第38話―2 決着その一 ジークとシャルル
先頭の戦士は驚愕を覚えた。
無理もない。
アイアオ人の眼球はアンドロイドの身体が発するモーター音や電流の流れ、センサー類の発する電磁波まで逃さず捉える事が出来る。
故に、このような想定外の回避行動ならば事前に察知出来るはずだった。
「君たちはそうだよね。目が無事なら、ね」
次の呟きは背後から目ではなく耳で音声として戦士に聞こえた。
そして、疑問に感じる間もなく眼球ごと脳を貫かれた先頭の戦士は地面に倒れ伏した。
そうして先頭の戦士の頭上を跳躍して空中に舞い上がったシャルル大佐は後方の二人の戦士を一瞥する。
食いしばった歯とわずかに揺れる巨大な眼球が彼女達の驚きをはっきりと表していた。
「電力より時間を取らせてもらうよ。手抜き無しだ」
シャルル大佐は素早く手に持っていた薙刀上の刃物を一閃する。
まだ二人の戦士まで距離がある。
如何に長物と言えども、届く筈がない。
だが、二人の戦士は左右に振りかぶった斧の重さに引っ張られたまま倒れ伏す。
一見して外傷はない。
ただ、驚きの表情のまま地面に倒れ伏している。
その光景を見た周囲を取り囲むように動いていた他の戦士たちの間には動揺が広まっていた。
アイアオ人はその感覚能力から大抵の事が……人間やアンドロイドの動きに関して読むことが出来る。
ある種の予知能力に匹敵するその能力はしかし、このような理解不能な事態に際しては如実に”怯え”として表面化した。
そして、シャルル大佐はそれを見逃さなかった。
素早くセンサー類を全力で稼働させ、もっとも動揺の少ないアイアオ人戦士の部隊を把握する。
今ここにいる者達は白兵戦装備の護衛部隊の中で一番未熟な者達の筈だ。
同じようにアイアオ人部隊に何度となく突入した半世紀前まではそうだった。
つまり、その未熟者たちの中で最も経験がある者達がいる場所こそ、最も守りたい物に通じる道である可能性が高い。
そうして目的地を決めるとシャルル大佐は全速力で駆けだした。
足の人工筋肉が悲鳴を上げ、メタルリンケージが電力を馬鹿食いするが無視して駆ける。
その時速が百八十キロに迫った時、動揺の少なかった部隊と接敵した。
「もう立ち直った。中々ですね~♪」
取り囲む部隊が未だに右往左往するなか、ほんの数秒の間に立ち直ったその経験豊かな者達は再び先ほどの必殺の型を繰り出そうとシャルル大佐に駆け出していた。
数は十八人、六つの部隊が連続で先ほどの連携を繰り出す気だ。
しかし、今度はシャルル大佐はそれに付き合う気は無かった。
薙刀上の刃物に電力とプログラムを流し込み、髪の毛程の極小の針を十八人のアイアオ人に打ち出す。
その打ち出した針が眼球から脳に達すると、針を歪ませて一瞬だけ脳をかき回してやる。
それだけで、化け物の様に強いアイアオ人の戦士を殺す事が出来る。
無論電力の流れを把握できるアイアオ人ならば気が付けるが、シャルル大佐は攻撃に合わせて体内のモーターやセンサー類を大きく作動させ、さらに独り言を繰り返す事である程度これらの攻撃動作を誤魔化すことが出来た。
「よっしゃー! 正解だ……アイアオ人の狙撃部隊」
そうして突破した先にいたのはシャルル大佐の目的であったアイアオ人の主力。
ニールストライフルを地面に据えて狙撃していた部隊だった。
近接部隊が突破され、明らかな狼狽が見て取れる。
しかし……。
「……まあ、そりゃあいるよねえ……」
シャルル大佐のセンサーはその中にいる少数の冷静な者達を捉えていた。
隙の無さに、一気呵成での突破を諦め一旦速度を落とす。
その者達こそ、カルナーク戦後末期から狙撃部隊に同行するようになった、最高練度のアイアオ人達。
対アンドロイド戦対策の全てを極め、奇襲をかけた参謀型アンドロイドすら退けたカルナーク軍最強部隊。
「白血色の髪……アイアオ殺しの機械人シャルル……実在したとはな!!!」
数百メートル先から一人のアイアオ人が叫んだ。
ガーネス部族としては小柄な女で、珍しくポニーテールではなく少し癖のある髪を束ねずにいる。
「あいつが頭目だな~……よーし……ジークとの約束守らないとな」
呟くシャルル大佐の背後から荷電粒子の奔流と大口径銃の発砲音が聞こえてきた。
帝都から二体の巨人がこちらの方にやってくる音だ。
時間が無い。
シャルル大佐は再び速度を上げ、小柄な癖っ毛の戦士へと駆けだした。
次回更新は10月8日の予定です。




