第33話―1 さようなら
ジンライ・ハナコはその瞳に恐怖した。
化け物。
そう、化け物としか言いようがない。
(あいつも……あいつと一緒にいたアンドロイドも化け物だ。サイボーグの生命維持システムとアンドロイドのコアユニットを破壊したんだぞ? なのに……)
シュシュリャリャヨイティを庇い一木と対峙しながらも、ジンライ・ハナコの胸中は恐怖とそこから来る焦りによって占められていた。
もはや真っ当な対抗手段など存在しない。
そんな考えがよぎる程理不尽な現状の中にジンライ・ハナコはいた。
転移の魔法により一木へと肉薄したジンライ・ハナコは護衛のアンドロイドのコアユニットをまず破壊。
続いて一木の生命維持システムをは破壊した。
彼女自身内心で自画自賛する程見事な太刀筋であり、実際両者の急所は完全に破壊された。
(だが……動いた)
一木との問答を終えた直後だった。
機能を停止した筈のアンドロイドが身動きした気配がしたのは。
ジンライ・ハナコがそれに反応して死にかけた一木から目を逸らし振り返ると、コアユニットに一直線に突き刺さった致命的な刀キズを追ったアンドロイドが平然と立ち上がっていた。
一瞬ジンライ・ハナコは思考が停止した。
それほどまでにあり得ざる光景だった。
人間で言えば脳と心臓が破壊されたのに立ち上がったのと同義。
だが、そんな異常事態においてもジンライ・ハナコはは最強のRONINNだった。
一瞬の沈黙の後、即座に対人刀を納刀。
足を大きく開き腰を落とし、納刀した鞘を左腰。続いて右手を鞘に。
抜刀術。
鞘から刀を抜き放つ動作と相手に一撃を与える動作を合一させ、さらに鞘との摩擦を利用することでその速度を神速にまで高める技。
地球における実際の剣術では異なるが、火星陸軍特殊部隊の対人刀剣術においてはそう定義された対人刀剣術における基礎にして究極の技。
(なんだ? 分からないモノは……まずぶった切る!)
ジンライ・ハナコの乱暴とも言える基本方針。
だが、これこそが彼女を”覇王”に告ぐRONINNの実力者たらしめる絶対的実力の根幹だった。
現に、この時あと刹那の時間があれば再起動したマナ大尉は縦横に四等分されていた。
だが、そうはならなかった。
抜刀術の構えを取ったジンライ・ハナコの左肩を突如巨大で硬質な手が掴んだからだ。
「!!っ」
今度こそ隠しようがない驚愕と共に振り返ったジンライ・ハナコが見た物。
それこそが現在ジンライ・ハナコの眼前にいる化け物。
一木弘和の形をした何かだった。
多忙にて本文短めとなっております。
ご了承ください。
次回更新予定は7月4日の予定です。




