第41話―6 休戦
『おう!!!!!』
威勢のいい声が艦隊通信網に響く。
クラレッタ大佐がそれを苦虫を噛み潰した様な顔で聞いていた。
「おう!、だってよ兄さん」
殺大佐が甘えるグーシュの頭を撫でながら呟いた。
一木弘和が事実上の出奔をした。
この報告を上げようとした矢先の気合の入った宇宙艦隊からの通信に、クラレッタ大佐と殺大佐は思わず報告をためらってしまったのだ。
「わかってますわ……やむを得ません……ダグラスには私が報告しますから、上の提案に乗ってカタクラフトをノブナガに回収してもらい脱出を試みましょう」
諦めた様なクラレッタ大佐の声。
だが、それを聞いて声があがった。
「一木は諦めるのか?」
グーシュだった。殺大佐にハグされたまま、いつもの偉そうな顔で問いかけた。
「だってグーシュ様……弘和君が命令してしまったんですよ? それを反故にするのは……」
「……一木の居場所、分かるか?」
マナ大尉の言葉を遮ってグーシュが呟いた。
キア少佐がタブレットに一木の居場所を表示させると、グーシュは楽しそうに頷いた。
「殿下?」
「いや、な……マナ。一木はこう言ったんだな? やり残したことがある、と……」
「は、はい……」
「それで、だ……帝城内での戦闘記録を合わせてみる、と……あー、なるほどな。あいつ、こんなしょうもない事を考えてたわけだ」
一人で納得するグーシュを、アンドロイド達が不思議そうに眺めていた。
その視線に対し、グーシュはニヤリと笑みを浮かべ言った。
「よし! クラレッタ大佐、行こうじゃないか。カタクラフトに乗ろう」
「? 構いませんが……殿下、何をするつもりですか?」
「簡単な話だ。一木のバカの命令の裏をかいてやるんだよ。お前たちアンドロイドは、人間の危機を見過ごせはしないんだろ? それなら、漫画みたいに華麗に助けてやろうじゃないか」
グーシュは唖然とするアンドロイド達に楽しそうに笑いかけた。
※
「あ、……わたし、は……」
砕け散った玉座の上でジンライ・ハナコは目を覚ました。
中身がハイタの一木に吹き飛ばされてから今の今まで気を失っていたのだ。
「状況、は……休戦? 部隊は一時市街まで下がって……他の詳細は……うぅ……」
内蔵コンピューターを使って状況把握を試みるが、火星のアンドロイドはこういった点では地球に劣る。
手持ちの携帯端末以下の内蔵コンピューターは案の定断片的で分かりづらいタイムラグのある情報しかもたらしてくれない。
そして、凄まじい衝撃によって手持ちの端末はオシャカになっていた。
「仕方ない……通信は……近場ならだどうだ。こちら、ジンライ・ハナコ……今、帝城の玉座の間にいる」
電波状態が悪い中無線通信を試みると、艦隊は難しいが帝都近郊の部隊にはギリギリで繋がった。
雑音交じりに声が聞こえてくる。
『お……少佐無事だったか! こちら帝都……外のルドラだ。現在部隊は帝都近郊にて集結中。三十分ほど前に結ばれた休戦終了とともに侵攻を再開する』
ベテランのヴァルマ大尉の声にジンライ・ハナコは安堵した。
聞きたいことが山ほどある。
シュシュの居場所と状況は知っているか?
戦況は?
ハン達RONINNの仲間たちは?
それらを口から発しようとしつつ、ゆっくりと立ち上がる。
飛び込んで来た壁の穴から帝都の様子を伺おうと、一歩踏み出す。
そして、玉座の脇にある気配に気が付いた。
「なっ!?」
驚愕から声が漏れ、絶句する。
『少佐!? どうした? 少佐!? 返事を……』
あまりにも真に迫った声だったためか、ヴァルマ大尉が慌てたように叫ぶ。
だが、ジンライ・ハナコは何も言えない。
しばしの沈黙ののち、静かに通信を切った。
そして、ゆっくりとそれを睨みつけた。
玉座の脇にジッと佇む、一体の強化機兵を。
「……さっきの奴じゃない……一木弘和……だな?」
先ほど戦った正体不明の存在とは圧が違う。
それでいて、アンドロイドとは異なる妙な人間らしさが挙動から感じられた、。
こんな奴は今この星系に一人しかいない。
だから殺気を込めて名を呼ぶ。
それだけで、ジンライ・ハナコの胸中を歓喜が駆け巡った。
「そうだ。君を、待っていた」
返答は無感情なものだった。
ただ、意味が分からなかった。
こいつは気を失ったジンライ・ハナコにとどめも刺さずに何をしていたのだろうか。
そんな思いを素直に口に出す。
「止めも刺さずに待っていた……だと?」
「ああ、そうだ。俺は……君の恨みを受け止める義務があるんだ」
そういって一木弘和はゆっくりと右手に高周波ブレード、左手にサブマシンガンを構えた。
それを見てジンライ・ハナコも半ばから折れた対人刀を構える。
「ふん。私のシュローを殺した奴が、言うに事欠いて恨みを受け止める、だと? 損壊したサイボーグなど余裕だとでも言うのか?」
見くびっているのだろうか。
その思いが歓喜を怒りに変換するが、一木弘和は尚も無感情に応えた。
「そうじゃない。ただ……君と俺との憎しみは、俺たちの間だけで終わらせる……そう言っているだけさ」
一木弘和のモノアイがクルリと回る。
もはや、ジンライ・ハナコも何も言うことは無い。
ただ眼前の敵を睨みつける。
終わろうとする休戦が二人の戦いの火ぶたを切るべく、いよいよ秒読みを開始した。
次回更新は12月30日の予定です。




