第28話―3 天空の砲火
おたおたと回頭してルーリアト大陸への降下地点の一つを明け渡し撤収する異世界派遣軍の艦隊と、見るからに足止めするかの様に急行してくる護衛艦。
その光景は誰がどう見てもアウリン隊を恐れる姿そのものだった。
「ダグラス大佐!? どういうつもりですか……これでは地上に降下されます!」
マンダレーが思わずダグラス大佐に抗議の声を上げた。
今明け渡そうとしている降下地点の一つは大陸北部、ダスティ公爵領北方の辺境だが、ある程度の輸送手段さえあれば容易に帝都までたどり着ける位置だ。
よもや七惑星連合の地上部隊が徒歩移動しかできないとも考えられない。
つまりは、あそこを明け渡せばただでさえサイボーグや艦載機に翻弄されている地上部隊はさらに翻弄されることになる。
「お前以外も皆混乱しているな?」
しかしダグラス大佐の返答はまたもや見当外れに感じられるものだった。
マンダレーからしたら信じられない。
混乱しているのは当然だ、なぜなら何も知らされずに明らかな悪手を打たれているからだ。
それでもダグラス大佐の笑みは消えない。
「まあ見ていろ。皆が思っているようにはならないさ。それに、こういうのは変な演技より自然な方が上手くいくんだ」
※
「敵は潰走しています。前衛の軽巡洋艦部隊は撤退中、さらに後方の主力艦隊も同様に下がっています。足止めと思しき小型艦が多数急行していますが、先ごろアウリン隊が圧倒した護衛艦です。間もなく降下ポイント1-1は制圧出来るものと思われます」
未だ修復中のハストゥール。
その艦橋にはオペレーターの歓喜交じりの報告が響いていた。
現状ハストゥールは修復の最中であり、四隻の防護艦を護衛に付けた上でシャフリヤールとの戦闘宙域で待機している。
そのため前線の状況を報告されたり戦略的な判断自体は求められるものの、最前線の指揮自体はクーリトル・リトルが務める事になっている。
そんな中届いた報告は拍子抜けするような報告だった。
地上には僅か一個師団。
しかも主力が騎士長により壊滅した残党のような戦力しかない状況なのだ。
それだけに地球連邦軍の軌道上での抵抗は苛烈なものになるというのが当初の予想だった。
それが蓋を開けてみればアウリン隊を前衛に出した途端に総崩れ。
艦橋の雰囲気が緩むのも当然といえた。
だが、そうではない者達もいた。
ニュウ神官長、クク艦長、そして軍師長の三人だ。
「どう思いますか?」
オペレーターや艦橋要員の明るい会話の中、声を潜めてクク艦長が隣に立つ二人に尋ねた。
一件優位な戦況だが、現状彼女達にはある懸念点があったのだ。
「罠です、間違いない。個艦の動きには迷いがあるが、総体としての動きには意思が感じられる」
軍師長がはっきりと断言した。
ニュウ神官長やクク艦長が手元のモニターを見てもただ艦隊を示す点やアイコンが動いているようにしか感じられないが、軍師長が見れば”意思”まで感じ取れるようだ。
「なら、早くクーリトル・リトルの司令部に連絡しないと」
ニュウ神官長が焦ったように軍師長の手を握る。
軍師長は一瞬驚いたように硬直するが、やんわりと手を手を剥がすと小さく咳払いした。
「クク艦長もニュウ神官長も何を言っているのですか? この動きは予定通りに事を運ぶにはむしろ好都合。クーリトル・リトルにはこのまま攻撃させます」
「そんな!?」
「……説明を、お願いできますか?」
ニュウ神官長は驚きの表情を浮かべるが、クク艦長はジッと軍師長を見つめた。
ある種の覚悟が決まった顔だ。
軍師長はそんなクク艦長の表情を見ると、満足げに頷いた。
「あのような奪取されては困るような拠点からの一見狼狽えたような動きでの一斉撤退。その上で明らかに劣勢な部隊を足止めに向かわせる。何のことは無い、カルナーク戦で地球連邦軍が度々見せた常套手段ですよ」
軍師長の説明を聞いて改めてクク艦長達は戦況図に目をやった。
モニターの中ではいよいよアウリン隊の先鋒と護衛艦部隊が衝突したところだった。
先ごろの戦闘では軽巡洋艦指揮の元見事な陣形を構築していた一個戦隊が一個中隊のアウリンにものの数分で殲滅された事を考えると、今の軍師長の説明はいきなり破綻しているように感じられた。
事実、モニターに表示された戦力表ではアウリン隊が三個中隊三十機に対して、護衛艦の数は護衛隊二つの八隻に過ぎない。
その上陣形も何もなく後方から急行したとあっては結果は火を見るより明らか……なはずだったのだが。
「……アウリン隊が、苦戦している!?」
更新が遅れて申し訳ありません。
夕方にも更新予定ですので、よろしくお願いします。




