第30話―5 もう一人のシュシュ
「ハナ。ハナ? どうしたのぼんやりして……」
中庭にいた連邦軍の部隊を一掃したジンライ少佐に、シュシュリャリャヨイティが声を掛けた。
不意に昔の事を思い出して立ち尽くしていたのはほんの数秒だったが、いきなり動きを止めたので心配したようだ。
「ごめんシュシュ……ちょっと、昔の事を思い出して」
悲し気にジンライ少佐は言った。
彼女にとってシュロー・シュウとの思い出は楽しくとも辛いものだった。
ジンライ少佐にとってだけではない。
シュロー・シュウは覇王の名に恥じない最強のサイボーグだった。
仮に今この星系にシュロー・シュウが居れば、全ての状況は変わっていたはずだ。
艦隊戦においても軌道制圧戦においても、制空権の確保においても対アンドロイド戦においても……。
全てにおいて他者を圧倒するシュロー・シュウならば、今のような苦戦など無かったはずなのだ。
「まだあのことを悔いているの?」
そんなジンライ少佐の心を見透かしたのか、シュシュリャリャヨイティが不安そうに問いかけた。
その通りだ。
ジンライ少佐は今でも悔いている。
自分のせいで七惑星連合と地球人類の希望であるシュロー・シュウが討たれたあの日の事を。
ギニラスなどという辺境の星系で、たかが21世紀生まれのサイボーグ一人を倒すためにシュロー・シュウが討たれたあの時の事を……。
「ああ、悔いてるよ。あの時、シュローは私に気を取られたせいで一木弘和にやられたんだ。今でも夢に見るよ」
そう言うとジンライ少佐はゆっくりと城内に向かって歩き出した。
全ての因縁を終わらせるためだ。
「一木弘和を倒して、私の責任を果たす。まっててね、シュロー」
決意と共にジンライ少佐が呟くと、その後ろを楽し気にステップを踏みながらシュシュリャリャヨイティが続いた。
彼女は一見すると非武装だったが、その手には数枚の紙が握られていた。
軍内で通称”カード”と呼ばれる魔術を用いれない人間でも簡易的に魔術が使用可能になる魔道具と呼ばれるものだ。
ニュウ神官長が複雑な制作工程と多忙な身の中で増産したものであり。シュシュリャリャヨイティは今回、その大半を持ってきていた。
現に今さっきも自動小銃や装甲車の機関砲が飛び交う中、プロテクションの魔法を用いて無傷で立ち続けていた。
「まあ、一木弘和を倒すのはいいけれども、あまり前のめりにならないでよね。何よりグーシュちゃんを巻き添えにしないでよね。あの子は私が確保したいから、ね」
「わかってるよ。手は考えてあるから、好きにしたらいいさ」
友人同士のように朗らかな雰囲気で会話する二人は、そのままの雰囲気で帝城内に足を踏み入れた。
そうして歩き続けたジンライ少佐達は、三十秒も歩かないうちに待ち伏せていた歩兵型一体を踏み込んで一気に袈裟に斬りつけ、倒した。
ちょうどコアユニットの位置から斜めに真っ二つになったそのアンドロイドは反応すら出来ずに死んでいく。
「他愛ない。さあ一木弘和……あの時の様な幸運に助けられるとは思わない事だ」
憎悪に満ちた声でジンライ少佐はずんずんと歩き出した。
目指すのは上層階。
すでにこういった状況のシミュレーションはしてある。
敵が目指すとしたら、グーシュリャリャポスティの私室がある塔の最上階しかない。
一木達の策を読み切ったジンライ少佐達は待ち伏せを勘とセンサーで探知するたびに対人刀を振りながら一木達を追った。
センサーの最大距離に補足した頃には、真っ二つにされたアンドロイドは一個小隊を越えた。
本業多忙にて疲労気味のため、今回ちょっと短いですが、ご勘弁を。
次回更新予定は4月27日の予定です。




