第33話―3 さようなら
「失礼な」
女の声が聞こえた。
その事実にジンライ・ハナコが動きを止めたと同時に、一木弘和はつかみ取った刀身をねじ切ろうと力を込めた。
縮退炉直通の大電圧によって主力戦車の正面装甲を超える頑強さを誇る対人刀の刀身が軋みを上げる。
またもや強化機兵のスペックを超える光景を目の当たりにして、ジンライ・ハナコはようやく冷静になった。
(カラクリはわからない。だが、イカサマがある事が分かった。ならばそれで十分!)
人は理解できない、未知を恐れる。
しかしだからこそ却って裏がある、事が分かってしまえば恐怖は薄れるものだ。
ジンライ・ハナコは即座に対人刀を手放した。
人間サイズの機械が出していい出力を軽く凌駕する出力で対人刀がクルリと一回転する。
が、柄を握る手が無ければそんな動作も無意味だ。
ジンライ・ハナコは右手の指先に電圧をかけて強度を強化。
対人刀には及ばないもののある程度の切断力を持たせると、一木弘和のメインカメラ、即ち目を狙って手刀を繰り出した。
しかしこれは牽制。
強化機兵にとってメインセンサーはあくまで主な光学センサーの一つでしかない。
この汎用兵器にとって視界とは全身に設置された無数の観測手段によって得られたデータから描画される物に過ぎない。
とはいえそれも中身がSSであればだ。
人間であれば目を狙う行為に対して無反応ではいられない。
それを見越しての本命は胸部にあるであろう脳そのもの。
指先に切断力を付与しただけの右手に対して、左は腕全体を強化してドリルが如き貫通力を付与する。
縮退炉の総出力にして0.001%に達する大出力を投入したそれは命中すれば確実に一木弘和そのものを破壊する、筈であった。
しゅっ。
右手を一木弘和の頭部付近に。
左腕を一木弘和の胸部付近に。
それぞれ突き出した音が軽く響く。
次の瞬間にはつかみ取られていた対人刀が足元に落ち、切っ先が石造りの床に突き刺さる。
ジンライ・ハナコの胸中に一度去ったはずの恐怖がまたもや戻ってきた。
何の事は無い。
一木弘和は対人刀から手を離し、ジンライ・ハナコの両腕による攻撃をバックステップで避けただけだ。
ただし、身長二メートルの金属とカーボンとセラミックの塊が物音ひとつさせずに、だ。
「誰だ…お前は」
サイボーグの問いに、一木弘和は答える。
「ハイタ……いえ、シキかしら?」
とぼけた様な女の声とともに、一方的な蹂躙が一木がグーシュを助けに行くまで続いた。
試しに千文字前後で投降して見ました。
この方がスマホの方は読みやすいでしょうか?
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次回更新予定は7月7日の予定です。




