第44話―4 決着その四 一木弘和と神来華子
「くっ……殺せ!」
ジンライ・ハナコが叫ぶ。
殺大佐はチラリとクラレッタ大佐の顔を見た後、中華刀を持ってジンライ・ハナコに近づいていく。
「そうはいかない。悪いけどあんたは貴重なフルオリハルコン製ボディの持ち主だ。ちょうど両手がぶっ壊れてるから、足も切って捕虜にさせてもらう」
そう言って殺大佐はジンライ・ハナコの首を押さえ付けると床に押し付けた。
彼女は足掻こうと足に力を込めるが、その足をクラレッタ大佐が動かないように踏みつけた。
「殺、急いでくださいまし」
「あいよっと……」
軽い声と共に殺大佐が中華刀をジンライ・ハナコの右太ももの付け根に振り下ろす。
「ぐっ!!」
ジンライ・ハナコの口から噛み締めた様な悲鳴が上がり……。
「あれ?」
次いで拍子抜けしたような声が口から漏れた。
ジンライ・ハナコが恐る恐る自身の脚を見ると、相も変わらず胴体に付いたままだ。
なぜ? という疑問が当然のように生じたが、その理由がすぐに分かった。
ジンライ・ハナコを押さえ付けていたアンドロイド……殺大佐の肩から上の部位がすっかり消え失せていたからだ。正確に言えば、ジンライ・ハナコを押さえ付けていた左手だけが残っている。
「下がりなさい殺!」
ただコアユニットだけは残っているようで、クラレッタ大佐が指示を出すと下半身だけでヨタヨタとカタクラフトに戻って行った。
ジンライ・ハナコが何が起こったのかと周囲を見回すと、カタクラフトが突入してきた方向とは真逆の方向の壁に長方形の穴が開いていた。
まるで溶けたように赤熱した石壁が、そこから粒子ビームが飛び込んで来たことを示していた。
「ハナ!!!」
次いで聞こえた大音声を聞き、思わずジンライ・ハナコの口から声が漏れた。
「ヨヌ……!」
ジンライ・ハナコの呼び声に応える様に壁が勢いよく崩落し、巨大な何かが突っ込んできた。
それは、ポリーナ大佐の兵装によく似た巨大な第三種兵装に身を包んだRONINNのハン少尉と、弾三種兵装の巨大なウェポンアームに乗り込み一緒に突撃してきたヴァルマ大尉とルモン騎士長の三人だった。
「特務課は……くっ……動くな!」
クラレッタ大佐が慌てて拳を構える。
彼が最終防衛圏の特務課の状況を走査した時、主力自体は健在であるもののパウエル重戦車を主軸とした主陣地は壊滅していた。
殺大佐が中華刀を振りかぶったまさにその時までは交戦中だったので、今眼前にいるRONINNと騎士長にたった今やられたのだ。
しかも敵は見るからに飛行可能な装備。
鈍重なカタクラフトでは逃走は困難……。
しかも騎士の老人は強襲揚陸艦すら撃沈可能な粒子ビームを放てる……。
「ヴァルマ大尉ならご存じでしょう? 私の拳ならばジンライ少佐を一撃で屠れましてよ!!!」
だからこそ、今まさにジンライ少佐の命の価値は最大限に上がった。
艦隊までの切符として絶対に手放すわけにはいかない。
「てめえ! ハナに傷一つ付けてみろ、ぶっ殺すぞ!」
ハン少尉が三種兵装に付いた大型の機銃を向け、
「……クラレッタ殿、武人らしく諦められよ。降伏するのならば悪くはせん」
ヴァルマ大尉が背中に力場を発生させる。
(絶対に勝てないですわ……ああ、もう時間が無いのに……)
歯噛みするクラレッタ大佐はここに至り覚悟を決めた。
自分が残ってジンライ少佐を人質にした隙に、カタクラフトを逃がす。
もう一木も殺大佐も搭乗済みだ。後はクラレッタ大佐の命令一つで離陸できる。
ならば、こうして人質を取って膠着している間にノブナガとの合流地点までカタクラフトを逃がす。
(そうしたらジンライ少佐を殺して、あとは一人でも多く道連れにしてやりますわ……)
クラレッタ大佐がその覚悟をカタクラフトの面々に通信しようとしたその時だった。
「武人がそのような事をしてはいかん。だが、主君を逃がそうとするその意気やよし。どうじゃ、ジンライ殿を離すのならば我らは手出しせん」
ルモン騎士長が突如として口を開いたのは。
「論外ですわ! 人質無しでどうしてあなた方の行動を信頼できまして!? アンドロイドを憎んでいるあなた達の事を……」
ルモン騎士長の提案を、当然だがクラレッタ大佐は即座に否定した。
ここで言う通りジンライ少佐を解放して、どうして敵が逃がしてくれるだろうか。
いくら何でもそこまでお人好しではない。
「ならばこれでどうじゃ?」
次いでのルモン騎士長の行動も素早かった。
持っている剣を床に投げたのだ。
聖剣アルダーバが見た目に反した軽い音と立てて床に転がる。
だが、クラレッタ大佐にとってはそれだけだ。
(取りに行こうと思えばすぐに手に取れる場所に剣を投げただけで何を……)
馬鹿にしたような行動にクラレッタ大佐が怒りを口にしようと口を開く。
「騎士殿あいわかった、その申し出受けよう」
それよりも一拍早くグーシュの声が響いた。
思わずあっけに取られグーシュの方を向くという隙を見せてしまうほどクラレッタ大佐は驚いたが、グーシュは我関せずといった様子でカタクラフトの銃座から降り立ち、つかつかと歩いてきた。
明日も更新します。




