第23話―3 流星舞踊
「あいつら……この星に降りてきた」
一木が呟くと、しばし沈黙が車内に降りてきた。
状況は、あまりにも悪い。
だがそれでも、行動までも止める訳にはいかない。
何より、最後に残った揚陸艦に残った子爵領の住民たちがいるのだ。
「クラレッタ大佐。避難民を軌道上に上げるんだ。敵艦載機が降りた今がチャンスだ」
「……すでに準備はすんでいます。すぐに離陸させます」
「ああ」
言葉通り、よほどこの機会を逃さないようにしていたのか、一木の相槌と同時にルニ子爵領の外れに着陸していた揚陸艦がゆっくりと離陸を開始した。
軌道上から降下する際は頑丈な正面装甲と降下時の加速によって素晴らしい突破力を誇る航宙揚陸艦も、離陸の際はその図体が災いして亀のようにゆっくりとしか動けず、大気圏突破のための加速にも時間がかかる。
大型艦用のマスドライバーと呼ばれる電磁加速式の衛星軌道射出装置でもあれば話は別だが、当然ながらこの惑星ワーヒドにはそんな便利なものは存在しなかった。
「とはいえまずは一安心だな。で、クラレッタ大佐。この後どうするんだ? さっき明らかに何か隠してたろう?」
一木の言葉を聞いて、またもやアンドロイド達は沈黙してしまった。
とはいえ、今度のそれは短かった。
すでにある程度覚悟していたからだ。
『それは僕が答えよう』
そして、問いに対する答えは端末から聞こえてきたジークの声が答えてくれた。
『揚陸艦はあのままアセナ大佐率いる輸送艦中心の脱出組と一緒に星系から出す。ワーヒドには戻さない』
「……」
「………………?」
「??」
反発するかと思われた一木が黙って聞いている事に、殺大佐とシャルル大佐が顔を見合わせた。
ジーク大佐も一瞬虚を突かれたが、それでも言葉を続けた。
『その上で宿営地守備隊はこのまま帝都に向かい、向こうの部隊と一緒に帝都守備隊を結成する。敵の艦載機部隊は航空部隊と宿営地残留部隊で足止めした後、僕が何とかする』
「一個護衛戦隊をあっという間に全滅させる連中相手に……ジークだけでどうするんだ?」
『企業秘密さ。まあ、一木にはわかるだろ? MSにはMSさ』
今度の疑問には一木に問いかけたが、ジーク大佐ははぐらかした。
もっともロボットアニメ好きの一木にとってば答えも同然だったが。
「……君の言う事なら信じるさ。それで……艦載機を撃退して、帝都の防衛体制を構築して……軌道上とゲートを抑えて……それでどうするんだ? 敵の地上戦力は不透明だけれど、主力が壊滅した歩兵師団より弱体の戦力を送り込んでくるとは思えない……」
『一木も知っても通り、今回こんな回りくどい方法を取っているのはルーリアト帝国という地上世界においてグーシュリャリャポスティが人心と権力を保ったまま撤収するためだ。そうでなきゃ宇宙で負けた非常時に主力による地上戦やら、帝都にノコノコ車列組んで移動なんてするわけないからね』
一木は軽くモノアイを回して同意した。
ジークの言う通り、今現在の行動は最適な行動を考えた場合悪手でしかない。
四隻の揚陸艦に地上部隊を全て詰め込んで、グーシュが何を言おうと一緒にこの星系を脱出すればいいだけの話だ。
しかし、そうした場合この異世界で苦労して得たグーシュという協力者の地位は失墜する。
当然だ。
地球連邦軍という協力者の助力を以って権力を奪取したのがグーシュリャリャポスティ第三皇女という人間だ。
それが政敵である姉の手引きによって地球連邦の敵対勢力が星にやって来た状況下で、一人だけ逃げ出しては庶民人気を権力の源泉とするグーシュにとって致命傷になりかねない。
(自分たちを見捨てて逃げた。姉妹揃ってみた事も聞いたことの無い場所の争いを持ち込んで、その上対応がそれじゃあ、グーシュにこの国での未来はない……そうなればいつかこの星系を奪還しても、統治自体が困難になる……)
だからこそ、グーシュと意見をすり合わせた上で見た目だけでも地球連邦が総力を挙げてルーリアト帝国のために戦おうとしている、という姿勢を見せる必要があるのだ。
無論、勢力圏の最果ての一世界のためにアンドロイド達や艦隊の残存戦力、そして一木自身の命を危険に晒す行為と言う時点で、先ほどのような事情があろうとも無為な行動だという点が無いでも無い。
しかし、一木はだからと言って地球のせいで人生がねじ曲がったグーシュと言う少女を見捨てるような事はしたくは無かったのだ。
『……そしてここからが作戦の肝だ。一木には悪いけれど、帝都の防衛部隊は敵地上部隊と一戦交えさせる。その上で、地球連邦軍が帝国市民のために戦う場面を出来る限り見せつける。そして、全滅させる……』
「やっぱり……か。どうしても、なのか?」
『悪いけれど、どうしてもだ。この方法がグーシュと地球連邦への指示を保ちつつ一木達の脱出を可能とする作戦だと、僕は判断したんだ。まあ、現状でもグーシュリャリャポスティの具体的な脱出タイミングは未策定だけどね……』
「そういえば、グーシュはどうするんだ? 通信した時はやけにいきり立ってたが?」
『ああ、それなら安心してくれよ一木司令』
ジーク大佐が朗らかに言った。
『もう帝弟ガズル様には根回し済みさ。今頃グーシュの拘束に動いてくれているはずだよ』
ジーク大佐はエライことを、朗らかに言った。
果たして拘束と言う強硬策に出たこちらを、あの皇女殿下は許してくれるのだろうか。
そんな疑問を抱き、一木は既に無くなった胃が痛むのを感じた。
上空を無数のジークメッサーが飛行して、敵の艦載機部隊のいる方角へと飛んでいく轟音を耳にしながら、一木はだんだんと増していく焦燥感に炙られるような錯覚を覚えた。
次回更新予定は12月10日の予定です。




