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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第40話―1 決着その三 グーシュとシュシュ

「ミルシャ、もうすぐだぞ」


 銃声と砲声と地響きが鳴る中、グーシュがミルシャを背負って帝城の豪奢な……否、豪奢だった通路を歩いていく。

 戦闘開始以来続く地響きにより、埃にまみれヒビの入った通路はまるで廃墟のようだ。


 自分より背の高いミルシャを背負っているために、ミルシャの足は石畳に付き、つま先が粉塵に塗れた床に二筋の線を残している。


 さらにその二筋の線の上には水滴が垂れていた。

 お世辞にも運動神経のよくないグーシュが大柄なミルシャを担いでいるのだ。

 すでに体力は限界で、汗にまみれたグーシュの顎からは細く絞った水道のように汗が滴り続けていた。


 それでもグーシュは休む事もせずに足を動かし続けた。


 分かっているのだ。

 本当に限界なのは自分ではなく、背負われているミルシャなのだという事を。


 引きずられても力が入らない足。

 自分の言葉にも反応すらない。

 口から聞こえてくるのは、数十秒に一回だけのか細い呼吸。

 

 そして、段々と冷えていく体温。


 その全てが危機感を煽り、限界を超えた体力をかろうじで回し続ける。

 あと少し、あと少し。


 塔に行けば、ジユル中佐率いる憲兵隊が防衛陣地を敷いている。

 そうすれば大丈夫。

 アンドロイド達に救護してもらい、カタクラフトで艦隊までひとっとび。


 強大な宇宙艦隊まで行けば、全部が全部……。


 今まさにその強大な宇宙艦隊が壊滅の危機に瀕している事は考えない。

 今のグーシュには考えられない。

 心の奥底が警戒の鐘をならすが、そんなものを聞いていては歩けない。


 歩くのをやめたら、その時点でミルシャは死んでしまう。


 そんな必死の思いで足を進め続け、グーシュはようやくたどり着いた。

 眼前の曲がり角を曲がれば、目標の塔を昇る階段だ。


「ミルシャ! もうすぐだ……がんばれよ!」


「ぅ……シュ……さ……」


 ミルシャが微かな反応を反したのがうれしくて、グーシュは最後の力を振り絞って小走りで曲がり角を曲がった。


 どの道、姿さえ見せればアンドロイド達が……。


「グーシュちゃん久しぶり♪」


 見たくない姿が見えた。

 その背後では、アンドロイド達が死んでいた。


 階段への入り口付近を硬化樹脂と土嚢で補強して簡易陣地を築いていた十数名のアンドロイド達が、全員残骸を晒していた。


 設置していた二丁の重機関銃だったと思しきドロドロに溶けた金属と樹脂の塊の周りに、同じように液化し、炭化した残骸を晒してみんな死んでいた。


 いや、たった一体だけ形を残しているアンドロイドがいた。

 手に高周波ブレードを持った高級士官の服装をした個体が、シュシュの前に倒れている。

 

 憲兵隊隊長のジユル中佐だった。陣地への攻撃を回避して突撃したがやられたのだ。

 胸部に大きな穴が開いており、もう再稼働の余地が無い事は明らかだ。


 しかし、そんな惨状よりも。

 グーシュの心を折る存在が、姉シュシュだった。


「シュシュ……」


 絶望が染み出したような声が漏れる。


「お姉さまでしょグーシュちゃん」


 それに対しいつもの笑顔で、かなり薄汚れ、細かな傷を全身に追ったシュシュが怒りをにじませた口調で窘めた。


 グーシュは思わず脱力し、ミルシャが背中からずり落ちる。

 ミルシャが落ちる事に気が付いて膝に力を込めようとするが、一度抜けた力はもう、ミルシャも自分自身の足も支えてはくれなかった。


 愛おしい騎士ごと、グーシュは地面に崩れ落ちた。


「あ、あ……」


 思わずうめき声が漏れる。

 慌てて体制を整えようとするがどうしようも出来ず、妥協として必死にミルシャを抱き締めた。


 ひんやりとした体温が火照った体に心地いい。


 そうこうしているうちに、グーシュを見下ろす位置にシュシュがやって来ていた。


 視線だけで姉の顔を見る。

 余裕たっぷりに見えたのは最初だけで、かなりの怪我をしているようだった。


 グーシュにとって致命的な先回りだったが、やはり完全武装で陣地を構築している一個小隊規模のアンドロイドの相手は厳しかったのだ。


(よし……勝機は、まだある!)


 心を奮い立たせる。

 姉は消耗しているのだ。

 つけ入る隙はあるぞ。


 動け、足掻け……。


 グーシュが心と体に喝を入れようとする様子を、シュシュは驚いた様にしばらく眺めると、ポツリと呟いた。


「……合理的なあなたでもやっぱり感傷からは逃れられないのかしら?」


 シュシュが会話を振ってきた事にグーシュは歓喜した。

 時間が稼げるからだ。


「……どういう、意味だ? しかし、お前も随分と薄汚れ……」


「死体なんて背負ってきて……置いてくれば私よりも先にここにたどり着けたでしょうに」


 その言葉は、必死に目を背けてきた事実をはっきりと照らし出した。


「死体……いや、何を言って……」


「ついさっきまでは生きていたのかしら? ふふふ……そうだとしたらミルシャちゃんに感謝ね。その子のお陰で私はあなたを手に入れる事が出来るのだから……」


 すでにグーシュにシュシュの言葉は聞こえていなかった。

 抱き締めたミルシャの顔を、少しだけ距離を離してじっと見る。


 苦痛に歪んだまま硬直した、愛おしい女騎士の顔を……。


 全ての思考が消えたグーシュの耳に、微かに聞こえるシュシュの笑い声だけが響いていた。

次回更新は12月3日の予定です。

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