第34話―2 大馬鹿野郎
「ェェェェ!」
声にならない擦れた叫びと共にジンライ・ハナコは剣を振り上げ、即座に振り下ろす。
地球連邦軍の主力戦車の正面装甲ですら両断するその斬撃を、強化機兵の姿をした超兵器は右手から発生させたプラズマブレードで的確に防いでいく。
傍から見れば仁王立ちする二体のロボットが見えない程高速で両手を動かし、その最中にエネルギー同士の反発による閃光が煌めいているようにしか見えない。
ある種間抜けな光景だが、恐るべきことに両者の間で展開されるエネルギーの総量は一つの文明が維持できるほどだ。
そのエネルギー同士の反発が2秒ほど続いた直後。
反発により生じた衝撃はにより帝城の壁と床が崩落した。
「逃げろシュシュ!」
とっさにジンライ・ハナコは叫んだ。
しかし、大切な女が逃げおおせたか確認する暇など無い。
むしろそのあまりにも大きい隙を逃すまいとハイタ右足を一歩下げ、プラズマブレードを展開した右手を大きく振りかぶった。
(突きだ!)
今までの斬り合いでは防戦に徹していた相手がとうとう攻勢に転じた。
最終兵装の自身に反応して見せたあの速度での突きに対し、どう出るか?
「しゃっ!」
思わず飛び出した奇声と共に体の全面にある電気推進を全力で展開。
瞬時に時速にして数百キロまで加速すると、ジンライ・ハナコは崩落しつつある壁を突き破って帝城の外へと飛び出し相手からの距離を取った。
(業腹だが……距離を取る事に活路を見出すしか……)
ジンライ・ハナコは間抜けな自信に歯噛みした。
むしろ遠距離でこそ分が悪く、自分がもっとも得意な白兵戦にこそ勝ち目があると思い近づいた結果がこれとは……。
しかし、月下美人の名は伊達ではない。
ジンライ・ハナコは帝城から飛び出すと同時に肩甲骨の位置にあるメインスラスターを全力で展開。
さらに同時に、白兵戦時には格納していた最終兵装における遠距離武器である高密度レーザー砲をも展開する。
この高密度レーザー砲は三番隊隊長である”魔王”エリザベットが第三種兵装で用いているものの高出力バージョンだ。
ポリーナ大佐と互角に渡り合える代物の、最終兵装仕様。
取り回しをよくするために極度に効果範囲を絞っているため艦隊を一撃で撃滅するような代物ではないが、そのふざけた出力がもたらす貫通力は込められたエネルギー相応の凄まじいものだ。
火星陸軍のシミュレーションでは、第二次世界大戦時の主力戦艦を豆腐の様に切り裂くそれを、ジンライ・ハナコは最高出力で放つべくエネルギーを込める。
「……シュシュは……よし、いないな」
一瞬だけセンサーでシュシュリャリャヨイティを探した後、ジンライ・ハナコは両肩のレーザー砲を放つ。
周囲に舞う帝城の破片がレーザーによって瞬時に液状になり雨の様に地上に降り注ぐ。
この近距離だ。
反応する間もなく撃破したはずだ。防御する暇などあるはずがない。
そんな確信は、両肩のレーザー砲が勝手に自身からパージされた事で瞬時に霧散した。
「なん……」
驚愕の言葉は最後まで発せられなかった。
センサーで状況を把握するよりも早く、突如として何者かに掴まれた足を千切れんばかりに引っ張られ、そのまま元居た場所……正確には崩落したので、その下の階層にまでぶん投げられる。
まるで古の格闘バトル漫画の様に土埃を上げ、城を突き崩しながら瓦礫へと突っ込む。
「が……な、何が」
「何が、じゃあないですよ」
相変わらず不気味に重なり合った女の声が、突っ伏して困惑するジンライ・ハナコのすぐそばから聞こえた。
予告なしでの投稿となり申し訳ありません。
次回更新予定は明日です。




