第37話―2 帝都決戦
「そう来ると思ったよ!!」
外部スピーカーで叫んだ1に対し、それまで沈黙していたジーク大佐の三皇が同じく外部スピーカーで叫び返した。
唐突な大音声に一瞬1は虚を突かれるが、今更どうにかなるような状況ではない。
なにより、自分が眼前の強襲猟兵を止めなければたった今逃がした10が殺される。
最初のアウリンとして全てのアウリン達に対し家族同然の感情を抱いている1だったが。同じ中隊の九人はその中でも姉妹として育ったかけがえのない存在だった。
その最後の一人を逃がすためならば、相手があの化け物のような強襲猟兵だろうと立ち向かう覚悟は出来ている。
すでに荷電粒子砲はチャージ完了済み。
振り下ろしながらの斉射三連、後に吶喊からの近接戦闘。
膝下まで届く異様に長い両手を持つ異形の強襲猟兵を仕留めるために用いるは必殺の剣技。
相手はアンカーランチャーと全身のスラスターによる高機動によって妹達を屠ってきた強力な機体だが、1には自身の剣術に絶対の自信があった。
(さあ来い。今更どんな手を取ろうがワイヤーも武器も一緒くたに切り裂いてやる)
心中で最後の決意を固め大きく息を吸い込み、止める。
後は全身全霊の叫びと共に剣を振り下ろすだけ。
その段階になって、1は先の相手の言葉が気になりだした。
(そう来ると、思った?)
迷わないと決めたゆえに1の動きは止まらない。
だが、それでも思考は止まらなかった。
とてつもない危険を見過ごしているような悪寒が思考を促すからだ。
(……そう来る。つまり、私が足止めして10を逃がす……事? 相手はそれを想定していた!?)
そこまで至ると悪寒はもはや、思考を促すに留まらず1の心を支配するに至っていた。
なぜなら、この状況を読んでいたとするならば相手がやる事は一つしかない。
もはや動きを止める事が出来ない1は半ばやけっぱちの牽制のつもりで剣を振り下ろすと同時に拡散モードで荷電粒子砲を放った。
当たったかどうか。相手が動きを止めたかどうか。
それすら確認せず、全力で振り返り10の名を叫ぶ。
「10!!!」
「あっ……」
寸分たがわず同時だった。
妹の名を呼ぶのとアウリン10の最期の言葉が聞こえたのは。
1は考える事すら出来ない。
眼前にある光景が理解できないのだから無理もない。
敵はあと一体の筈だ。
即ち正面にいる三皇と呼ばれる新型強襲猟兵にして、敵部隊の隊長機。
自分はそれを迎撃するべく足を止め、10は先行させて逃がしていた。
だから、おかしいのだ。
なぜ先行した10の首が、地面に落ちている?
そこまで考えた所で、不意に1は全身に何かがまとわりつくような異様な感覚を覚えた。
比喩ではない。
確かに何かが全身に……細く固いひも状の何かが巻き付いているのだ。
「よそ見とは感心しないな」
再びの外部スピーカーによる声。
強襲猟兵の隊長の、少年のような女の声だ。
「そうか! ワイヤー……!」
そこに至り、ようやく1は10を葬り、自身を今まさに捉えつつある脅威の正体に思い至った。
敵が散々移動手段に用いていた両腕のアンカーランチャーから射出しているアンカー付のワイヤーだ。
どういった技術かは分からないが、今までせいぜい数百メートルの長さで移動手段として用いていたワイヤーには、先発する10を罠にはめ、さらに気が付かれないように1の全身に巻き付くほどの長さと精密操作能力があるのだ。
「もう遅いよ!」
隊長機が叫ぶと同時に1の全身……特に関節部が強く締め付けられた。
死の一文字が1の脳裏に浮かぶ。
次の瞬間、1の機動甲冑が勢いよく地面に落下した。
次回更新は9月5日の予定です。




