の頭に強力な後悔がにじみ出す。


 自分はさっきなんと言った? マナ大尉の空気がやばいからこれ以上ジーク大佐とは親密にならないようにと……。


「自分の好きな話題をふられるとつい長々と喋ってしまう……陰キャの悲しいサガが……」


「一木代将……どうぞマナの事はお気になさらずに、作戦参謀と楽しんで来てください」


(あ、やばい。これやっぱり怒ってる……)


 危機感に苛まれる一木。すると、通路の影からダグラス首席参謀がふらりと現れた。


「いやー、一木代将、プレイボーイだね」


「茶化してるんですか……」


「そんな事はないよー。ジークも言ってたろ。君は私達を人間みたいに扱う、そこがプレイボーイって感じなんだよ」


「どういうことです? 」


 この話題は同期の人間からしばしば言われていた。一木はアンドロイド達に対し、人間のように接していると。あの頃はシキがいたので、あまり気にしていなかったが、たしかに全般的にアンドロイドに好かれていたように思う。


「普通、今の人間はパートナーのアンドロイドに対してだけ人間のように接する。それ以外のアンドロイドはあくまでアンドロイドとして接する」


「いや、そんな事は……」


「あくまで態度や意識的な物で、正直冷凍睡眠してた一木くんにはわからないだろうけど、それでも私達や今の人間には分かるんじゃないかな?」


 一木は急速に、自分が何か悪いことをしていた様な気分に囚われた。何かをやらかした事に気がついた様な強烈な居心地の悪さだ。


「まあ、別に悪いことじゃないから気にしなくても……まあようは、新婚カップルみたいな態度で会うアンドロイド会うアンドロイドに接していただけだから」


「最悪じゃないですか……」


 どう擁護しても最低のナンパ野郎以外の何物でもない。無意識に自分とはもっとも程遠い態度を取っていたとすると、やはり百四十年の文化、常識のギャップは大きいようだ。よもや二年以上も気がついていなかったとは思わなかったが……。


「いや別にいいんだって。あのムッツリ真面目キャラのジーク君が頭の中ハートマークになるくらいなんだから、悪いことじゃない」


 ハートマーク、のあたりでいよいよマナ大尉の表情が険しくなってくるのを感じて、一木はこの首席参謀が自分を困らせて楽しんでいるような気分になってきた。


 だが、表情を窺ってもニヤついたサングラス面からは何も読み取れない。


「で、なんの御用ですか?」


「いや、一木代将の懸案を解決するお知らせなんだけどね」


「?」


 怪訝な顔をする一木に、一枚の書面を取り出しながらダグラス首席参謀は告げた。


「派遣軍参謀本部からだ。『第049機動艦隊は現有戦力をもって異世界0135に向けて出撃、連邦勢力圏に組み込む事を命ずる』……」


 一木は驚愕した。この艦隊には一木の第四四師団一個しか地上戦力がいないのだ。


 この状況での出撃とは。



「当分ジークとのデートはお預けだね。さあ、サーレハ司令の所に行こうか? 」

御意見・御感想・誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


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