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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第29話―7 RONINN

「一木司令が到着しました」


 殺大佐がクラレッタ大佐達の所に到着したその頃。

 帝城の中庭に停車する指揮車内のグーシュに彼女が待ち望んでいた報告が伝えられた。

 

 報告したのは先ほどから帝都郊外の戦闘経過を報告していた参謀型アンドロイドだ。

 現在帝都にいるたった二人しかいない貴重な参謀型アンドロイドの一人であり、グーシュの護衛件本部の指揮のためにとアミ中佐が配備してくれたのだ。


 ちなみにアミ中佐はもう一人の参謀型と共に帝都の市街地に赴き、防御体制構築の指揮を執っている。

 

「ありがとうロミ大尉。やれやれ、やっと落ち着けるな」


 グーシュはホッとしたように指揮車備え付けの簡素な椅子の背もたれによりかかった。

 グーシュのすぐ隣で膝を付いていたミルシャも安堵した様子で頷いていた。


 それというのも、郊外で発生した哨戒部隊への思わぬ攻撃から始まった戦闘経過があまりにも不穏だったためだ。


 グーシュ達からしてみれば、敵の正規部隊が宇宙からやってくるまでは防衛体制は万全、というアミ中佐達からの説明があっという間に覆されるような状況だ。


 さらにその上ようやく宿営地から到着したクラレッタ大佐とシャルル大佐という個としては最強クラスの存在までもが苦戦を強いられ、一木の護衛に残っていた殺大佐まで帝城に来ないで増援として赴く始末。


 艦隊の敗北と主力部隊の壊滅という状況下にあっても、帝都の防衛は万全という前提が崩れつつある現状は非常につらい物があった。


 だからこそ、一木が追加で連れてきた宿営地駐留部隊は心強い存在だったのだ。


「一木と宿営地の主力がくれば郊外にいる連中も追い払える、そうだな大尉?」


「はい。主力を撃滅した老人が気がかりではありますが、それさえ除けば今郊外にいるRONINNとかいう連中も……防衛に徹すれば敵ではありません」


 真っすぐにグーシュの目を見据えてロミ大尉は言った。

 だが彼女は宿営地駐留部隊が新型艦載機部隊に追われるように帝都にやってきたことも、その新型艦載機部隊がジーク大佐達と交戦しつつも帝都に迫っている事も伝えていなかった。

 クラレッタ大佐とジーク大佐が口止めしていたからだ。

 この期に及んで、ではある。

 しかし、クラレッタ大佐とジーク大佐はたとえグーシュであろうと、追い詰められた人間の判断力を信用するつもりはなかったのだ。


 さすがのグーシュもアンドロイドが本気で隠している情報を察知することは出来なかった。


「よし。それにその老人は偵察機や偵察衛星で監視中だ。……大丈夫、大丈夫だ」


 口とは裏腹にまだ不安そうに言うと、グーシュは立ち上がって後部ハッチに向かった。

 一木を出迎えるためだ。

 即座に意図を組んだミルシャとロミ大尉も後に続く。


「しかし、すでにルーリアトにあれだけの部隊が来ているとは。降下すればわかる筈ではなかったのですか?」


 指揮車ハッチの前で開くのを待っているとミルシャ非難じみた口調でロミ大尉に尋ねた。

 その問いにたいして沈黙してしまったロミ大尉を見かね、グーシュが口を開いた。


「ミルシャ、そう言ってやるな。異世界派遣軍としても想定外の事態なのだろう。それに大方、あのニュウとかいう魔法使いの仕業だろうよ。敵方にはこちらには未知の技術である”魔法”があるのだ。不可思議で解明不可能な事の一つや二つ流すくらいでないとこれからの戦いはやっていけんぞ」


 グーシュはそう言って笑った。

 彼女としては稼動開始後半年の幼い参謀型アンドロイドを気遣っての発言だった。

 だが、実のところロミ大尉が押し黙ったのはミルシャが口にした降下部隊の尖兵の事を隠匿敷いているうしろめたさからだった。


(うう、人間に嘘をつくのは異世界人でも気が咎めるな。だいたい、クラレッタ大佐達はグーシュ様がこの状況から裏切るだなんて本気で思っているのか?)


 ロミ大尉はクラレッタ大佐達から命じられた新型艦載機効果の事実を隠匿する命令に疑問を抱いていた。彼女としてはグーシュという異世界人は非常にアンドロイドに友好的な存在であり、まして将来的には地球人になる事を目指すという点で、通常の異世界人とは別種の好意を抱く存在でもあった。


 このロミ大尉の抱いた感情は何も特殊なものでは無かった。

 グーシュの細やかなコミュニケーションは彼女と交流したアンドロイド達に同種の感情を抱かせ、オダ・ノブナガ予備軍を帝都守備隊に大量に作り出すことに成功していた。


 この事態にクラレッタ大佐達艦隊参謀は未だに気が付いておらず、だからこそグーシュへの一部情報の隠匿に関しても詳細を説明せずに命令していた。

 もし、クラレッタ大佐達が一般のアンドロイド達のこういった傾向に気が付いていれば、情報隠匿はグーシュへの不信からではなく、グーシュの取り巻きである帝国幹部たちへの不信からであることもロミ大尉達に通達していたはずなのだ。


 この辺りクラレッタ大佐達の油断であり、そして襲撃に伴う多忙ゆえの事であった。


「……申し訳ありませんグーシュ様」


「なあに気にするな。そもそもお前たちに苦労を掛けているのはわらわの姉でもある。謝罪するのはこちらだ。だいたい、一木が宿営地から精鋭を連れてきているのだ。もう安心だろう?」


 和やかに言うグーシュに対し、ロミ大尉は再び頭を下げた。

 実は、彼女はグーシュにたいしてもう一つ情報を隠していた。


「しかしこの扉開くまで長いな……」


 グーシュが搭乗したせいで用心保護モードに移行したガガーリン装甲車は、ハッチの開閉の度に外部の環境を探査するというある種面倒なモードに移行していた。


 そのため、本来ならばスピーディーに開閉して歩兵を一瞬で降ろすこの車両のハッチは、いちいち外部環境の探査を一分近くも行ってから開閉しているのだ。


「グーシュ様の安全を第一にしておりますので……」


 縮こまるようにして謝罪するロミ大尉の頭を軽く手の平で撫でる様に叩くと、グーシュは満面の笑顔を浮かべた。


「そんなもんいいからとっとと開けるぞ」


 そういってグーシュはハッチ横のコンソールを操作すると、外部探査を強制的に終了させてハッチを勢いよく開いた。

 そして、軽やかな足取りで外へと足を踏み出し、こう言った。


「おお、一木! さっきはすまなかった……な?」


 グーシュの声がみるみるうちに小さくなった。

 無理もない。


 なぜなら、グーシュの眼前にいたのは一木と宿営地の主力部隊ではなかった。


「グーシュ、遅くなってすまなかった。まずは取り急ぎ情報共有とこれからの方針を決めよう! ……てあれ? どうしたグーシュ、固まって?」


「な、な、な……」


「な?」


 しばし口ごもったグーシュに対し、一木がモノアイを回しながら問い返す。


「なんだこれは!? 宿営地の主力がボロボロではないか!?」


 グーシュが騒いだ理由はこれだった。

 宿営地から来た部隊はアウリン隊の猛攻により、多数の歩兵型SSが搭乗車両ごとやられ、その結果歩兵型アンドロイドの穴を事務作業などに従事するSLが行う状況になっているのだ。


 このことを焦げた装甲車や機関銃陣地の構築を行うべくあくせくと働くタイトスカート姿のSLによって気が付いたグーシュは衝撃を受けたのだ。


 そうして、ロミ大尉の方を一瞬睨みつけたグーシュはすぐに正面の一木の方へと向き直った。


「そうだな。どうもわらわの所に来ている情報と現実の間には齟齬があるようだな。詳しく聞こうではないか一木?」


 険しい表情でグーシュがそう言うと、一木のモノアイがぐるぐると回りだした。

 その様子を見つつ、小さく息を吐いたグーシュが一木の方へと一歩足を踏み出したその時だった。


『システム、起動』


 凛とした女の声が微かにグーシュの耳に届いたのは。


 そして、その結果はそれに対しグーシュが反応を示すよりも早く訪れた。

 たった今までグーシュが乗っていたガガーリン装甲車指揮型が勢いよく爆発したのだ。


「殿下!!」


「うわあ! なんだなんだ!?」


 とっさにミルシャがグーシュを地面に押し倒さなければもろに破片をくらっていただろう。

 実際に、ほぼ並んで立ったままだったロミ大尉は全身にこまごました金属とセラミックの破片をくらって全身にトゲが生えたようなありさまだった。


「あれ、おいシュシュ……お前の妹装甲車に乗ってないぞ。そこで生きてる」


 そんな突然の惨劇に沈黙する中庭に、再び凛とした女の声が響く。

 今度はグーシュだけではなく、その場にいた全員の耳に届く。


「あれ、索敵魔法で装甲車の外部探査モードが作動した事が分かったから攻撃開始を指示したのだけれど……おかしいわね、あの装甲車ハッチが開くまであと一分はかかるのに……」


 続いて、グーシュによく似た。しかしどこかふわふわとした印象の声が響く。


「シュシュ!」


 その声が聞こえた瞬間、グーシュは勢いよく叫んだ。


「あらグーシュちゃん、お久しぶりね? あなた装甲車のハッチ無理やり開けなかった?」


 妹の叫びに反応したように、装甲車の真下に開いた穴からのそりとシュシュリャリャヨイティが顔を出した。

 そのすぐ隣には、日本の甲冑のような黒衣の戦闘服を着こんだ一人のサイボーグが爆炎に包まれながら立っていた。


 その姿を見て一木が呻いた。


「ジンライ……ハナコ……」


 そんな一木の声が聞こえたのか、シュシュリャリャヨイティに手を貸していたジンライ少佐は黒煙の向こうにいる強化機兵の方を憎悪に満ちた目で睨みつけた。


「よお、イチギヒロカズ……」


 二つの因縁が帝城で再び出会った。

次回更新予定は4月6日の予定です。


気の利いたエイプリルフールネタでも用意したかったのですが……センスと時間が足りませんでした。ご了承ください。

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