第43話―2 空間戦闘
直ちに両翼に展開する十数隻の標準艦が主砲の連装250mmレールガンを激突する両者に向けた。
弾種は対装甲散弾。
一定範囲を極小の金属弾で覆い尽くす、一定空間にいる敵を丸ごと撃破する弾種だ。
支援等建前。
エリザベットごと殺す気に溢れた攻撃だった。
そしてその殺意を実行に移すべくレーダーやレーザーが照準のため照射された瞬間だった。
エリザベットが振りかぶる近接武器を収めポリーナ大佐から距離を取った。
それを見たポリーナ大佐も武器を収めると、ぎろりと照準を行う艦艇の方を向く。
次の瞬間にはポリーナ機から放たれた巨大な二対の光が照準していた艦の内両翼一隻つづを貫いていた。
重巡洋艦並みの粒子砲……それを小口径かつ高圧縮にて放つポリーナ大佐必殺の武器だった。
通常では使用する砲身と同軸レーザー砲のレンズ寿命が短くなるため用いられることの無いリミッター解除による賜物だった。
圧倒的な貫通力によって実弾兵器を大量に積み込んでいる標準艦は火器に誘爆を起こし、なすすべなく轟沈する。
啞然とする少将以下司令部要員たち。
無理もない。
今、明らかにエリザベットはポリーナが撃ちやすいように距離を取ったのだ。
「あんの……人形もどきが……」
少将が怒りあらわにするが、同時に恐ろしい事実にも気が付いていた。
(あのアンドロイド……アステロイドベルトでの戦闘よりも火力が高い! まさか、まさか本当に……あの人形もどき本当に……!)
『あなた方……いえ少将閣下は先の苦戦をアステロイドベルトでのゲリラ戦にあるとお考えの様ですが……それは違いますわ。もしゲート攻略ならばいけるなんてお思いですのなら、また大損害をお受けになりましてよ?』
あの機動性であの火力を発揮されては、艦隊は……。
「支援攻撃中止。別名あるまで現時点で待機」
「司令!?」
「いいから厳命しろ!!」
こうして、標準艦艦隊は再びリングを囲む観客へと戻った。
そして、リングの中心では二つの選手が対峙する。
『艦隊は手を出さないんじゃなかったのか!?』
『ごめんあそばせー! あの方々やっぱり安足を破りましたのねー……ああん、許してくださいましー。一時引いたんだから許してくださいましー』
『ふん……まあいいよ。どの道……』
ポリーナ大佐は発言を中断すると、両肩の位置にある巨大なウェポンコンテナを解放して24発の反物質装填マイクロミサイルを発射した。
『お前を殺した後あいつらも全員殺すからさ!!!』
マイクロミサイルの群れは各々違う軌道でエリザベット機を包囲するように突き進んでいく。
しかも通常の反物質ミサイルとは違い、近接信管タイプなので一定距離まで近づくと爆発するタイプだ。
近距離で会話中にやられたのでは回避は困難……だったが。
エリザベット機がミサイルの包囲網完成前に爆散した。
否。
分離した。
二個三個ではない。
サイボーグ用機動兵器の頭部、胸部、レーザー砲の取り付けられた腕、巨大なスラスターが取り付けられた下半身、脚部の位置に取り付けられたハサミの様な脚部、そして五体がバラバラになった搭乗者のエリザベット本人。
これら主要パーツに加え、背部のスラスター類等無数の小部品にエリザベット機が分離し、それぞれが独自の推進能力を以て独立行動している。限定的な最終兵装状態にある事による豊富な電力を活用した電気推進だ。
そしてこれら無数のエリザベットは、飛来するミサイルを逆に取り囲むように素早く機動すると、アンドロイドの探知装置で目視できるほどの強力な磁場を広域に展開。
反物質を抑え込むと全ての部位からレーザー砲を発射しミサイルを全て無力化した。
『それが、あの時のカラクリか』
ポリーナ大佐が呟くと同時にエリザベット機がミサイルの残骸から距離を取る。
数秒すると磁場が解かれ、ミサイルの残骸から漏れだした反物質が対消滅を起こして巨大な爆発を起こした。
爆発の閃光に、胴体と首だけのエリザベットが照らされるのをポリーナ大佐はじっと見ていた。
両者の目は狂気と憎悪、そして愉悦に歪んでいた。
『いいよ……殺してやるぞサイボーグ……』
ポリーナ大佐が楽しそうに加速を掛けるのと、居た場所が無数のレーザー砲に貫かれるのは一瞬の差だった。
驚くべきことに、全ての分離部位が(エリザベット本隊までもが腹部の発射口から)レーザー砲を備えているようだった。
ゲート方面の戦場は、こうしてたった二人の戦いによって膠着することとなった。
次回更新は1月18日の予定です。




