第34話―4 大馬鹿野郎
「邪魔」
ぼそりと呟くような声が聞こえた。
そう認識した時にはジンライ・ハナコの体は凄まじい衝撃に突き飛ばされていた。
(刀は!?)
訳が分からない。
何が起こった?
刀を振り下ろし、必中を確信したところまでは覚えていた。
だからジンライ・ハナコはこの異常な事態に際しても、刃の行く先だけを気にした。
しかし首はおろか視線すら動かせない。
そのことに疑念を抱いたとほぼ同時に、再びの凄まじい衝撃。
するとようやく視線を動かすことが出来た。
絶対に折れないだけの強度を縮退炉のエネルギーによって担保されていたはずの対人刀が、ぽっきりと刀身の半分ほどで折れていた。
なぜ? という言葉が口から出かけるが、それよりも早く全身から破損による警告が噴出した。
そこに至り、ジンライ・ハナコは自分に何が起こったのか把握した。
対人刀を振り下ろした瞬間、彼女はハイタが無造作に振り回した右手によって殴り飛ばされたのだ。
場所を確認すると、元居た場所の遥か上方。
かつてルーリアトの皇帝が鎮座した主塔の最上階、しかも玉座に位置だった。
折れた刀身。
衝撃波によるものか、全身に破損。
さらに胸部には、ひと際大きな陥没がある。
おおよそ戦闘に耐える状態ではない。
なんとか、反撃を……。
そんな思考を巡らせた瞬間、最終兵装の展開時間が終了し、ジンライ・ハナコの意識も闇に落ちた。
※
ハイタが戦闘していると思しき場所に向かい、ハイタの名前を叫んだと思ったらジンライ・ハナコに何かを投擲された。
一木がかろうじで認識したのはそれだけだった。
持っている盾を構えるなどの行動をとる間もない。
むしろ、これだけの大破壊をもたらすような存在が放ったアレをくらった自分がどうなるか。
そんな想像とも空想ともつかない思考を巡らせるのがやっとだった。
死。
無駄死に。
そんな単語で視界が埋め尽くされる。
だが、それは訪れなかった。
「ヒロ君……大丈夫、なんで来たのよ!?」
ほんのすぐ前まで自分自身だった強化機兵の姿をしたハイタがマナ大尉の姿をした一木を抱き締め、投擲された短刀から一木を守っていたからだ。
少し首を伸ばしてハイタの背後を見ると、投擲された短刀はどこにも見当たらない。
それどころか、ジンライ・ハナコ自体の姿が見当たらなかった。
思わず無言で考え込むと、ハイタが優しく一木の頭を撫でた。
「大丈夫だよヒロ君。投擲された武器は異空間に消し飛ばしたし、あのサイボーグは玉座のままで殴り飛ばしたから」
すこし自慢げな言葉を聞いて、一木は今いる場所の斜め上方。
帝城で(塔を除けば)高い場所にある玉座の間の付近を見た。
まるでバトル漫画でキャラクターが突っ込んだ場所の様に瓦礫と破片が飛び散り、今まさに一木のいる場所に降り注いできていた。
「……グーシュの言う通り、俺はただ単に邪魔な……大馬鹿野郎だったな」
地味に最後のグーシュの呟きまで聞いていた一木は自嘲気味に笑った。
そんな一木の笑みをどうとらえたのか、ハイタは武骨な強化機兵の体で一木を抱き締めた。
マナ大尉の体がミシミシと歪む。
「それはグーシュさんの言う通りです。ヒロ君は大馬鹿ですよ。危うく死ぬところでした。もう……」
少しすねたようにハイタは言うと、一木から身を離した。
「けど、もう大丈夫ですよ。今あいつにとどめを刺してきますからね♪」
そう言って身をひるがえすハイタ。
だが……。
そのハイタの強化機兵の体……その背部スラスターの縁を、一木は強く掴みハイタを止めた。
「……ハイタ……」
「? どうしたの、ヒロ君?」
一木が。
ある意味歴史を変えた決意をハイタに伝えたこの時。
実は戦況が大きく動いていた。
最終兵装とは圧倒的な力を持つものの、縮退炉の5%という強大なエネルギーを単一の存在に無理やり振り分ける無理のある兵器だ。
そのため、ある一定のリズムと法則を持って供給される縮退炉のエネルギー供給システムを部分的にではなく全面的に再構築した上で最終兵装使用者に振り分ける必要がある。
つまり……。
ジンライ・ハナコが最終兵装を発動したその時から今ここに至るまで。
ワーヒド星系に展開する七惑星連合軍は突然のエネルギー供給率の低下と不規則化に陥っていたのだ。
無論それは艦隊戦や帝都での市街戦だけではなく、参謀達の戦闘にも影響を与えていた。
次回 第35話 帝都決戦 お楽しみに。
次回更新予定は8月11日の予定です。




