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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第25話―3 皇女様の真意

「さて。では諸君には悪いが脱出に関する詳細は任せさせてもらう。私は皇族連中、あとグーシュの説得を行う。ダスティ公爵系の皇族も多いから根回しせんと面倒だ。情報や仔細に関しては連邦軍のアミ中佐とカゴ中佐がそちらに行くからよく話し合っておいてくれ」


 そう言うとガズルは足早に会議室を後にした。

 部屋を出る直前、室内を見ると幹部たちが身じろぎ一つせずルーリアト式の敬礼でガズルを見送っていた。


「まいったな……」


 小さく、ガズルは呟いた。







「という訳だ。変に尊敬の眼差しなんぞされて参っちゃったよ。だがまあ……茶番劇はとりあえず成功だ」


 ガズルがその足で向かったのは帝城の中庭に停車するガガーリン装甲車の指揮型の車内だった。

 中に設置された指揮所では、つい先ほど腕をねじ上げられて連れ出されたグーシュが椅子にもたれかかりながら携帯端末の画面を眺めていた。


「おー、ありがとう叔父上。あんな茶番でも上手くいったな。わらわ、地球に言ったら女優目指そうかな?」


 カラカラと笑いながら言うグーシュは、足に縋りつかせていたミルシャの頭をまるで猫でも撫でるように撫でた。

 恥ずかしそうに赤面しながらされるがままのミルシャを、ガズルは熱っぽい目で見つめた。


「何をしとるんだ?」


「いや、地球では動物をこうして愛でるらしいのだが……如何せんここはルーリアトだ。なのでわらわが知る限り一番かわいい生き物をこうして愛でている」


 ルーリアトにおいて人間以外の(耳長族を除く)生物とは即ち天敵や恐れるべき存在だ。

 醜悪な見た目に凶暴な性質を持つ生き物で溢れているこの地では、地球において当たり前にある”動物を愛する”という概念がほぼ存在しない。


 そのため常識はずれなガズルと言う男ですら、動物を愛でると言う言葉に対して嫌悪感をあらわにした。


「動物を愛するなど……信じられんな。グーシュ、本当にそんな所に行って大丈夫なのか? 今ならまだ、どこかに居場所を」


「叔父上」


 有無を言わさぬ調子でグーシュはガズルの言葉を遮った。

 その目には、決意と義務感と矜持と好奇心が混在して強く宿っていた。


「もう、決めた事です。第一すでにルニ子爵領の連中が向かっているのです。今更わらわだけ行くのを止めるような事がどうして出来ましょう? ましてや、あなたが命を捨ててくれるのに、こんな所で余生を過ごすなど……」


 ガズルはもう、何も言わなかった。

 その様子を見て取ったグーシュは、また楽し気に携帯端末の画面を眺めた。


「一時はどうにかなるかと思ったが、何とかなりそうだな。後は一木が到着次第ここを脱出すれば、連邦軍の動きも楽になる」


 グーシュは楽観的に言った。

 この段階では間違いでは無かったのだが、彼女には二つ誤算があった。


 一つは、もうじき巻き起こる一大天体ショー。アウリン隊10機による、防空網突破と大気圏内への降下。


 そして、もう一つ……。


「でも殿下。それなら一木将軍やガズル様ともっと早く、きちんと話していればよかったじゃないですか。せっかく通信をくれた一木将軍を怒鳴りつけるような事をした上に、僕とお付き騎士をけしかけるようなことまでして……」


 今回の一連の茶番劇、実の所グーシュは非常に回りくどい形で計画したのだ。

 一木達へは脱出を拒みつつ怒鳴りつけながらさとすような形で帝都への移動を促し、ガズルへはミルシャ達をけしかけた上であくまでお付き騎士主導の反乱劇と言う形で話を持っていった。


 正直言って、一歩間違えば全てが灰燼に帰す危うい伝手の取り方だった。

 ガズルがミルシャから聞いた話から状況を正確に推察しなければ成しえなかった離れ業だ。


「しょうがないだろう。どうも城の中な、誰かが盗み聞きというか、潜んでいると言うか……どうも不穏なのだ」


 グーシュの言葉にミルシャとガズルがギョッとした表情を浮かべる。


「おいおい、本当なら一大事だぞ。城内は連邦軍の事前探査も入ったのに、それすら欺くとすると……」


「いや、そういう類ではないと思うのだが……ただ、どうも妙な気配を感じるのだ。だが調べても何もないし、アミ中佐達に見てもらっても何もないと言う……女官や官吏連中が耳を澄ましでもしているのかもしれんが……どうも、な」


「たったそれだけの用心のために、こんなまわりくどい事をしたのか……まったく、お前と言う奴は……」


 ガズルはそう言って苦笑した。

 だが、彼も安堵していた。

 グーシュを地球連邦へと脱出させ、その上で臣民からの人望を残すと言う策が攻を奏しつつあったからだ。


 だから、グーシュの過剰気味の反応が正しいとは、ついぞ考えなかった。







 帝城地下にある、とある小部屋。

 遥か昔に作られた皇族用の避難場所であり、忘れられた場所。


 少し前まではシュシュリャリャヨイティの逢い引き部屋で、現在ではニュウ神官長による秘匿の呪符によって外界と隔絶された場所。


「……物見の魔術……練習した成果がどうにか出ました。どうもグーシュちゃんは連邦軍と脱出する、しないでもめた上にガズルおじ様に拘束されたみたいですね」


 狭い小部屋の中、中央に立ち、額にニュウ神官長手製の物見の術が封じされた呪符を張ったシュシュリャリャヨイティが楽し気に報告した。


 その報を聞いた部屋のもう一人の住人。

 皇帝が死んだ日以来、脱出したと見せかけてこの部屋に潜んでいたジンライ・ハナコ少佐がゆっくりと顔を上げた。


「シュシュの妹はどこにいる?」


「中庭にある装甲車の中みたいですね」


「よし。予定時刻になり次第、行動を開始する」


 空をアウリンが舞ったのと同時刻、地下で決意に満ちた声が響いた。

次回更新予定は1月10日の予定です。

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