第33話―5 さようなら
一木に言われ駆け出したグーシュ達の背後から巨大な轟音が聞こえた。
普段のグーシュならば恐怖と好奇心で身動きが取れなくなっていただろうが、消えかけたミルシャの命がその衝動をぎりぎりでとどめてくれていた。
「ミルシャ……頑張れよ。連邦軍の衛生兵の所にさえ行けばお前の怪我なんて……」
グーシュは背負ったミルシャに耐えず話しかけ続けていた。
シュシュ達の元から逃げ出してほんの数十秒でミルシャの衰弱は肩を貸した程度では歩けないほどにまで悪化。
なのでこうして体格の小さなグーシュが背負わなければならなくなったのだ。
しかもこのミルシャの状況の悪化はこれに留まらない。
現に今もこうして語り掛け続けなければ意識が絶えてしまう。
「で……か、殿…………か。もう、しわけ……」
「いいから喋るな! お前の乳を背中で感じられるのだ。悪いことではない。だから、喋るな」
擦れた笛のようなミルシャの謝罪がグーシュの心を軋ませる。
背後から聞こえる轟音は未だ絶えない。
金属がぶつかり、ひしゃげる音。
城を構成する石等が砕け、爆発破砕する音。
銃声と甲高い風切り音。
どれも状況すら想像しがたい破壊による旋律。
それが焦り、悲しみ、好奇心が混ざり合いグーシュを追い立てる。
そんな最悪な状況のグーシュの、汗によって滲んだ視界に不意に白い服を着た人影が目に入った。
「ま、マナ!」
グーシュの口から思わず歓喜一色で構成された歓声が出た。
仲間、それも待ち望んだ衛生兵だ。
グーシュの声を聞いたその待ち遠しい存在は、グーシュ達を認識するとヨタヨタと酔っ払いの様に無様な動きでグーシュ達に駆け寄ってきた。
どこか損傷でもしたのかとグーシュが訝しむ中、たどたどしい動きのマナ大尉は担架兼盾をあちこちにぶつけながらグーシュの眼前にやってきた。
(……なんだ、こいつ……まるで……)
その瞬間にはグーシュの胸中は疑念と違和感で埋め尽くされた。
こいつはマナ大尉ではない。
そんな強い確信が一瞬で持ててしまった。
「良かった、無事だったかグーシュ!」
そしてその確信は正しかった。
マナ大尉の凛々しい顔から発せられた少し情けない様な、優し気な男の声。
「お前……お前……一木か!?」
グーシュは思わず声を上げた。
頭を振り回すように大きく顔を縦に振るマナ大尉……の姿をした一木。
一瞬の安堵の後、望んだ衛生兵がいない事に気が付いたグーシュは思わず泣き笑いのような表情を浮かべた。
遅刻&少な目更新申し訳ありません。
本業多忙にてしばらくこんな感じだと思います。
ご了承ください。
次回更新予定は7月18日の予定です。




