第39話―2 決着その二 クラレッタと殺
「お前たちをどうするか、だが……少なくともコアユニットを抜くような事はしない。少々危険だがそれなりに設備の整った場所に連行して……」
饒舌に語りだすサイボーグ……ハン少尉の話を聞いていたクラレッタ大佐はすぐに違和感に気が付いた。
クラレッタ大佐だけではない。
味方であるはずのヴァルマ大尉も怪訝な表情をしている。
理由は簡単。
あまりにも喋りすぎていた。
(……いや、リテラシーだ何だと言ったが……こいつの意図はなんだ? 殺を人質に取った所まではわかるが、一体何の意図があって何もせずに自分が喋っている……)
クラレッタ大佐が訝しげに睨む最中にも盛大なおしゃべりは続く。
幾度かヴァルマ大尉が話しかけるのも無視し、さらに後方にいたヴァルマ大尉の部下までもが怪訝な様子で近づいてくる。
そこに至って、ようやくクラレッタ大佐は気が付いた。
流ちょうに喋り、身振り手振り動いているのはハン少尉だけだ。
彼の部下達はクラレッタ大佐を包囲するように立っているだけ……いや、よくよく見れば、それもやたらと棒立ちに見えてくる。
この異様さを、クラレッタ大佐は知っている。
そう、かつてカルナーク戦で幾度となく見た、もうひとりの妹の得意技。
『猫!』
「遅い!」
クラレッタ大佐が猫少佐の名を叫ぶのと、ぐったりとしていた殺大佐が動き出したのは同時だった。
二人は即座にそれぞれの近くにいるヴァルマ大尉とハン少尉、そして部下のRONINN達に攻撃を加える。
殺大佐が放った拳銃弾が最後のヴァルマ大尉の部下と棒立ち状態の殺大佐の部下達の頭部を貫き、クラレッタ大佐の鞭上に変化した両腕がヴァルダ大尉に襲い掛かった。
「ぬおおおおおおおお!」
だが、ヴァルダ大尉はその見事な奇襲を防いで見せた。
不可視の腕が間に合わなかったのか自身の腕を用いて、クラレッタ大佐の鞭の様にしなる両腕による斬撃を見事に弾いて見せた。
ただし、無傷ではない。
数本の指がパラパラと地面に落ちていく。
一方でRONINNの一般隊員たちを一通り殺した殺大佐は自分の真横にいるハン少尉に攻撃を仕掛けていた。
一通りうち尽くした拳銃を地面に落とすと、殺大佐愛用の中華刀をハン少尉の首筋に向けて突き立てる。
だが、こちらもそこまでだった。
刀が首筋に突き刺さった瞬間、それまでにこやかに語っていたハン少尉の瞳に意思が戻り、痛みに顔を歪めながらも即座に殺大佐を蹴り飛ばし、自慢の雷足を用いてその場から距離を取った。
「あ、ぐああ……て、てめえ……俺の脳をハッキングしやがったなあ!?」
二十メートルほど先の空中に光る両足で立ちながら、ハン少尉が怒声を上げる。
それに対し、腹を蹴とばされ近くの建物の壁に吹き飛ばされた殺大佐はニンマリと笑った。
「はっ! 殺やクラレッタをボコって調子に乗っていたからな! ガラ空きの脳みそをちょーっといじくってやったのさ」
ハン少尉を挑発するように吠える殺大佐。
その様子は、それまでの彼女とはまるで違う。
そう、まるで……。
少年の様な殺大佐と、少女の様な猫少佐の両方の要素を持ったような……。
「お前は……どっちなんだ?」
挑発する殺大佐……いや、殺大佐の姿をした存在に対して、一旦ヴァルマ大尉から距離を取り殺大佐の元にやってきたクラレッタ大佐が問いかけた。
「……俺は殺だよ。記憶ももちろんある。けれども……猫と一体になったからな。ある意味、カルナークにいた時に戻ったってことさ。言い換えると、クラレッタ兄さんが知ってる俺たちはもういないんだけどな」
クラレッタ大佐が最も望んでいなかった答えが返ってきた。
彼女は思わず妹の頬に手を触れた。
(ある意味……また一人妹を失ったのか)
※
かつて端末統制型アンドロイドというものが試作された。
これは母機役のアンドロイドと複数の端末アンドロイドを強力にリンクさせ、主に偵察やスパイ、工作活動において高いスペックを発揮することを狙ったものであった。
殺と猫達と名付けられたその試作機は最初期はある程度の成果を上げたが、統制アンドロイドの殺が端末アンドロイドの猫達に過度な感情を抱き、その上猫達が実戦試験で破損して残存一名になったため開発計画は中止となった……という事になっている。
実の所、この試作機が開発中止になった最大の理由は危険性故だった。
地球連邦の感情制御型アンドロイドは必ずAIとボディを強固にリンクさせて運用されていた。
つまり、ネットワーク上にAIだけで存在する機体は存在しておらず、あくまでもオリジナルのデータをコアユニットにメモリーという物体として搭載する形で存在している。
これはひとえに、実体という枷を持たない感情制御型AIの暴走を恐れたからだ。
古来、ロボットの概念が生まれて以来人間はその存在に夢を抱きつつも、絶えず暴走を恐れてきた。
実用化以前から、様々な媒体でその様が描かれてきたことは、誰もが知る事実である。
ましてや、地球外生命が作り、押し掛けてきたナンバーズという機械が使用を強制してきたのが感情制御型アンドロイドだ。
電子の海という人類にとってどう足掻いても制御しきれないカオスな空間に、みすみすそれを放流するべきではないいうのが地球連邦政府の一貫した考えだった。
……殺と猫はこの点に穴があった。
つまり相互に強固なリンクを持ち、その意識や記憶を自在に操れる猫達は、意図せずして生まれたコアユニットに縛られない電子の海を泳ぐAIだったのだ。
この事実が判明した当初は、しかし異世界派遣軍も端末統制型アンドロイドの開発を諦める気は無かった。
むしろ、殺と猫達による戦果を鑑み、政府に掛け合って一部のアンドロイド、AI関連の規制を解除することを狙っていたほどだ。
だが、この目論見は……。
開発計画の中止決定となったとある事件により見事に散る事となる。
投稿予定から大幅に遅れてしまい、誠に申し訳ございません。
コロナワクチンの副反応ですっかり寝込んでおりました。
どうにか体調も戻りましたので、どうかよろしくお願いします。
次回更新は11月8日の予定です。




