第46話―1 追撃
重巡洋艦張梁による自爆によって火星艦隊は一時的に索敵能力を失った。
その隙を縫っての駆逐艦部隊による反物質魚雷一斉射撃。
これは火星艦隊を軌道から叩きだすためのメフメト二世の切り札だったが、旗艦のクーリトルリトルはこれを統制艦を遠隔操作してぶつけるという恐るべき荒業で防いでみせた。
遠隔操作で乗員に無断で特攻させるなどという行為は士気を崩壊させかねない禁じ手だったが、密集隊形の艦隊中心部で反物質魚雷が炸裂するよりはマシだ、という捨て身の判断であった。
そして、これは功を奏した。
地球連邦軍艦隊の主力である重巡洋艦部隊は駆逐艦による攻撃で……少なくとも火星艦隊が攻撃困難な損害を受けると考え、密集した突撃陣形を組んでいた。
投射艦という個型艦艇を統制艦が操るという陣形ありきの火星艦隊は近距離での機動戦には不向きなため、距離を詰めるために手を尽くし、一気に突撃する事自体は正しい判断だからだ。
「だがそれが裏目に出たな! 全艦目標敵重巡洋艦部隊先鋒! 撃……」
火星艦隊司令の判断もまた、間違ってはいなかった。
起死回生の敵の一手を封じたのだから、続いて敵に痛打を与えようとすることは何らおかしいことではない。
だが、続いて起きた両軍予想外の出来事が全てを変えてしまった。
「提督! 駆逐艦が……」
オペレーターの報告が途中で遮られる。
反物質魚雷は小型艦である駆逐艦にとってあまりにも巨大で、うち尽くせば外から見ただけではっきりと分かる。
だからこそ、火星艦隊は反物質魚雷を撃ち尽くした駆逐艦を脅威とはみなさず、半ば放置していた。
駆逐艦の固定武装は貧弱で、アウリンや投射艦個艦にとってはともかく統制艦クラスには無害だからだ。
だから、通り過ぎると思っていた駆逐艦たちが一斉にクーリトルリトルに進路を変えたその瞬間まで、火星艦隊は何ら行動を起こせなかった。
「いかん、げいげ……」
クーリトルリトルに二隻の駆逐艦が衝突した事で提督の言葉もまた、途中で遮られた。
自爆装置も反物質も積んでいない純粋な質量による特攻だったため、クーリトルリトルは撃破にまでは至らなかったが、その最大の武器である大型の制御コンピューターが破損し船体自体も中波判定を受けるほどに損壊した。
これにより火星艦隊は文字通り統制を失い、そこに重巡洋艦部隊が殴り込んだ。
もはや戦場を制御する者は無く、統制艦と投射艦、後方からやってきた重傷のアウリン達やメビウスの残存機も交えた死の殴り合いが果てもなく続いた。
オダ・ノブナガが軌道に上がってくるまでになんとしても敵をここから叩きだす。
その一点だけを目指し、400mの船体を四方八方からのレールガンと粒子砲に焼かれながら英雄の名を持つ船たちは戦い続けた。
戦いは後方でアウリンを食い止めていたスパルタクスが爆散した事で一時火星艦隊の優位に進み、旗艦マンダレーが戦闘参加するまでに追い込まれた。
その後旗艦直掩の軽巡洋艦マプートが轟沈するにまで至り、ダグラス大佐は作戦失敗を覚悟したが、護衛艦部隊がアウリン隊の主力を撤退に追い込んだ事で決着を見た。出血に耐えかねた火星艦隊が軌道から撤退したのだ。
オダ・ノブナガが軌道に姿を現し、ダグラス大佐と一木、グーシュが通信で会話する僅か40秒前の事であった。
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