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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第42話―2 休戦終了

 休戦終了のカウントダウンが始まる中、ゲート方面でも動きがあった。


「敵艦隊動きます! 陣形を維持したまま距離を詰めてきます」


 オペレーターがアセナ大佐に報告すると、ジブリールが顔を真っ青にした。


「そっちでくるか……突撃体系で一気に突破してゲートを抑えるかと思ったけど、じわじわと押し込んでこっちをせん滅する気ね」


 アセナ大佐はモニターの艦隊は位置をジッと見つめた。

 一点集中で来られればポリーナ大佐と低下力の重巡洋艦三隻しか真っ当な機動戦力の無い異世界派遣軍はゲートの支配権を失いかねなかったが、こうして来てくれるのならば時間は稼げる。


(時間だけはね……問題は完全に包囲されてはワーヒドから退避してきた艦隊が包囲網を突破するためにもう一戦する必要がある……軌道上の戦闘で損耗したダグラス達にそれが……)


 アセナ大佐の出した結論は”不可能”だった。

 つまりはこのまま敵のゆっくりとした進撃と包囲網構築に付き合う選択肢は無い。


 この劣勢な戦力で積極的な攻勢に出て、ゲート周辺の制宙権を握り続ける必要があった。


「空荷の輸送船を前に出して壁にしなさい! 本艦とアズラエルはその後方に陣取ってカタパルトによる簡易電磁射撃を実地!」


 ジブリールがいよいよ泣き出した。

 軌道空母と軌道コントロール艦は基本的には少数の対空装備しか攻撃兵器の無い艦だが、自前の巨大な電磁式カタパルトを簡易的なレールガンとして用いる非常用攻撃手段を持っている。


 これの威力は中々のもので、本職の戦列艦には及ばないものの命中すれば重巡洋艦クラスの艦船を撃破するだけの威力があった。


 ただしあくまでも命中すれば、の話だが。


 この二種の艦はとにかく小回りが利かず、つまりは照準を修正する能力に難があった。

 超遠距離戦闘や静止状態の物体ならともかく、戦闘中の艦艇に命中弾を出すとなるとかなり厳しいものがあった。


「復唱!」


「りょ、了解……」


 ジブリールが小声で復唱する。

 この任務の真意は囮だ。

 敵が一定距離に来るか損傷を受けた段階でジブリールとアセナ大佐は後方の艦に避難する。

 とはいえ、下手をすれば死ぬような危険な行動であることに変わりは無い。

 希少な艦としてチヤホヤされてきたジブリールは不安なのだ。


「……もう避難しません? アセナ大佐も危ないですよ」


 ジブリールが退避したい一心で幾度目かの言葉をまた吐いた。

 アセナ大佐は一瞥もせずに戦況図を睨みながらつっけんどんに答える。


「少しでも砲撃の精度を上げたいからSA無しの運用はしない……それに私が退避するところを見せれば、退避先の艦をもう一度旗艦として囮に使える……危険だけどこのまま残るわよ」


 アセナ大佐の悲壮な決意を受けていよいよジブリールも黙り込んだ。


「休戦終了二十秒前」


 報告と共にモニターにカウントダウンが表示される。

 眼前を覆う敵艦隊の群れを睨み、沈黙が訪れる中アセナ大佐はいよいよ指示を出すべく喉の発生器を震わせ……。


「大佐、ポリーナ機が!!!」


 カウントダウンが残っている状況で突如として沈黙が破られた。

 オペレーターが悲鳴の様な声を上げたのだ。


「どうした? ポリーナはまだ待機の筈……」


 アセナ大佐も困惑してオペレーターに続きを促した。

 しかし、その必要は無かった。

 メインモニターに単身敵艦隊の真正面に突撃するポリーナ大佐が映し出されたからだ。


「ポリーナ、何のつもりだ!?」


 アセナ大佐が怒声を上げた。

 ポリーナ大佐はゲート守備隊の切り札だ。

 的確な運用をしなければ作戦目的の達成は不可能。このような独断行動は許されない。


 しかし、ポリーナ大佐の返事よりも先にオペレーターが新たな報告を上げた。


「アセナ大佐! 敵艦隊制動をかけてます……敵全艦隊停止!」


「なに!?」


「あ、いえ……一隻……いえ、一機突っ込んできます! 敵の小型機が一機だけ突っ込んできます」


 理解できないと言った表情でアセナ大佐がメインモニターを見ると、サイボーグ用の小型機動兵器が単身で突っ込んでくるのが映っていた。


「何のつもりだ?」


『私と戦いに来たんですよ』


 ポリーナ大佐がようやく通信を入れた。

 その声色に思わずアセナ大佐はぞっとした。

 ジブリールも同様で、へたり込んでアセナ大佐の太ももに顔をうずめて震え出した。


『向こうの艦隊も私が健在なのを知ってるから、アレが私を倒すまで一度足を止めたんでしょう……あっはあ♡』


 おぞましい程の愉悦に染まった声色だった。

 アセナ大佐は知る由も無いが、ポリーナ大佐にとっては今の状況は喜びだったのだ。


 人間が、脆弱で愛おしい人間が。

 自分と殺し合いをするために突っ込んで来てくれているのだ。

 人を殺せる。

 失態を挽回できる。

 地球連邦の役に立てる。

 戦いは、楽しい。


 それらの感情がポリーナ大佐という歪なアンドロイドの精神を凄まじい程に高揚させていた。


「おい、ポリー……」


「駄目です大佐、ポリーナ機回線を切りました」


 オペレーターの言葉と共にポリーナ機との通信は不可能になった。


 


 その光景はさながら試合観戦のようだった。


 リングは宇宙空間。


 観客は火星宇宙軍と異世界派遣軍の艦艇。

 観客たちはリングを取り囲むように球状に二機の選手を取り囲み、歓声の代わりに索敵と照準のための電波やレーザー、赤外線を照射する。


『システム、起動……ハストゥールより許可……準最終兵装、起動……ですわー』


『スラスター及び兵装リミッター解除……反物質兵装オールグリーン……ははは……』


 二機の機動兵器は舞う様に宇宙のリングを駆けていく。


5 4 3


 困惑と期待と興奮を向ける艦隊をよそに、それぞれ右側のアームにプラズマブレードと高周波ブレードを展開し、徐々に近づいていく。


 2 1


『私があなたを倒すまで艦隊には停止するように言ってあります……よろしいですわね?』


『……来い、人間』


 両者がアームを振りかぶる。


 0


 プラズマブレードと高周波ブレードがぶつかり合い、反発する斥力がプラズマを激しく弾かせひと際大きく輝く。


 この瞬間、ワーヒド全域で戦闘が再開された。

次回更新は1月11日の予定です。

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