第34話―3 大馬鹿野郎
恐怖に満ちた目でそちらを見ると、全身が淡く輝く強化機兵”ハイタ”が揺れ一つない滑らかな動きで滑るように空中を飛んできた。
当然ながら、レーザー砲による損傷は全く無い。
「あんな出力のレーザーなんか撃ったら、城内はエライことですよ。ヒロ君やその友達……あなたの連れだって無事じゃ済みませんよ? それともあなたには好きな相手を全身丸焦げにする趣味でもあるんですか?」
「……軍の安全基準は満たしてたよ」
「火星陸軍の基準甘っま! ……いや……そうか。あなたの軍隊主力がサイボーグでしたね。にしても甘いですけど……」
ジンライ・ハナコは饒舌に喋る相手を伺い、どうにか隙を伺おうとする。
だが、見いだせない。
黄金より貴重な、ククがくれた最終兵装の展開時間が溶けていく。
「……どうやって防御した……防ぐ時間なんて」
「……本当に甘ちゃんですね。私達に届く技術を持ってても、頭が地球人なんですから。いいですか? 惑星規模のエネルギーを持ってるなら、いつとかタイミングとか無いんですよ。手段ってのは常に講じておくものです。こうして……」
強化機兵”ハイタ”は誇るように胸を張った。
「全身にプラズマを纏わせ、非常用に空間湾曲点を圧縮して周囲に展開しておけばあの程度のレーザー何のことはありません。レーザーのメイン熱量は異空間に飛ばして、副産物の熱波はプラズマと強化した装甲で無効化しました」
自信ありげに胸を張る強化機兵を眺めて数秒。
「後は……システム面が雑魚。ワンタップでハッキング出来ましたよ。もう少しお勉強して装備は作った方がいいですね。じゃないと、自慢の装備も勝手に廃棄できちゃいます」
隙は、無い。
ジンライ・ハナコは選択を迫られた。
「さてさて。私的には大したことないとは言え、ヒロ君や地球連邦にとってあなたは厄介ですね。申し訳ないですけど、消えといてもらいますね」
逃げるか、戦うか?
否。
距離を再び取るべく電気推進に出力を回そうと足掻くが、次の瞬間には電気推進スラスターとバーニアの噴射口の大半に銃弾が正確に撃ち込まれた。
「ぐああああああ!」
サイボーグになってから久しく上げていない生の感情そのままの悲鳴が口から出て来る。
何事かと周囲を見渡せば、何も無い空間から無数の銃口が出現し、ジンライ・ハナコを囲んでいた。
見たところ自動小銃や重機関銃クラスの物だが、最終兵装とはいえ何ら対策を取っていなければ防御能力は極端に頑丈なだけのサイボーグボディに過ぎない。
ましてや噴射口をピンポイントともなれば、影響は大きい。
「空間湾曲点を活用すれば、銃をあらかじめ異空間に置いておいていきなり全周囲から打ち込む……なんて事も出来たりします。あなた達火星人……アニメとか好きな割に想像力が足りませんでしたね」
そう言って強化機兵”ハイタ”は楽し気に笑う。
重なった声が不気味に響き、ジンライ・ハナコの周囲に浮かぶ無数の銃身が揺れる。
逃げるなど不可能。
ジンライ・ハナコは選択を迫られた。
どのようにして、死ぬかを。
そして。
最終兵装展開可能時間。
残り、5秒。
「うああああああああああああああああああああああああああああああ!」
叫びと共にジンライ・ハナコは身を起こし、対人刀を構えた。
残ったエネルギーと気力と勇気を振り絞って、ジンライ・ハナコは相手に斬りかかる事を選んだのだ。
特に理由は無い。
ただ、月下美人などと呼ばれおだてられた存在が、うずくまったまま恐怖に顔を歪めて死んだと知ったら。
仲間たちや、愛おしい者達。
今はもういない愛し合った少年はどう思うだろうか。
そんな風に考えたからに過ぎない。
「ふっ……」
鼻で笑うようなハイタの声が聞こえたその瞬間。
「ハイタ!」
ジンライ・ハナコの元に勝機は唐突にやってきた。
崩落した上層階の隙間からひょっこりと顔を出した一体のアンドロイド。
つい先ごろ胸を突き刺した後いきなり再起動した不気味な個体。
そいつがいきなり姿を現し、大声で叫んだのだ。
「ヒロ君!?」
強化機兵が上半身を回転させて思い切り背後を見上げる。
間抜けなほど致命的な隙。
ジンライ・ハナコは勝負に出た。
右手首に格納されていた短刀を上層階のアンドロイドに射出。
腐っても最終兵装の装備だ。
通常使用のアンドロイドなど粉砕するには容易な威力がある。
そしてそのまま、全身全霊を持って強化機兵に斬りかかる。
最終兵装展開可能時間。
残り1.8秒。
どちらかは倒せる。
そのことを希望に、ジンライ・ハナコは対人刀を振り下ろした。
次回更新予定は8月7日の予定です。
RONINNの連中は最初っから最終兵装で突っ込めよ、という方もいるかと思いますので、そのうち詳しい解説上げるかもしれません。




