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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第21話―8 風の騎士

 コナ大尉は草原をホバー走行で滑るように移動しながら部下の動きを見ていた。

 

 つい数十秒前。

 一個小隊を射撃攻撃を瞬時に跳ね返してくる魔法によって壊滅させたあの老人は、その後空中から即座に突撃してきた。


 迎え撃ったのは一番近い距離にいた第三小隊。

 魔法によって射撃攻撃が封じられたため、各々高周波ブレードを持ち出しての白兵戦を挑んだ。


 強化機兵は本来、人間サイズの歩兵型では扱いずらい大型の火器を用いて歩兵部隊の火力支援と豊富なセンサー類や通信装備による偵察や指揮を行う兵器だ。


 そのため、人間との白兵戦等は専門外である。


(それでも……私たち6中隊には豊富な経験があった。暴徒鎮圧や騎士だの戦士だのと斬り合ったのも一度や二度じゃない。だが、あの老人はそんな生半可な経験を全て無意味にしてしまう)


 コナ大尉は先ほどの寒気のするような光景を思い出した。

 空中から飛び込んで来た老人はまず一機の強化機兵を横をすり抜けるついでと言わんばかりに両断。


 その隙を突こうと左右から挟み撃ちにして高周波ブレードを突き込んだ二機の強化機兵を光学センサーが捉えられない程の速度で細切れにしたのだ。


「生身の人間がこれに耐えられるか!!」


 その恐るべき速度と斬撃に対し、コナ大尉の部下たちは即座に動きだした。


 4小隊が用いたのは空中から草原中にばらまかれた揚陸艦の残骸を使った質量攻撃だった。

 小銃弾やミサイルのように跳ね返されても強化機兵はほぼダメージを受けず、しかしその一方で人間に対しては効果を発揮する攻撃。


 人間ほどの大きさの鉄とセラミックの塊を強化機兵がその膂力に任せて投擲していく。


 コナ大尉が見るところ一トン近い重量があるそれらは、野球のストレート程の速度で勢いよく老人に対して飛んでいく。

 生身の人間ならば到底対処など出来ないそれに対し、老人が取った行動は単純なものだった。


我が身よ羽の如く(パリィ)!」


 再び呪文なのか、何かを老人が叫ぶ。

 

 次の瞬間老人はその場から一歩も動かずに、巨大な残骸を回避していた。


 さながら前世紀のSF映画(マトリックス)のような異様な回避挙動だった。

 残像を残しながら身体を動かしたかと思うと、どう見ても避けられないはずの残骸がすり抜けるように老人を通り過ぎていったのだ。


『距離をと……』


 距離を取れと命令する間もなく、コナ大尉の目の前で残骸を放り投げた小隊は老人の剣戟によって物言わぬ残骸と化した。


 コナ大尉の心中は絶望に包まれつつあった。

 揚陸艦からの離脱が間に合わず空中で散った迫撃砲小隊を除くとはいえ、部下たちは最精鋭と呼ぶにふさわしい精鋭強化機兵達だったはずだ。


 それが一分も立たずに九機撃破。

 残存するのはコナ大尉と直属の部下である二機だけ。


 感情制御システムがチリチリとコナ大尉の心を炙るように燃える。


 任務を果たせず、無意味に死ぬ。


 その残酷な事実が強烈な飢餓感と危機感となって巨体を突き動かす。


『すまない……共に死んでくれ!!』


 コナ大尉は即座にたった二機だけとなった部下に通信を行った。

 単純だが、必殺の……筈の作戦。


 返答は無かった。

 しかし、部下の動きは速かった。

 コナ大尉の計画通りに寸分たがわず行動を開始する。


 百メートル程の距離にいる部下が15mm小銃を構え、老人に向けて斉射する。


 弾丸を反されるのは覚悟の上だった。

 それでも。たとえ部下を一機犠牲にしてでも、隙が欲しかったのだ。


「くっ!? 光壁よそこにあれ(プロテクション)!」


 しかし、老人が取った行動は想定外のものだった。

 先ほどまでとは別の呪文を唱えると、光の壁のようなものが老人の目の前に現れ銃弾を弾いたのだ。


 その光景はコナ大尉に衝撃と、迷いを生んだ。


(さっきまでの射撃を跳ね返す魔法を使わなかった……いや、使えなかったのか? 罠? 意図的……どっちだ……)


 跳ね返す魔法はもう使えず、先ほどまでの連発はこちらの射撃攻撃を封じるための演技なのか……または、射撃攻撃を誘発するための演技のためわざわざ防御の呪文を唱えたのか。


 これはチャンスなのか、罠なのか。


 深い葛藤がコナ大尉の思考を乱す。


 コナ大尉としては、射撃による牽制の後にもう一機の部下と共に特攻するつもりだった。

 

 ところが、この思わぬ好機がその覚悟と思考を乱した。

 遠距離で飽和攻撃を仕掛けるべきか、当初の予定通り白兵戦を挑むか。


 永遠にも等しい0.5秒の後、コナ大尉は決断した。


 素早く高周波ブレードを小銃に着剣すると、銃剣付き小銃を槍のように構えたままフルオートで射撃を行う。

 そしてそのまま、部下と共に二機で突撃を掛けた。


(いいとこどりだ!)


 結局コナ大尉が選択したのは、折衷案だった。

 銃撃が万が一跳ね返されれば即座に撃破されるというリスクがある行動だ。

 その上、銃剣となるとどうしても高周波ブレード単体より取り回しが悪く、肝心の白兵戦で勝利できるか難しくなる。


 だが、その効果は絶大だ。


 光の壁で必死に銃撃を防ぐ老人の背中に、二機の強化機兵から放たれた無数の銃弾が飛来する。


「ぐぬう!」


 老人の口から苦悶の声が漏れる。

 乱雑に放たれてため命中率は低いが、それでも数発の15mm弾が老人に命中する。

 コナ大尉のセンサーは確かにその戦果を確認した。


 思わぬ結果に思わず晴れやかな感情が広がる。

 コナ大尉は勝利の確信を得つつ老人に向かって銃剣を突き入れた。

次回更新予定は11月23日の予定です。

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