第38話―1 決着その一 ジークとシャルル
アイアオ人は惑星カルナークの先住民族と言われている知的生命体である。
惑星カルナークの人類が歴史を記録し始めた直後、農耕開始以前から存在している事からその点は間違いない。
彼らアイアオ人は当初は奇妙で脆弱な隣人として人類をある時は助け、ある時は追い出し、ある時は殺戮しつつ緩やかに共存していた。
その潮目が変わったのはカルナーク政府の公称によると約三千年前。
戦前のカルナーク政府直系の祖であるカルナーク王国の初代王”名を残すな”によるアイアオ人の奴隷化だった。
初代王はそれまでよく言えば隣人。
正直に言ってしまえば強大な異民族として人類を圧迫していたアイアオ人を支配下に置き、瞬く間にその勢力を増したのだ。
詳細は残されていないが、アイアオ人の一部に残る口伝と初代王の遺言である「我、卑劣の極みなり。以後全ての記録を消し、我の名を残すな」という言葉から概ねの流れは予想されている。
初代王はそれまでカルナーク人と唯一友好的な関係を築いていたアイアオ人のガーネス部族と密約を結び、彼らによる手引きで他部族の男性を人質に取ったのだ。
アイアオ人は女性主体の種族で、男性は部族長を始めとするごく少数しか存在しない。
しかもその少数の男性は子供の様な体格であり、屈強な女性に比べると非常に脆弱な存在だった。
この脆弱でかつ重要な存在を抑えられたアイアオ人達は瞬く間にカルナーク人の支配下に落ちた。
戦士の部族として武を誇った(だが地位の低かった)ガーネス部族を準カルナーク人としてアイアオ人達の支配階級に据えると、その圧倒的な力を用いて他地域に居住していた他の人類やアイアオ人達への侵略戦争を始めた。
以後の歴史は凄惨を極めた。
人質の命よりも誇りを選んだアイアオ人。
カルナーク人の横暴に怒りを覚えた他のカルナーク在住人類。
その全てがカルナーク人とガーネス部族の武力の前に散った。
やがてカルナーク人は自らの血を至高と据え民族浄化を開始。
やがて惑星カルナークにはたった三つのアイアオ人部族とカルナーク人と準カルナーク人と呼ばれる者達だけが人類として残った。
こうして、カルナーク人の順風満帆な歴史は地球人がやってくるまで続いた……。
※
そのカルナークの武の極致がシャルル大佐に迫っていた。
数は三人。
身長は全員が2メートル強。
溢れるような筋肉を甲冑のようなボディアーマーに身を包み、カルナーク人女性お馴染みのポニーテールをたなびかせながら巨大な眼球を血走らせて駆けて来る。
その手に握るのはニールスト対機械人用ライフルと並ぶアイアオ人戦士の象徴である特殊鋼の巨大な斧。
カルナーク戦当時と同じものだとすれば特殊鋼で作られたアンドロイド様に特化した逸品であり、弾丸に対する高い耐性を持つアンドロイドを的確に無力化するために必要十分な切れ味を持つ強力な兵器だった。
その一撃を、見事な連携で三人のアイアオ人がシャルル大佐に匹敵する時速百キロ近い速度で走りながら繰り出した。
先頭の戦士が繰り出した一撃は最も威力と速度の速い大上段からの一撃。
これにより左右どちらかへの回避を誘発し、後続の二人が回避先に横なぎの一撃を加えるというガーネス部族の戦士必勝の型だ。
下手をすれば先頭の者まで横なぎの攻撃で巻き込む危険な攻撃方法だが、この攻撃を幾度となく喰らったシャルル大佐は少なくとのガーネス部族の戦士がこれで同士討ちをしたのを見た事が無かった。
「ま、それはそれとしてちょっと遅いよ」
小さく、囁くようにシャルル大佐は呟いた。
その呟きが先頭の戦士に聞こえたのは、振りかぶった斧がシャルル大佐に当たると思われた寸前。
巨大な眼球が音の波として呟きを捉えたその時には、すでにシャルル大佐の姿は戦士の眼前には無かった。
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