第37話―7 帝都決戦
「……いいよ。助けに来て頂戴」
ジーク大佐にそう返事をしたシャルル大佐は、しかし言葉とは裏腹に覚悟を決めていた。
今日、死ぬ覚悟をだ。
「……ミユキちゃんがせっかく助けてくれた食材や漬物を管理できなくなるのは残念だけど……ま、姉妹や一木さん達が助かるなら仕方ないよね♪」
いつもの調子で、時速百キロを超える速度で疾走しながらシャルル大佐は朗らかに笑みを浮かべる。
目標はアイアオ人部隊がいる帝都郊外の高地。
アイアオ人の索敵、狙撃能力を十全に発揮可能な絶好の立地である。
現に今も、高地からは絶え間なくニールスト対機械人用ライフルの射撃音が聞こえてくる。
帝都の異世界派遣軍、そしてシャルル大佐を狙撃しているのだ。
しかし、そんな通常のアンドロイドや人間の兵士では到底対抗できないアイアオ人部隊に対して、シャルル大佐は的確に対処出来ていた。
「……今」
小さく呟くと同時にシャルル大佐は跳躍した。
その直後……いや、同時に地面が爆ぜた。
ニールスト対機械人用ライフルの2フィンガ弾(直径約15mm)が着弾したのだ。
「脚部を狙いまずは機動力を削ぎ……今」
跳躍し宙に浮いていたシャルル大佐。
通常ならばどうしようも無い状況だが、彼女は呟きと同時に身を捻り体操選手よろしく回転して見せた。
同時に、人間ならば体が裂けるほどの衝撃波をまき散らしながら2フィンガ弾がシャルル大佐の体を掠めた。
「今」
再びの呟き。
同時に起きたのは激しい金属音だった。
シャルル大佐が自身の身体を構成するオリハルコンから生成した薙刀の様な武装で飛んできた2フィンガ弾を弾き飛ばしたのだ。
通常の武器では不可能であり、無論武器の強度だけあっても不可能な芸当だった。
カルナークのニールストライフルに習熟したシャルル大佐だからこそ出来る技だった。
「……狙いが正確過ぎるなー♪ それに2フィンガ弾って貫通力重視だから、却って滑りやすいんだよね。ちょっとした傾斜に当たっただけで……今」
着地後すぐに疾走を開始したシャルル大佐に対し、再びの銃撃が行われる。
だが、再びの呟きの直後にはその必殺の狙撃は全て弾かれるか避けられていた。
参謀型アンドロイドとはいえ、あまりにも不可解で見事な技だった。
「昔取った杵柄です~。あなた達って私たちの駆動部が発する電磁波なんかを感知して狙ってくるでしょう? だからそのことを頭に入れて体を動かせば……さらに、あなた達の戦術や思考を読んでやれば……今!」
言葉と共にシャルル大佐は大きく身を沈め、地面を統べる様に走る。
同時に飛来した3発の弾丸を見事に避け、さらに走り続ける。
「頭部、胸部、腹部の3点同時狙撃とはいい狙いしてますね~。ま、当たらなければ無意味ですけど」
シャルル大佐が先ほどから音声で独り言を言っているのにも意味はある。
こうして通常の発生や思考に加え、音声に出してやることでアイアオ人はある程度遠距離においてもアンドロイドの発言を聞き取ることが出来るのだ。
つまりこれは……。
「よっし、挑発に乗りましたね♪」
満足げに微笑むシャルル大佐の視界には高地の麓付近に降りてきている数十人の人影が見えていた。
2メートル前後の巨体に甲冑を思わせる重装甲のボディアーマー。
手にするのは巨大な斧という独特な武装と風貌。
「出たなー、アイアオ人の白兵部隊。そんでやっぱり……あの図体はガーネス部族」
シャルル大佐は目的としていた敵が因縁の深いガーネス部族であることに気が付くと、その笑みをより凄惨なものにした。
カルナーク戦においてその圧倒的な身体能力を以てアンドロイドの軍勢に立ち向かってきた脅威の部族。
アイアオ人ガーネスの部族。
参謀型アンドロイドに匹敵すると言われる恐るべき存在が、シャルル大佐に一斉に斬りかかってきた。
次回更新は10月3日の予定です。




