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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第31話―3 憎悪

 一木達が忌々しい思いで見ていたのは火星宇宙軍の強襲揚陸艦だった。


 ぱっと見は全長200m程の単体の艦に見えるが、その実六隻の艦が結合した特殊な形状をしている。

 つまり単体による効率的かつ防御力を活かした降下か、分裂した状態での機動性と一気に全滅する陸巣を避ける降下かの選択が可能な艦なのだ。


 そんな強襲揚陸艦の指揮所では降下時の緊張感の中、軍師長が厄介な相手との通信の最中にあった。


『ふむ。君の主張通り敵の抵抗力は既にない、と見ていいようだのう』


 モニター越しに尊大な口調で喋るのはカルナーク軍の軍服に身を包んだ枯れ木のような老人だった。

 さらにその両隣には枯れ木を通り越してミイラの様な老人と、逆に豚の様に肥満体の老人がいずれも豪奢な椅子に腰かけていた。


「わかっていただけましたか。ご覧の通りです。我々偉大なるカルナーク軍の地上展開を阻止する唯一の機会を、敵はみすみす捨てております。敵艦隊が守勢に入り制天権を得られつつある今が好機。どうか、提案した大将軍方率いる主力の降下をお願いしたく……」


 そんな老人たちに対し、指揮所の椅子にベルトで体を固定している軍師長は降下中とは思えないような平静な口調で応じた。

 周囲にいる火星、カルナーク軍連合部隊の指揮官たちが青い顔で歯を食いしばって緊張に耐えている中、その態度はあまりにも異質だった。


 もっとも、モニターの向こう側にいる老人たちに見えないその手は他の指揮官たちと同様の緊張感、そして怒りから皮膚が破けんばかりに難く握られていた。


『図に乗るでないぞ下級カルナーク風情が。我ら真のの一等カルナークにお前のような者が座って口をきくだけで不愉快極まるのだ』


 そんな軍師長の心中など全く見えていない老人たちは相も変わらぬ態度で軍師長に罵声同然の言葉を浴びせ続ける。


 余談だが、真の一等カルナークなどというものはカルナークにおいては存在しない。

 確かにカルナークは民族浄化を至上とする極度の血統主義の社会だ。

 それを物語るようにカルナーク人はその決闘によって純、一等、二等、三等の四階級に分類され、それが性にもなっている。


 支配者階級であり代表(ヤー)と呼ばれる指導者を輩出することが唯一許される有史以来純粋なカルナーク人のみで血統を保ってきた純カルナーク。


 純カルナークから最初期に分派した者達や、各支配民族の中でも一定の代を重ねそれが認定された幹部階級である一等カルナーク。


 民族浄化を受け入れた者達の子供以降の者達、即ちカルナークの中間層である二等カルナーク。


 支配されたばかりでカルナークの血が入っていない者達や、アイアオ人の様に何らかの事情でカルナークの血を入れる事が出来ない者達、三等カルナーク。


 あくまでこの四種で構成されており、これ以外に差異は存在しない。


 しかし、この老人たちの認識は違っていた。

 彼らは惑星カルナーク時代を知り、なおかつそんな自らの血族とその派閥に属する者達が真なるカルナークであるとし、それ以外を一等や二等と言った階級に関わらず下等なものとして見下しているのだ。 

 そんな身勝手かつ歪んだ価値観の塔人達による作戦行動中とは思えないような光景が揚陸艦が降下ポイントに移動を開始した時からずっと続いているのだ。


「申し訳ありません」


 そう言って頭を下げた軍師長は、そっと隣の席に座る艦長に向けて決めておいた合図を送った。


 軍師長が先陣を切った後、大人しく老人たちが自慢の真なるカルナーク部隊を降下させるなら必要ないとされていた合図だ。


 しかし、こうしてグダグダと言い訳とパワハラじみた行為を大気圏内への降下を開始して尚続ける現状のような状況においては、遺憾ながら決行せざるを得ない。


「大将軍閣下、会話の最中申し訳ございません! 軍師長、地球連邦軍の奴らやってくれました……電子的な攻撃を受けています。このままでは予定降下ポイントを維持できません!」


 いささか演技臭く艦長が叫ぶ。

 それを聞いた老人たちの表情に明らかな笑みが浮かぶのを見て取った軍師長は、精一杯の演技で叫ぶ。


「な、なんだと至急姿勢を直せー。敵の電子攻撃手段に関する情報を収集して本隊に送るのを忘れるなよー。大将軍閣下申し訳ございませんが状況悪化にてこれにて失礼いたします」


 軍師長の言葉は演技、という言葉以前の代物だったが老人達はその点についてなんら反応を示さなかった。


『うむ、頑張れよ』


 などという気のない励ましを笑顔で送ると、向こうから通信を切ったのだ。


 消えたモニターを見た後、艦長と軍師長は顔を見合わせた。


「……本当に今ので将軍連中、降りてきますでしょうか?」


「来るさ。奴ら私が先発すると聞いて最初は乗り気になったが、いざ攻撃が無くすんなり降りれそうになったら面白くなくなったんだ。嫌いな私とその指揮下の部隊がハッキングであからさまな苦戦を強いられれば来るさ」


 艦長の言葉には行為そのものよりも、軍師長の演技を心配するそぶりが含まれていた。

 しかし、軍師長はその点には触れなかった。


 艦長もその点についてはそれ以上言わず、いよいよまじかに迫ってきた地表を見つめつつ部下に指示を出す。


「最終姿勢制御開始! 降下予定ポイントを帝都東部のポイント1から帝都中心部にある国葬会場跡地に変更。ショックアブソーバー及び稼働装甲は正面防御から全集防御体系に移行。各部隊は火星陸軍完全機械化部隊を前衛に強襲戦闘準備だ!」


 ポイント1とは現在RONINNとクラレッタ大佐達が戦う場所から見える山林地帯のやや奥側にある平地の事だ。

 本来であればここに降下した軍師長達はアイアオ人部隊と連携しつつ部隊を再編し帝都に進行するという手はずだった。


 しかし大将軍たち老害の突然の降下拒否によって、軍師長達の計画は変更を余儀なくされた。


 即ち、地球連邦軍によるハッキングを装い帝都中枢に強硬着陸を図る事で大将軍たち処分対象の部隊をルーリアトに引きずり込むのだ。


 ゆっくりとスラスター制御によって姿勢を変えた揚陸艦が、安全の確保された降下地点から異世界派遣軍が手ぐすね引いて待っているであろう帝都中心部へと降りていく。


 さすがの軍師長も冷や汗を垂らす。

 組織の膿を出すためとはいえ、あまりにも対価が高すぎたのではないかという思いが胸の内から消えないのだ。


 しかしそんな吐き気のするような思いは、待ち望んでいた報告と共に胸の内から消えていった。


「軌道上にて降下ポイントに移動していた第二次降下部隊が……ああ!」


 軍師長達の真意を知らないオペレーターが悲痛な声を上げる。

 思わず上を見上げる軍師長をよそに、艦長がオペレーターを叱責する。


「報告を中断するな! 第二陣がどうした?」


「敵重巡洋艦部隊による砲撃が命中し大破……あ!? たった今爆散しました……」


(さらばだ、いけ好かない八千の同胞よ……)


 軍師長が心にもない祈りをささげると同時に、軌道上を映し出すモニターに凄まじいまでの光の奔流が映し出された。

 たった先ほどまで黙り込んでいた地球連邦軍の艦隊が猛攻を開始。

 帝都周辺の降下ポイントを抑えていた火星宇宙軍を排除しにかかった。


「帝都周辺及び軌道上にレーダー反応検知! 敵の戦闘機です! 数……約60!!!」


「着陸十秒前! あっ……て、敵の対空砲火です!」


 膿を出し切った事による反動がいよいよ苛烈さを増す中、軍師長は腰に差していたカルナーク様式の指揮刀をゆっくりと抜いた。


「着陸と同時にサイボーグ部隊を先頭に展開し広場を制圧せよ! RONINNとアイアオ人部隊は帝都の東門に突撃し敵防衛部隊を分散させろ!」


 叫び終えたと同時に強襲揚陸艦は凄まじい揺れに襲われた。

 グーシュの国葬会場だった場所は一瞬にしてがれきの山となり、武骨な金属の塊の下敷きになった。

 

 こうして帝都は、いよいよ戦場になった。

更新に関する連絡が滞り申し訳ありませんでした。

いよいよ戦闘は月軌道と帝都周辺の小競り合いからゲート周辺と帝都上空の本格的艦隊戦と帝都における本格的な地上戦に突入しました。


何とかテンポよくいきたいところですが……精進します。


次回更新予定は5月15日の予定です。

次回もよろしくお願いします。

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