第36話―1 お嬢様はお怒り
『おーほっほっほっほっほー!』
『みんなの敵だ。死ね機械人形!』
ジンライ・ハナコが最終兵装を起動する直前。
ポリーナ大佐はオープン回線で嫌でも聞こえてくる高笑いに苛つきながら、必死にレーザー砲の雨を躱し続けていた。
早々に一機倒したものの、RONINN一個分隊を相手取るのは流石にポリーナ大佐と言えどもきつく、苦戦を強いられていたのだ。
それでも伊達に異世界派遣軍最強のアンドロイドと呼ばれてはいない。
隊長のエリザベット以外の一般隊員を技量が低い順に狙う事で、この時までに敵を残存二機にまで追い込んでいた。
(あのエリザベットとかいう奴は動きが鈍らないが、一般隊員の方は披露して鈍ってきたな……なら!)
ポリーナ大佐は肩にある武装コンテナから航宙魚雷をエリザベットと部下に一発づつ発射した。
当然だが、対艦対施設攻撃を念頭に置いた空間戦用ミサイルであり俊敏なRONINN相手には不向きな兵器だ。
現に相手も一瞬侮るように半ば無視した動きを見せた。
が、その次の瞬間には気を引き締めたように大きな回避行動を取り警戒しだす。
あからさまに無意味な攻撃に対しどう動くか迷っているのだ。
こんなものを使うまで消耗したのだろうという侮り。
これはブラフや囮、罠ではないかという警戒。
だがこの場合、迷いこそがポリーナ大佐の狙いであり不正解な行動だった。
むしろ思い切ってどちらかに割り切った行動をとられた方が厄介だった。
航宙魚雷を悠々と躱してさらなる攻勢に出るか、距離を取りつつこちらの出方を伺うか。
だが、それが眼前の敵には出来なかった。
好機を捨てる事と罠にハマるという二つの恐怖。
それ故にわざわざと死地へと飛び込んでくる。
ポリーナ大佐は迷いで動きが鈍った隙にエリザベット機向けの航宙魚雷を自爆させた。
片方だけ自爆、という状況がさらなる虚と迷いを生む。
当然ながら、さらに動きは鈍くなる。
もともと披露していた部下の方は尚更に。
単純な揺さぶりだが、ポリーナ大佐の方が彼女達より経験が遥かに上だった。
「年季が違うのよお馬鹿さん」
航宙魚雷ごと射抜くようにポリーナ大佐が出力を絞った粒子砲を放つと、部下の機体は沈黙した。
『エミリー……エミリー!』
相変わらずのキンキン声が聞こえてくる。
しかし、今は悲嘆に暮れるその声が心地いい。
『さあて……悪いがサシならまけませんよ』
ポリーナ大佐は脅しをかける気持ちでオープン回線でエリザベット相手に語り掛ける。
だが、あれだけ返事をしろと言っていた当のエリザベットからの返答は無い。
それどころか、先ほどまであれほどまでに機動を繰り返していた動きは慣性のみの単調な動きになり、売ってくださいと言わんばかりだ。
『……仲間が死んで……狂った?』
人間の精神は脆い。あり得ない事ではない。
しかし……。
(粒子砲一発で終わる……けれども撃っていいものか……はっ! いけないいけない!)
行動を迷う事こそが一番の悪手。
相手に対してそう言い切っていた自分自身がまさに今、同じ轍を踏もうとしている事に気が付き、ポリーナ大佐は即座に粒子砲をエリザベットに対し放った。
今更加速しても間に合わない必殺の射撃。
だが。
「…………!?」
爆散した。
否。
エリザベット機が命中する前にバラバラに飛び散った。
当然ながら、標的が無くなれば粒子砲は何に当たる事もなく彼方へと飛んでいくのみ。
「なんだ? 何が……いえ、何をした?」
ポリーナ大佐は慌ててエリザベット機を索敵した。
しかし敵の艦艇やRONINN機の残骸。さらには自身の放った弾薬やミサイル、パージした各部のコンテナやプロペラントタンク類が散乱する戦場においてはそれは困難だった。
「そもそも奴は一体……緊急回避用の脱出システムが作動した?」
だが、あの状況下でそんな事に何の意味があるのだろうか?
エリザベット機はなんら損傷を受けていないのだ。
まさか本当に部下が全滅して精神が崩壊し、その結果攻撃を回避しきれずに緊急脱出を……。
ポリーナ大佐が思考の袋小路に陥っているその時だった。
『死んでしまいましたわー♪ 生まれた時から一緒だった幼馴染のみんなが死んでしまいましたわー♪』
甲高い女の声が、オープン回線で全周囲から聞こえてきた。
あまりにも不可解な言動にポリーナ大佐は思わず恐怖を感じた。
更新が遅延して申し訳ありませんでした。
実はコロナに感染してしまい、ここ数日寝込んでおりました。
未だ自宅待機の状況ですが、かろうじで執筆可能な状態になったので投稿いたしました。
自宅待機中の火曜日までにもう一回くらいは投稿したいと思いますので、お楽しみに。
追伸
時間が出来たのですこし推古しまして、その結果またもやタイトルを変更しました。
予告と違い恐縮ですがご了承ください。




