第37話―1 帝都決戦
宿営地から帝都への道で行われていたアウリン隊と強襲猟兵隊との死闘はいよいよ終わりを告げつつあった。
「1! 2が……」
偵察用単眼型であるアウリン10が後方で二機の五帝と刺し違えた2を見て泣き叫ぶ。
無理もない。
たった今行われた攻防によってかけがえのない家族同然の中隊の仲間は1と10のたった二機にまで討ち減らされたのだ。
だが脚部スラスターが破損したせいで方向転換が遅くなった10の手を引く1は10の感傷に付き合う気は無かった。
1にとってはたった今死んだ妹同然の仲間よりも、その仲間が強襲猟兵部隊最後の五帝を撃破した事の方が重要だった。
「泣き言を言うな! もうすぐ帝都だ……お前は先に行くんだ。敵の隊長機は私に任せて、お前は帝都に降下した歩兵部隊と合流しろ!」
そう言うと1は10の手が千切れんばかりに引っ張り、自身のスラスターを目いっぱい吹かした。
しかし、そんな全力の機動すら1の焦りを軽くすることは出来なかった。
確かに1達自体の現状は悪くない……が、七惑星連合軍全体で見るといいとは言い難い。
全てはドミノ倒しの如く、1達の失策が影響して状況を悪くしてしまったのだ。
まず第一に、敵の強襲猟兵部隊がブラフで装備していた対空ミサイルを警戒した結果降下部隊の支援に必須だった対地戦闘装備をパージして小回りが利くが高度を取れないホバー形態になってしまった。
このせいで自分たちの地上部隊支援という役割が失われ、揚げ句にその後ブラフのミサイルキャリアーを捨てた敵の強襲猟兵部隊に手間取り、1達は残存二機にまでその数を減らす羽目になってしまった。
この結果が降下部隊の予定降下位置の変更に繋がり、(と1は考えたが、実際のところは軍師長の独断だった。)さらにその変更を補うために追加のアウリン隊を地上に降下させるためになり、そのせいで軌道制圧艦隊の戦力が低下。未だに七惑星連合軍は制天権を確保できずにいる。
だからこそ、1は焦っていた。
どうにかこの状況を打開する一手を、自分たちでもたらしたかった。
だから、仲間の損失を顧みず強襲猟兵部隊の撃滅を図り、そうして切り開いた道から10を帝都に直接降下した部隊と合流させる事を狙ったのだ。
確かに現状の1達第一中隊残存期には本来期待された地上支援能力はもはや無い。
ホバー走行可能とはいえ、帝都のような市街戦で役立つとは言い難い。
だが、アイアオ人の特性を拡大した単眼型である10ならば話は別だ。
その圧倒的な索敵能力と持ち前の通信装備。
そして帝都郊外に展開するアイアオ人部隊との連携を以てすれば、アンドロイド部隊相手に不利な市街戦を強いられている地上部隊の状況打開につながる筈なのだ。
ある程度の希望的観測こそ含まれているものの、1のこの判断はそこまで的外れなものではなかった。
実際に10が地上部隊に合流すれば、彼女の能力によって大型火点と司令部を兼ねた強力な通信支援能力を軍師長の元にもたらせるはずだったのだ。
「でも1……敵の指揮官機がまだ……」
10が不安げに後方に目をやる。
そう。
アウリン第一中隊が最後に超えるべき壁こそが、ジーク大佐が駆る最新型強襲猟兵”三皇”だった。
三皇は五帝達をある時は指揮し、ある時は部下達を超える戦闘能力を以てアウリン達を狩り取ってきた最大の脅威。
だからこそ、1は決めていた。
「 10、敵は後方にまだいるんだね?」
言葉を遮られ質問された 10は一瞬口ごもった後に大きな単眼で後方をじっと見た。
アイアオ人仕込みの超知覚は確かにワイヤーアンカーとスラスターによって高速起動する強襲猟兵を捉えた。
「うん……ピッタリ後方一キロに張り付いてる……」
その言葉を聞いた1は前方を見やった。
すでにそこは地図的には帝都外周に入っていた。
帝都東部のこの地帯は一木達の車列が通った位置とは違い、帝城の背後にそびえる山岳地帯の近くになる。
そのため城壁や市街地はほとんどなく、むしろこのまま真っすぐ行けば帝城背後の崖から帝城の真上に飛び出す位置になっていた。
「よし。 10はこのまま帝城の背後から真上を通って市街中心部まで滑空するんだ。ホバー形態でも脚部のスラスターを姿勢制御分まで含めて全力で吹かせば一気に飛べるはずだ」
1自身も無茶だと感じる話だった。
第一、 10の脚部スラスターの一部は破損している。
だからこそ戦闘兵器である自分たちが恋人の様にがっしりと手など繋いで飛行しているのだ。
それでも、あの隊長機相手に 10まで戦わせるよりはマシだとの判断だった。
現に10自身もそう判断していた。
反論するべく何かを喋ろうと大きな目を1に向ける。
だが、決断した1は妹にこれ以上喋らせる気は無かった。
問答無用に繋いでいた手を勢いよく引っ張ると、ふよふよと頼りなく飛ぶ 10を勢いよく前方へと投げ飛ばした。
1は決めていた。
自分が 10を逃がす壁になる事を。
「行け! スラスターを吹かせ!!」
頼りなくて可愛い単眼娘は大好きな姉の声に一瞬体を振るわせた。
しかし、振り向きはしなかった。
覚悟を決めたようにしっかりと前を向くと、自分に残ったなけなしのスラスターを目いっぱい吹かして1が投げ飛ばした勢いを活かし、一気に高度を上げつつ加速していく。
このままの勢いを維持すれば、帝城の特徴的な玉ねぎのような形をした屋根の塔を飛び越えて帝都中心部まで一気に飛んでいくだろう。
そして、それを確認した1はそんな妹を守るべく足を止め、姿勢制御バーニアを吹かして一気に背後を向いた。
エクスカリバー対艦刀を大上段に構え、両の足をしっかりと地面に付けて立つ。
刀身に着いた荷電粒子砲をチャージし、同時に接近戦にも耐えられる様しっかりと指に力を込める。
今や最後に残った強襲猟兵”三皇”は1にも目視出来た。
「さあ来い!」
外部スピーカーを起動して大音声で叫ぶ。
距離500m。
帝王の名を冠した機械が宝物の名を冠した化け物に迫る。
次回更新は本業多忙にて未定です。
九月初めには更新できると思いますので、しばしお待ちください。




