第39話―4 決着そのニ クラレッタと殺
クラレッタ大佐達の戦いが最後の時を迎えつつあるこの時……。
ジーク大佐とシャルル大佐の戦いが最後の時を迎えつつあったこの時……。
異世界派遣軍側の全ての哨戒網とレーダーに探知されずに帝都郊外を目指す者があった。
知るのはそれが飛び立ったハストゥールの乗員、そして地上においてはそれを呼び込んだ軍師長と司令部の面々のみ。
それがたどり着いた時、戦いは……。
※
六槍と二匹の蛇が殺し合っていた。
クラレッタ大佐とヴァルマ大尉の戦いを後年目撃したカルナーク軍の兵士はこう評した。
それほどまでに激しく、そして異常な戦いだった。
クラレッタ大佐の両腕のカラクリを見破ったヴァルマ大尉はそれまで以上の猛攻を仕掛けていた。
奇襲と命中を重視した不可視の拳による連打ではなく、目視可能なまでに強化した六腕による純粋かつ直情的暴力。
まさに先ほど上げた兵士の証言通りの光景が広がる。
ぼんやりと発光した力場の六腕が超高速で打ち出されるその様は、ターバン姿の大男が槍を突き出すさまを連想させた。
対するクラレッタ大佐が取った戦法も先ほどまでとは違っていた。
それまでの戦いが電力をセーブするための迎撃とカウンター狙いの最小の動きだったのに対し、それが解消された今は一転、素早く走り回りながら両腕を鞭のように長くしならせるというオリハルコンという物質の特性を最大限生かしたものへと変わっていた。
高速で走り回る事も、腕を激しく変化させ長時間動かすことも通常ならば尋常ではない電力を消費する。
しかし、腹部が膨らむ程に有機バッテリーを飲み込んだクラレッタ大佐にバッテリー残量を気にする必要はもはやない。
節約を捨て去ったその攻撃は、一見すれば鞭状に細く変化した腕がヒョロヒョロとヴァルマ大尉の周囲を動き回っているようにしか見えない。
だが、クラレッタ大佐によって微細な形状までをもすべてコントロールされたその両腕は、刺突はおろかわずかでもかすっただけで切り裂き、破壊される恐るべき武器と化していた。
ヴァルマ大尉の力場を弾き、隙を見てはヴァルマ大尉の身体にまとわりつこうとするその姿は、二匹の蛇そのものだった。
「どうした! さっきまでの見えない拳の方がやりづらかったがなあ!」
クラレッタ大佐が雄たけを上げる。
常の女の声ではない、高揚感からか少年の様な少しだけ低い声だった。
「ぬ、おおおおおおおおおおおおお!」
クラレッタ大佐の言葉に対する怒りからか、ヴァルマ大尉は一瞬だけ拳をさらに加速させた。
六腕と二腕が激しくぶつかり合い、衝撃波すら巻き起こる。
その最中だった。
相も変わらずクラレッタ大佐に届かなかったヴァルマ大尉の力場の拳はそのどれもが砕かれ、切断されていた。
それまでは失う度に即座に力場を再生成していたヴァルマ大尉だったが、今のクラレッタ大佐との死闘ではそうはいかなかった。
力場生成の際の僅かな隙をも見逃さないクラレッタ大佐に対し、その全ての腕が失われてから自身の実体の両腕による防御をしながらの全腕同時生成というハイリスクな行動を余儀なくされていた。
しかし、これすらもクラレッタ大佐にとっては想定内……いや、罠であった。
力場による攻勢、腕全損、両腕による防御、力場再生成。
この一連のプロセスにヴァルマ大尉が慣れ始めたこの時、それは起こった。
腕を全損したヴァルマ大尉が鞭の様なクラレッタ大佐の腕を防ぐべく構えを取った瞬間、クラレッタ大佐はそれまでの猛攻が嘘のように一切の動きを捨て、静の構えを取った。
しかし、本来好機であるそれをヴァルマ大尉は活かせなかった。
鞭の様な腕を防がなければ死ぬ。
そう思い必死に防御していた彼は、肩透かしをくらいクラレッタ大佐と同じように立ち尽くす事しか出来なかった。
反射的なその動きは、その後も続いた。
即ち、背中に力場の腕を再生成するという動きだ。
当然クラレッタ大佐も予期可能なその動きは、虚を突かれたヴァルマ大尉による刹那の油断により幾分か間延びした、スキの多いものとなってしまった。
それ故に起きた、六腕再生成とほぼ同時の一斉力場破壊。
ヴァルマ大尉の背中には、虚しく筋骨隆々とした背筋だけが広がる。
「しまっ……!」
ヴァルマ大尉の口から後悔が滲み漏れる。
対するクラレッタ大佐は笑みを浮かべ、武器も盾も失った憐れなサイボーグに全力の攻撃を仕掛けた。
次回更新は11月22日の予定です。




