表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

345/535

第24話―3 増援

「栄光の049機動艦隊も落ちぶれたもんだ」


 ダスティ公爵領にある小汚い宿屋の一室で(みゃお)少佐は呟いた。


 藁に似た植物由来の物体を敷き詰めた上に、薄汚れた布を敷いただけの寝台に腰かける彼女の前には、

部下の生体アンドロイドであるゴンゾ曹長が縮こまるように正座していた。


「申し訳ありません」


「お前が謝る事ではないだろう。艦隊と師団の連中が不甲斐ないんだ」


 謝罪するゴンゾに、猫少佐は不愉快そうに吐き捨てた。


 彼女達諜報課の面々は帝都での王道作戦における工作活動を終えたのち、帝国内の不穏分子の内偵を進めていた。

 その結果、北部工業都市を有するダスティ公爵領に不穏な動きが見つかり、猫少佐直々に赴いていたのだが……それが大当たりだった。


 金、物資、人間、食糧……ありとあらゆるものがダスティ公爵領には不正に流れ込んでおり、それらは公爵領直々の施設に秘密裏に集められていた。

 しかもさらに調査を進めると、駐留する国軍の一部にも不穏な動きがあり、本来なら任期制で他の公爵領に異動となる幹部人員の一部が病気やら結婚等何かしら理由をつけてダスティ公爵領にとどまり続けていた。その上、それらの人員は残った公爵領で物資が集積された施設に赴き、秘密裏に何かしらの活動をしていた。


 実に分かりやすい反乱の準備だった。


 これら公爵領の実情を掴んだ猫少佐が、ウキウキとしながらさらに本格的な諜報活動に乗り出そうとしたとき、帝城においてシュシュリャリャヨイティによる皇帝暗殺事件が発生した。


 これによって事態は一転した。

 猫少佐が大好きな現地勢力への楽しい諜報活動は終わりを告げ、七惑星連合などという同格の相手への七面倒な諜報を余儀なくされたのだ。


 いちいち無線封鎖して肉声や手紙で情報をやり取りしつつ、暗殺や拉致拷問も出来ずにコソコソ盗み聞きや盗聴盗撮を繰り返す活動は猫少佐に多大なストレスを与えたが、そこは諜報のプロとして異世界派遣軍に名をはせた猫少佐である。


 見事七惑星連合の技術提供があったと思しき銃器製造工場とカルナーク式の軍事訓練を受けた公爵の私兵部隊の居所。

 そしてなにより最重要目標であり、もっとも危険視されるシュシュリャリャヨイティとジンライ・ハナコ少佐の居所を掴むという大金星を上げたのだ。


 イセクト戦闘団を送り込んでルーリアト帝国内の七惑星連合勢力を一掃しようと言う計画が進んだのは、この猫少佐達の情報があってこそだった。


 自分たちが行き詰ったルーリアト情勢打開の糸口を掴んだことに猫少佐はご満悦だった。

 その上、侵攻開始時にはイセクト戦闘団の支援を普段裏方に回る諜報課が行うことになり、猫少佐の機嫌は鰻登りだった。


 つい先ほど、イセクト戦闘団が壊滅したという知らせを受けるまでは。


「艦隊主力は戦列艦とシャフリヤールを失ってワーヒドの軌道まで潰走。撤退準備中の軌道部隊は敵の艦載機に奇襲された上にメビウス四機喪失。44師団は機甲部隊と機械化部隊の大半を喪失して宿営地を放棄、帝都に立てこもって時間を稼ぐ……僅か数時間でここまで最悪な状況になるとはな……」


「申し訳ありません……」


「いやだからお前が謝るな! くそ……諜報課の晴れ舞台を台無しにしやがって」


 猫少佐は毒づいた。

 猫少佐としては、あの姉気取りの出来の悪い妹を見返すいい機会だと思い張り切っていたのだが、よもや艦隊に諜報課が足を引っ張られるとは想定していなかったのだ。


「次……統合することがあれば私が主人格になって……(シャー)の野郎……」


「あの、少佐?」


 小声で呟いた猫少佐に対し、ゴンゾがおずおずと声を掛けた。

 生体部品で作成されたからという訳では無いが、猫少佐は名前の通り猫のように感情的なアンドロイドだった。

 先ほどからゴンゾがやたらと自分の責任でもない艦隊敗北の件で謝罪していたのは何もゴンゾが引っ込み思案だからという訳ではない。


 単純に機嫌の悪い猫少佐は不用意な態度を取ると引っ叩いてくるからだ。


「ああ!? ……いや、悪い……いくら何でもお前にキレるのはお門違いだな。悪いのはぼんくらな艦隊の連中と殺だ」


「いや殺大佐のせいでは……いえ、なんでもありません。それよりもですね……一木司令とクラレッタ大佐からは諜報課も至急帝都まで撤収するようにと命令が……」


 平謝りした効果からか怒りを抑えた猫少佐に対し、ゴンゾはようやく本題を伝える事が出来た。

 無線封鎖のせいでわざわざ超小型ドローンで紙に書かれた暗号で伝えられた命令のため、猫少佐はまだ知らない情報だった。


「帝都までだと? 迎えのカタクラフトなりキルゴアは寄こすんだよな?」


 ダスティ公爵領にいる諜報課のアンドロイドは50人を超える。

 ノコノコ徒歩で脱出と言うのは厳しい。

 猫少佐はの言う通り輸送機なりヘリが欲しい所だった。


「公爵領の外までは自力で来るようにとの事です。すでに敵の艦載機が降下しており、航空部隊を公爵領内まで回すのは危険だと……。一応脱出プラン通りの場所にキルゴアを10機回すとの事です」


 またもや怒りのボルテージの上がる猫少佐にビクつきながらゴンゾが撤退の詳細を伝えると、猫少佐は腕組みして目を閉じた。


 そうして三十秒ほど沈黙すると、猫少佐は目を開けた。

 そして身じろぎ一つせずにいたゴンゾに命令を伝える。


「諜報課総員は策定していた脱出プランを用いて至急ダスティ公爵領から撤退だ。ヘリとの合流地点に向かえ」


 常識的な命令にゴンゾは安堵した。

 ところが、猫少佐の指示には続きがあった。


「なにホッとしてるんだゴンゾ。お前は私と一緒に別行動だ。先発する諜報課連中にヘリを一機、2時間だけ待たせるように伝えておけ」


「えええ!? な、なにをするつもりなんですか?」


 とうとう感情を繕えずゴンゾは叫んでしまい、苛ついた猫少佐のビンタをくらった。

 パチンッ、という大きな音に比して威力は無いが、諜報課の誰もがこのビンタを(精神的なダメージのため)恐れていた。


「うるさい、他の客に怪しまれるだろうが。このまま帝都に戻っても何もならん。だからせめて敵の中枢の偵察と、多少の嫌がらせをしてから戻るぞ」


「中枢……嫌がらせ……あの、一体何を?」


「シュシュリャリャヨイティに一当たりしてから戻る」


「!!! え、あの……一当たり、って……まさか!?」


「あの皇女とサイボーグが公爵邸に入ったのは確認したし、部屋の場所も掴んだがそれだけだろうが。ごたついて警戒されるのを恐れて公爵邸自体には入り込んで無かったが、この状況なら騒ぎが起きても問題ない。むしろ暗殺未遂でバタつけば、足止めになる」


「そんな無茶な……シュシュリャリャヨイティだけならまだしも火星のサイボーグがいるんですよ? 生体アンドロイドの我々では返り討ちです」


 ゴンゾの懸念ももっともだ。

 ジンライ少佐の実力は明らかであるし、生体アンドロイドは潜入に特化しているためスペック的には通常のアンドロイド以下なのだ。

 戦闘となればあっという間にやられてしまう。


「まともに戦えばな。シュシュリャリャヨイティのいる辺りに遠距離からサブマシンガンを一連射だけして撤退するんだ。その後はケツをまくって逃げる。そうすればサイボーグは追撃を警戒して動かないし、生体アンドロイドの私らは一般人に紛れて見つからない。完璧な計画だろ? うまくいけば公爵邸地下にあるっていう私兵集団の訓練場も見られるかもしれん」


 そう言って猫少佐は邪悪な笑みを浮かべた。

 結局、ゴンゾはその笑みに圧倒されて反論することが出来なかった。


 猫少佐の驚くべき行動力に引きずられるように、彼らは公爵邸使用人の服装に着替え、宿屋での会話の一時間後にはかねてより用意されていた侵入ルートから公爵邸へと入り込んでいた。


 無線封鎖により本隊の動向も分からない中、夕方に差し掛かった薄暗い午後の邸宅を、肥満体の中年と十代前半の少女と言う奇妙な使用人二人が早歩きに進む。


「ゴンゾ。お前は例の地下施設を偵察してこい。1600になったら私はシュシュリャリャヨイティを銃撃するから、即座に脱出。その後は計画通りにな」 


 ウキウキとする猫少佐にに対し、ゴンゾは憂鬱そうに頷いた。

 一連の無茶な行動は部下になって以来常態化したものだが、あまりにも突飛で無茶で未だに慣れない。

 その上最悪なのは、一通りの結果を出してしまうため猫少佐の評価自体は非常に高いことだ。

 そのためどんなに無茶をしても彼女は更迭も処分もされない。


(今回もなんだかんだでうまくいって……まだまだ振り回されるんだろうな……)


 げんなりするゴンゾをよそに、程なく二人は目的の地下室への入り口を見つけた。

 警戒するゴンゾをよそに、猫少佐は素早く警備の衛兵の首を折り、死体を会談の陰に隠した。


 相変わらずの素早い動きに、ゴンゾは舌を巻く。


「よしゴンゾ。後は頼んだぞ」


 そう言うと、猫少佐は名前通り猫のようにしなやかな動きで階段を昇り、シュシュリャリャヨイティの部屋を見渡せる場所へと足早に向かった。


 そんな上司を無言で見送りつつ、ゴンゾはため息をついた。


「気を取り直さないとな……なあに、どうあれ人類の役に立つのなら……」


 迷いに満ちた精神を感情制御システムのサポートを受けながら立て直すと、ゴンゾは気を引き締めて重厚な扉を開いた。


 かねてより情報だけは掴んでいた、秘密の公爵邸地下施設。

 囚人や奴隷までをも投入して極秘に建設されたと言われる、たっぷり千人ほどの人間が入れると言われる巨大施設。


(その癖たまに少数の私兵が入る以外出入りも無い、謎の施設……猫少佐が着目するのも当然だが……果てして鬼が出るか蛇が出るか)


 重厚な扉を物音ひとつ立てずゴンゾが開いた瞬間、彼の意識は途絶えた。


 開かれた扉の隙間から勢いよく飛び出した巨大なバトルアックスにより、コアユニットごと真っ二つにされたのだ。


 真っ暗な扉の隙間からは拳ほどの巨大な瞳が絶命した生体アンドロイドを無言で見下ろしていた。

プライベートでゴタゴタがあり、投稿が遅れてしまいました。

大変申し訳ございません。

最近こんなんばっかりだ……m(__)m


次回更新予定は12月22日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ