第27話―2 三皇五帝
『3の敵だ!』
一目散に逃げてゆく車両には目もくれずにアウリン達はジーク大佐に殺到した。
地上降下直後の高速巡航形態から対地戦闘形態に移行したため重厚感のあった大型スラスターや燃料タンク類などの背面装備の大半はパージされたが、それでも小柄で細身の三皇と比べるとアウリンの姿は圧倒的に大きく、強者間に溢れていた。
傍から見ると巨漢の全身甲冑を身に着けた闘士が優男に襲い掛かっているように見える。
それほど両者には差があった。
(奇襲で弱い関節部を狙って仕留めたつもりだろうが、正面からではそうはいかない……強襲猟兵とかいう落ちこぼれの欠陥兵器が!)
アウリン達の先頭を行くのは3のバディだった4だ。
ディフェンダーだった3のバディである彼女は巨大な対艦刀を構えた。
刀身と剣先に搭載されている荷電粒子砲など使うまでも無い、という自信の表れだ。
そして何より、大切なバディである3と同じように首を切り落としてやると言う強い意思の表れだった。
『我が名はアウリン4! バディの敵だ!』
地上5mという低空にまで降下した4は対艦刀を下段に構えた。
切り上げるようにしてジークの頭部をすれ違いざまに斬り飛ばす算段だ。
最高速である300kmまで加速しての巨大な対艦刀による切り上げは、アウリン隊の得意戦法だ。
演習では航宙、海上問わず艦船を切り裂き、戦車や航空機、果ては歩兵の集団(を模した標的)を切り裂いてきたのだ。
『おい4、迂闊だぞ! 囲んで一気に……』
先走る4に1が警告するが、怒りに染まった4には届かない。
着地の姿勢のまま棒立ち状態のジーク大佐に向かい、一直線に飛んでいく。
『死ねや!!』
怒声と共に脚部が地面をこする程高度をさらに下げた4が対艦刀に力を込める。
その瞬間だった。
ジーク大佐の三皇が、ひざ下に届くほど細長い両手を軽く前方に振った。
その動きを4が認識した時にはすでに、ジーク大佐は元の位置から姿を消し、対艦刀を振り上げて無防備になった4の足元にスライディングの姿勢で滑り込んでいた。
『いつの間に!? ぐがっ……』
しかも4の驚愕はそれだけでは無かった。
足元を統べるように移動したジーク大佐は、すれ違いざまに4の右足を膝関節から切り落としていたのだ。
おまけに、それに用いた武装すら認識できない。
『ば、バカな! 一体何を……』
4は混乱しつつも体制を立て直そうと高度を上げにかかった。
だが、それは叶わない。
対地戦闘形態は大気圏内における航空支援としての機能に主眼を置いた形態だ。
それ故に、地上戦を行うにはあまりにも小回りが利かなかった。
『今だ、やれ』
ジーク大佐の命令と共に降下地点で部隊展開していた筈の五帝14機が一斉に飛び掛かった。
『う、うわっ! こいつらいつの間に……ひ、ぎゃあ!』
五帝の内7機は手にした高周波ブレードを4の手足の関節部や首の付け根に差し込み、もう7機は主武装であるザスタバ社製の37mmサブマシンガンを打ち込んだ。
4は全身から白い血液を間欠泉のように吹き上げ、地面を抉りながら墜落した。
『こいつらぁ!!』
再び散った仲間を見たアタッカーの8が怒りに任せて荷電粒子砲をジーク大佐の三皇と4の残骸の周りに固まっている五帝達に向かって撃ち込んだ。
高出力の荷電粒子の奔流が地面を抉り、超高熱により融解した岩石や砂が爆風を巻き起こした。
『やったか!?』
『いえ、逃げられました! 今度は私達が囲まれています!!』
8が思わず上げた言葉にすかさず索敵をしていた10が叫んだ。
その言葉に反応してアウリン達が周囲を見渡すと、未だに時速150km近い速度で飛行する自分たちを二足歩行の三皇五帝が取り囲んでいた。
『こいつら……なんて速度だ! いったいどうやって……』
『ワイヤーみたいなものを手足から射出して高速移動してます……4を殺した時もあれを地面に打ち込んでから巻き取って移動したんです!』
10の言葉に1が目を凝らした。
10の言う通り三皇五帝達は脚部による走行に加え、両手足のアンカーランチャーから射出された長さ数百メートルのワイヤーを射出。
ワイヤーの先端に取り付けられた高周波式のアンカーを地面などに打ち込み、それを巻き取る事で高速移動しているのだ。
(クソ……今の装備で地上戦であいつらと戦うのは分が悪い。機動性が段違いだ。かといって、アレを装備しているあいつらを放置するのは……)
アウリン隊はあくまで地上の敵を空から攻撃するための装備なのに対し、三皇五帝達は驚くべきことに同サイズの人間型の敵を対象にした装備構成だった。
このまま地上戦を挑んだとしても先ほどの4のように回り込まれるだけな上、高度や距離を取っての戦闘を仕掛けようにも難しい理由があった。
それが三皇五帝達の背中に装備された巨大なミサイルキャリアーだ。
1達にはそれが何なのか痛いほどわかる。
忌々しい、アウリン隊最初の使者を出した異世界派遣軍の汎用機動目標様ミサイルのスペースアローだ。
宇宙空間や、もしくは高高度で高速巡航形体でならば回避も可能だったろうが、今の対地戦闘形態では一旦狙われたが最後、ほぼ確実に回避不可能な高性能ミサイルだ。
勿論武装による迎撃も不可能では無いが、距離を取ったり車列を追いかけにいったりすれば間違いなく三皇五帝達は地形に身を隠しながらゲリラ的にアウリン隊を狙い続ける。
大気圏内に降りてきた航宙艦や車両に搭載されたものと違って、ミサイルキャリアーとして考えた場合強襲猟兵はあまりにも厄介な存在だった。
(……だが逆に、距離さえ詰めていればあのミサイルは無力……くそ、このことを考えてあのデカいのを装備してきたのか)
想像以上に敵はアウリン隊対策をしていた。
その事に歯噛みしつつ、アウリン第一中隊長の1はある決断をした。
『総員対地戦闘装備解除! これよりホバー形態に移行、地上戦闘に移行する!』
1の言葉に部下たちが息を呑むのが通信越しに聞こえた。
無理もない。
対地戦闘能力を失い、地上数メートルをホバークラフトのように時速百数十キロで移動するホバー形態では、主力部隊を航空部隊として支援することは不可能になる。
つまり、任務の達成を放棄するのと同義だ。
だが、1は決断した。
ここであの厄介な強襲猟兵達を撃滅する事こそが最善の道であると。
反論は無かった。
1の覚悟を感じ取ったアウリン達は、背部と脚部に残っていたなけなしの大型スラスターや翼をパージしていく。
その行為は彼女達から速度を奪っていくが、それと反比例してその動きは俊敏さを増していく。
『進路変更! 目標ルーリアト帝国帝都。あの強襲猟兵どもを倒しながら敵の車列を後方から攻撃するぞ!』
1はせめてもの嫌がらせと、三皇五帝達の撃破後速やかに主力部隊の支援に向かえるようにあえて帝都に向かいながら敵に戦闘を仕掛ける事にした。
案の定三皇五帝達は距離を保ちながらアウリン達についてきた。
スペースアローを用いる気配はない。
(やっぱりアレはあいつらにとっても切り札か。私達が高度を取ったりして手が出せなくなるまでは使わない気だな)
彼らが付いてこないでミサイルのつるべ撃ちをされるのだけが気がかりだったが、1はこの賭けにだけは勝った。
『10を中心に輪形陣! あの隊長機のいない右の敵を狙う!』
鉄の巨人達の死闘が始まった。
次回更新予定は2月6日の予定です。




