第45話―3 脱出
オダ・ノブナガが降下してしばらくは順調だった。
降下自体が敵の想定外だった事もあり、何ら妨害が入らなかったからだ。
道中海中から全長数百メートルの巨大生物が飛び出してきて危うく衝突しかける危機があったが、敷いていえばそれくらいしか想定外は起こらなかった。
想定していた妨害が入ったのはルーリアト大陸に近づいてからだった。
そう、七惑星連合軍は無能では無かった。
異世界派遣軍の決死の攻撃の最中にもオダ・ノブナガの降下位置と航跡を分析していた彼らは、その目的が一木達指揮官の脱出であると予想。
航空部隊を撃破し帝都に向かっていたアウリン第10中隊残存9機を予定進路に待機させていたのだ。
『グーシュ姉を助ける邪魔を……』
だが、妨害が入るであろうことは想定内なのだ。
レーダーと残存する監視衛星からのデータでそれを察知していたオダ・ノブナガは射程距離ギリギリの遠距離から攻撃を開始する。
『するなああああ!』
音声を直に発しての裂帛の気合。
それと共に主砲の同軸レーザー砲と一瞬の後に粒子ビーム砲、さらに反物質対艦魚雷を一斉に放つ。
圧倒的な火力。
命中しさえすれば何人たりとも生存は不可能な絶対的破壊。
とはいえそれは命中すればの話だ。
同軸レーザー砲が照射された機体が他の機体に通信を入れると同時に、アウリン第10中隊は素早く射線上から退避していた。
大気圏内使用のために反物質量を減らしたと言っても、その威力は核兵器に匹敵する反物質兵器だが、回避されては元も子もない。
無人の大陸沿岸のとある崖を湾に帰る程の圧倒的破壊が、なんら戦果を上げる事無く空しく散っていく。
『道を開けてくれてありがとう!』
だが、オダ・ノブナガにとってはこれでよかった。
重い対艦魚雷を捨て、それに加えて敵に道を開けさせさえすれば……。
爆炎ときのこ雲を突っ切って、音速を超える速度でオダ・ノブナガは突き進む。
背後からは怒りに燃えたアウリン達が必死に追ってくるが、オダ・ノブナガの速度には及ばないようで一定以上には近づいてこれない。
「ふぅ……メフメトの言う通り出し惜しみしないで撃って正解だった……ワシの考え通り撃ち合いなんかせんでよかった」
オダ・ノブナガは敵がこうして待ち伏せた場合相手を撃滅してから進むつもりだった。
大事なグーシュの所に敵を連れて行くわけにはいかないと考えたからだ。
だが、それではいけないとメフメト二世が対処法を伝授したのだ。
「とはいえ、これ以上突き放すのは難しい。カタクラフトとの合流時間が決まっている以上これ以上減速も加速も出来ない……」
パラパラとアウリン隊から飛んでくる機関砲弾と荷電粒子に気を付けながら、オダ・ノブナガは必死に飛び続けた。
そうしてしばらく後……。
「見えた! カタクラフト……グーシュ姉だ……グーシュ姉!!!」
オダ・ノブナガから見て鈍重な速度で飛ぶカタクラフトがようやく見えた事で、思わずオダ・ノブナガは感情を爆発させた。
しかし、ここからが肝心なのだ。
最大速度マッハ1程度のカタクラフトを回収するために、オダ・ノブナガもそこまで減速しなくてはならない。
即ち、背後にいるアウリン隊が接近してくる。
オダ・ノブナガは覚悟と共に対空ミサイルと背後に指向出来るありったけの砲で敵をロックオンした。
※
ジーク大佐とシャルル大佐の生存(ジーク大佐の場合厳密には違うが……)に沸くカタクラフト機内だったが、重巡洋艦オダ・ノブナガとの豪中地点に到着するとさすがに空気がピリピリとしだす。
『オダ・ノブナガ後方12000に敵影! 数9……アウリン隊です!』
アウンからのこの報告を聞くと、それはピークと化した。
衝撃に備えるための作業が開始され、一木とグーシュはさらにベルトで固定され、あまつさえグーシュはGに耐えるための衝撃吸収マットに全身を覆われた。
さらに、もはや出番が無いであろうドアガンや物資の一部の投棄まで始まり、緊張感はさらに増していく。
「……どんどん加速しているな」
そんな中、一木がポツリと呟いた。
『はい、その通りです。通常の最大速度時速960kmを越えてマッハ1まで加速する予定です。これ以下だとオダ・ノブナガの大気圏離脱が不可能になりますので』
すかさず答えてくれるアウンだが、ここで一木は根本的な疑問を口にした。
「いや、そもそもこの巨大なカタクラフトをマッハ1でどうやって重巡洋艦に収容するんだ?」
「収用など出来ませんわ」
一木の疑問にあっさりと問いを……問いと言えるのか分からぬ答えを返したのはボロボロの上着を脱ぎすて上半身裸になったクラレッタ大佐だった。
「え」
一木は思わず呻き、クラレッタ大佐をモノアイで見つめる。
裸体となった上半身だけ見ると、格闘家の如き引き締まった体で彼が男性型アンドロイドであることがありありと感じ取れた。
明日も更新します。




