第31話―4 憎悪
轟音とともに強襲揚陸艦が着陸、もとい墜落した様子は当然ながら一木とグーシュの目にも入っていた。
「い、一木! 敵の船が……」
グーシュがあまりの光景に窓から身を乗り出す。
だがそれはあまりのも軽率な行為だった。
「下がれグーシュ! 衝撃波が来るぞ!」
グーシュが一木の叫びに反応するのと同時に一木が腕でグーシュを庇い、ミルシャが背後から庇った。
その一瞬後、帝城はおろか帝都全体を揺るがす衝撃が全てを激しく揺さぶった。
軍師長が身内の粛清のために行ったこの行為の影響は大きかった。
地球連邦軍側にとって予想外の行為だったのは言うに及ばず、ろくな根回しを行わずに行われたこの降下地点の急な変更は七惑星連合にとっても想定外だったのだ。
その影響によって生じた最初の変化が地球連邦軍の航空部隊の展開と、それへの七惑星連合側の対処だった。
『マンダレーコントロールより発信、帝都まであと0、2』
ダグラス大佐の旗艦マンダレーから管制を受けつつ帝都上空に向かっていたのは七惑星連合の地上部隊が本格展開するまで隠匿されていたジークメッサーとキルゴアからなる航空部隊だった。
ダグラス大佐はアウリン隊の迎撃に全ての部隊を投入することを良しとせず、主に制空権と対地攻撃を主眼とする航空部隊を突貫工事で作った地下格納庫や洞窟。下手をするとは廃屋にまで隠していたのだ。
軌道上で隕石やデブリに紛れていたメビウス隊もいれればそれら偽装航空部隊の数は60機を超える。
いわば切り札の一つだった。
ダグラス大佐はこの切り札を敵の第一陣が降下し、第2陣と思しき強襲揚陸艦が動き出した直後に切った。
重巡洋艦部隊の一斉砲撃及び突撃と同時に展開された航空部隊は想定通りならば七惑星連合の地上部隊を程よく漸減してグーシュの活躍を示すいい演出になる。そう言う算段だった。
しかしこの目論見は外れてしまう。
軍師長達が帝都に墜落同然の強行着陸を行い、直後に軌道上にいた第2陣の強襲揚陸艦が撃破された。
ハストゥールのクク艦長達にとって第2陣の撃破は想定内の行為だったものの、軍師長と降下部隊の指揮官たちによって直前に決定されていた帝都への直接降下は知らされていない行動だった。
焦った彼女達は大いに迷った。
この強行着陸は意図されたものではなく、地球連邦軍による何らかの工作の結果ではないのか?
軍師長とカルナーク、火星連合部隊は、正真正銘本当の危機に瀕しているのではないか?
この疑念に囚われた彼女たちの精神は、直後に起きた地球連邦軍航空部隊の伏兵が大量に大気圏内外に現れた事に耐えられなかった。
なぜなら、軍師長とその指揮下の部隊は彼女達にとって替えの利かない虎の子より宝石より同じ重さの金よりも貴重なものだった。
それをみすみす見捨てるという選択は彼女達には取れず、それゆえに直情的に戦場に波乱を巻き起こす命令を下した。
『眼を開け 上空に敵機!』
帝都に向かって悠々と飛行する高速武装ヘリと戦闘機の群れに軌道上から襲い掛かったのは予備部隊として温存されていたアウリン第10中隊だった。
クク艦長達は異世界派遣軍の宇宙艦隊を撃滅するために全投入しようと考えていたアウリン隊からさらに10機を割いたのだ。
この七惑星連合の動きは地球連邦軍にとっても完全に想定外だった。
アウリン隊を相手にする事は無いと高をくくっていた彼ら航空部隊は(敵はメビウス隊が対処するはずだったが、クク艦長達はメビウス隊に撃破されるリスクを取って大気圏内の航空部隊を狙わせた)大慌てで対地攻撃用の兵器を投棄しアウリン隊の迎撃に向かった。
地球連邦軍と七惑星連合軍。
互いが互いに軍師長の行動を相手に裏をかかれたと判断し、切り札を1枚切ったのだ。
これによって帝都防衛線と異世界派遣軍の軌道上からの排除という、双方がある程度優位性を保てると考えていた戦闘は泥沼化することとなってしまった。
80機以下にまで減ったアウリン隊を攻撃、直掩、休養整備にローテーションしながら既存艦艇を前面に押し立てて犠牲を強いられる七惑星連合軍。
帝都外周部に構築した防衛線と航空部隊からの支援によって優位性を保とうと考えていた地球連邦軍。
ボタンを掛け違えるように双方の想定から戦況は悪化していった。
次回更新予定は5月19日の予定です。




