第41話―2 休戦
『脅かしてすまぬ、笑っただけだ。いや、な。貴殿が我が一族について知っているという事は、やはりあの連中とのつながりがあるという事……それは、我にとって大層喜ばしいのだ』
(ナンバーズが僕たちと繋がっててうれしい……どういうことだ?)
そのことについて問いただそうとすると、唐突に笑い声と笑みが止まった。
ギョッとするジーク大佐に、間髪入れずにまたもや声が飛ぶ。
『申し遅れた。偉大なる全宇宙を統べる肉による統治者強き者ベルフが戦士にして七惑星による連合体の将を務めし者にしてバッガの子にして最後のベルフにしてアウリンの親ゴッジである』
長々しい自己紹介を終えると、偉大なる(以下略)ゴッジは両手を広げた。
何事かと思ったが、何も言わないゴッジ……将軍とやら。
どうやらあれはジーク大佐を待つ仕草? らしい。
妙な姿勢のままの無言に耐えかね、結局ジーク大佐から問いかけた。
「それで……何しに来たんだ? そこの巨人を助けて……僕を倒しに来たのかい?」
『否。先の謝罪通り、我は糾弾されるべき者。戦士同士の戦いに干渉し、我が娘アインの血を得るべき貴殿からそれを奪った。だが許されよ。我は今は一人の戦士に非ず。将軍を預かる身。最初のアウリンにして我が長女は軍に必要な者ゆえ、血をやる事は出来ん。……正直に言えば個としても大切な娘故、助けた。まことに申し訳ない……肉の謝罪を受け入れろ』
「……あんた正直だな。だが、はいそうですかという事も出来ない。見てみろ僕を。ご覧の通りズタボロだ。あっちには姉妹も粉々にされて散らばってる。なのにここまでして得た勝利をあんたにぶち壊しにされて、どうして許せる? 血はやれん? ふざけんな後ろにいるそいつの首を置いてけ!」
ハイタの映像と先の反物質弾を防いだことを考えれば、たとえ万全であろうと戦う事は困難だ。
それほどの相手だが、事は口で行う戦い……交渉なのだ。
だからこそ、ジーク大佐はあくまで強気に出た。
首など欲しくもないが、僅かでも実入りが欲しい。
「父上! その機械の言う通りです……私は敗れた……妹達の敵を獲れなかったのは辛いが、生き恥をかかせてくれるな父上!」
ゴッジの背後で1が叫ぶ。
思わぬ増援にジーク大佐は気をよくした。
倒し損ねたアウリン1の首……は無理でも、この調子で何かしらを得る事が出来れば……そんな皮算用が浮かぶ。
ゴガっ!
そんな皮算用とアウリン1の涙と共に発せられた叫びは、ゴッジ将軍の拳がアウリン1の頭を地面にめり込む程の威力で殴りつけた事により消えた。
巨人の娘はあっさりと昏倒し地面に沈む。
『可愛い我が娘にして妹達を守れなかった弱き娘よ。今父は勝利者ジーク殿と話している。敗者はただ黙れ。さて、ジーク殿。それに関しては、我に考えがある』
そう言ってゴッジ将軍はスッと指でジーク大佐を指し示した。
『貴殿らが……地球連邦軍が何より欲しい時間を進呈しよう。そのために交渉がしたい。量子通信を展開して軌道上かゲートにいる指揮官を呼ぶがいい』
蛮族の戦士の如き言動の癖に、ゴッジ将軍は巧みだった。
結局、ジーク大佐が量子通信で呼び出したアセナ大佐、ダグラス大佐による交渉の結果、地球連邦軍は三十分の休戦を得る事となった。
ジーク大佐がいる郊外、帝都、帝城、軌道上、ゲート付近。
その全ての戦況が芳しくない現状において、地上から脱出する時間が稼げた事は喜ばしい事ではある。
だが、言ってしまえば……。
ゴッジ将軍とかいう化け物によって、シャルル大佐の命を以て得る事が出来たのが、両軍にとって仕切り直しの時間を三十分設けるだけというのが実情だった。
(帝都内の七惑星連合軍は郊外に下がるという条件は付けられた……が)
付ける事が出来た条件はこれだけだ。
それとて見方によっては無傷で市街への退避を認めたに過ぎない。
これだけ犠牲を払って得たものが、これだけ。
ジーク大佐は結局、全てを喪失してヨタヨタと帝都に戻るしかなかった。
『勇者よ。我より言葉を贈ろう。仲間の躯は連れて行け』
気絶したアウリン1を抱き起しながらゴッジ将軍が言った。
ジーク大佐がゴッジ将軍を睨みつけるが、彼はアウリン1をおぶるとさっさと集結地点である場所へと歩き出してしまう。
「言われなくてもシャルルは大切な……」
『……そう、大切なのだろう。しっかりと全て連れて帰れ』
そう言って化け物は去っていった。
赤黒い筋肉の塊に光り輝く虫のような羽の生えた化け物の背中を憎々し気に睨みつける。
向こうは娘とやらを助け、帝都の部隊を無傷で一時撤退させ、シャルル大佐により混乱したアイアオ人部隊も立て直せる。
対して地球連邦軍は……。
装備を全て失ったジーク大佐は、あのホンワカしたピンク髪の残骸を集めるために肩を落として高地へと歩みだした。
更新予定から遅れて申し訳ありませんでした。
明日も更新します。




