第32話―3 姉妹
「面白そうな話ではある。しかしいくら何でも事実とは思えんな。だいたいわらわが勧めた説話を無茶苦茶に貶したような奴が空想説話みたいな話をどこから仕入れてきたのだ?」
グーシュが半眼で咎めると、シュシュは肩をすくめた。
「だって生まれ変わったら世界一の剣の才能が身についていて夢想して女はべらす説話とか……ふふっ……ねえ?」
「お前……」
グーシュがさらに目を細めると、シュシュはカラカラと笑った。
「冗談……という事にしておいてちょうだい。さて、話を戻しましょうか。話の出どころは簡単よ。ニュウ神官長……覚えている? お父様との会談中に私と一緒にいた大きな杖を持った女性よ。あの方が教えてくれたエドゥディア帝国に伝わる建国神話と女神教の伝承。そして火人連とアイムコ先生が教えてくれたナンバーズ関連の情報を繋ぎ合わせて私なりに分析してみたの」
ようやく始まった真面目な話。
しかしグーシュはシュシュが上げた情報源に看過できないものを見つけ、思わず再び話を遮った。
「ちょっと待て! アイムコ先生から……ナンバーズの事を聞いただと!? どういうことだ!」
「まあ、疑問に思うわよねえ。これについては私も驚いているのよ。私が七惑星連合と接触を持った何年も前に、行為の後に聞いた与太話が本当だったなんて……信じられなかったわよ」
「……あんの禿頭の馬鹿め……」
衝撃的な話を聞いて、グーシュは思わず師を呪った。
とはいえ、相手がシュシュでさえなければ。いや、シュシュであっても問題ない行為ではある。
他の惑星の介入さえなければ、ナンバーズに関する情報など説話の設定外の何物でもないからだ。
「ま、あんたとあの禿の関係はどうでもいいとして……。そうそう、ライーファとバイズについてよね」
シュシュはそこまで言うと小さな紙切れを懐から取り出し、再びミルシャに回復呪文を掛けた。
話が終わるまでは延命してやる、という事のようだ。
グーシュが安堵するのを見ると、シュシュは話を再開した。
「ライーファは四足歩行の蜥蜴みたいな知的生命体で、とんでもなく頑強でとんでもなく頭のいい生物だった。生命工学に優れ、資源として活用可能な高性能な人口家畜を製造することで潤沢な資源を得て、複数の銀河を跨ぐ規模の星間国家を築いた……らしいわ。察しがついたと思うけど、この人口家畜の管理コンピューターこそがナンバーズの大本にして我らが女神ハイタよ。アイリーン・ハイタ……一億年前から狂った憐れな主亡き機械」
「そいつらに関しては聞いたな。確か種族全体が単一生命に進化した結果、まともに活動できなくなった」
グーシュの言葉にシュシュは頷いた。
「ええそう。けれども、なんでそんな事をしたのかは知らないでしょう? 簡単な話よ。ライーファは戦争していたのよ」
「その相手がバイズか?」
「そう。バイズ。ケイ素生命体……私はよく分からないけれども、エドゥディア帝国の伝承によると七つの巨大な意思を持った宝玉だったらしいわ。帝国聖教においては神とされているけれども、歴史学においては鉱物によって体を構成していた生命体だったとされているわね」
「なるほどな。エドゥディア帝国の神がそいつらという事は、つまりライーファにおけるハイタや家畜の役割を果たしていたのが……」
「そう。たった七体しかいないバイズは、有機生命体を遥かに超えるポテンシャルを持った高次生命体だった。けれども、彼らはあまりにも次元が違い過ぎた。今となっては戦争の原因は分からないけれども、ライーファとの戦いにおいて彼らバイズの思考や能力は高等過ぎて空回りしていたらしいわね。そこで、ライーファとある程度同レベルかつ、自分たちの手駒になる存在を作り出した。それがエドゥディア人。地球と全ての異世界人、そしてルーリアト人の始祖」
グーシュは思わずミルシャを抱く手に力を込めた。
悲しいかな、壮大な話を聞いて興奮が抑えきれなかった。
我慢しきれずに、荒い息とともに言葉が口から漏れ出た。
「それで……高等過ぎて対抗はおろか理解も困難な宝玉生命体に対抗するために取った手段が高次生命体になるための種族統一……そして、その結果有機生命体の枠から外れてしまい、文明の統率者としては実質的な死を迎えたわけか……それでは、バイズはどうなったのだ?」
シュシュは興奮したグーシュにはすぐに答えず、再び紙切れと共に回復を唱えた。
今度はミルシャを見もしないグーシュを見て軽く笑うと、口を開いた。
「バイズも実質的に滅んだ……というか死んだ……いえ、進化かしら? 伝承によるとある日突然うんともすんとも言わなくなって、巨大な鉱石はみるみる崩壊していったそうよ。例によって歴史学者は、ライーファが人工的に種族を進化させることに対抗して、自分たちもさらなる高次生命体への進化を画策した結果、あまりにも高等過ぎて人間のような生命体には知覚できなくなってしまったのでは、という事らしいわね」
「なるほど、なるほどな! ……いや、それでだ。その話がどうしてわらわと子供云々につながるのだ?」
興奮が少し冷めたグーシュが指摘するが、シュシュは軽く指を振ってそれを諫めた。
「ここからが本題よ。ライーファの残した文明の遺産は女神ハイタとなり、やがてナンバーズという文明強制育成機械となった。そして、バイズが残したエドゥディア人達ももちろんそこで終わらなかった。死んだバイズの体の中からバイズの動力源とされた宝玉を発掘して利用し始めた。彼らは途方もない年月をかけてエネルギー源を元に魔法技術を魔導工学へと進化させ、動力源を神器と呼ばれる強大なエネルギー源へと加工。やがてエドゥディア帝国という魔法によって成り立つ星間国家を築いたの。その巨大な星間国家の皇帝一族は現在絶えて久しいんだけれども、あるところにその子孫がいる事が判明したの。どこかわかる?」
問われたグーシュは首を振ろうとして、ピタリと動きを止めた。
シュシュがグーシュに求めていた行為の意味を考えて、ある考えに至ったからだ。
「まさか……」
グーシュはゆっくりと指を自分に向けてから、そのまま指先をシュシュに向けた。
それを見てシュシュはニンマリと笑みを浮かべた。
「そう。川の騎士シューにより助けられた少女は、シューからもらった精子によって子を孕み、ルーリアト王族の始祖となった。では、ナンバーズであるシューはどこからその精子を入手したと思う? 彼は自らが知る限りもっとも優秀な遺伝子を持つ精子を用意したの。そう、エドゥディア星間帝国の歴史において初代にして最後、唯一の皇帝。魔導皇帝ファーリュナスのね……」
その瞬間グーシュは姉が変な紙切れを用いているとは言え、魔法をバンバン使っている理由が分かった。
自分たちルーリアトの皇族には流れているのだ。
魔導皇帝とかいう存在の血が。
グーシュは自らの心臓が隠し切れない程脈打つのを強く感じ取った。
それは冷たくなりつつあるミルシャをより感じさせることとなり、高揚とは裏腹にグーシュに自身の薄情さを自覚させた。
次回更新予定は6月17日の予定です。




