第20話―3 戒厳令
上田代将達が艦隊指揮所にやってくると、そこにはすでに師団長以外の主要な人間とアンドロイドが揃っていた。
参謀達も当然いたが、全員忙しいようでバタバタと自分たちの業務に奔走していた。
上田達師団長としては、絡まれたが最後面倒な連中なのでありがたかった。
「ほらよ、つじ……デグレチャフ大佐。お前も手伝ってこい」
「デグチャレフだ! それじゃあ漫画の主人公だろうが!!」
そして、上田代将は最後の厄介者をも業務の彼方へと送り出した。
当のデグチャレフ(自称)大佐は、頬を膨らませて怒りをあらわにした後、リーダー格のモーリス首席参謀の元に駆けていった。
「あー、よかった……あいつら人間にウザ絡みしないと気が済まないからな」
上田代将が重量80kgのデグチャレフ(自称)大佐を肩車して痺れた腕をぐるぐると回しながら息を吐いた。
他の参謀たちは、そんな彼を労った。
「お疲れ上田はん。やっぱりアンドロイドの相手は一木はんか上田はんい限るな」
「ホントホント……うげげ……モーリス大佐の意識があるじゃん……あの首席参謀自分の事転生した21世紀の女子高生だと思いこんでるから話してると疲れるんだよね……忙しくてよかったよ」
「あなた達……おしゃべりしてないで司令の所にいくわよ……全く……いつになったら軍人らしくなるのかしら……」
おちゃらけたムードに苦々しい表情を浮かべた前潟代将に先導され、一同はようやく艦隊司令の前へとやってきた。
「デービッキ司令、師団長一同参りました」
前潟代将が挨拶しつつ敬礼すると、司令官用デスクの横で立ったまま仕事をしていた背の高い金髪の女性がゆっくりと振り返った。
「ああ、来たか……」
リズ・デービッキ大将。
身長195cmの高身長に、モデルのような細身の女性将官だ。
眠そうな表情に酷い猫背。
酷い腰痛持ちのせいでナマケモノの様にのっそりとした動きしか出来ないと言う難儀な女性だが、師団長時代は一桁代の師団を差し置いて最強の師団長と呼ばれた実力者なのだ。
「他の師団長三人には先に話を伝えて先発してもらっている……」
「先発……? やはりどこかに出撃するのですか?」
唐突に言われた出撃の示唆に、前潟代将は怪訝な表情を浮かべた。
この艦隊にいる七人の師団長(この艦隊には海兵隊の連隊ではなく、通常の師団が七個配備されている)すべてが一度に出撃するとなると、治安維持や増援ではない、かなり大掛かりな任務なのは間違いない。
(そんな重要な作戦を……なぜ私たちに秘密に?)
「……情報を秘匿している事を疑問に思ってるでしょ?」
デービッキ司令の言葉に、思わず前潟代将はびくりと体を震わせた。
小さく身じろぎする気配がしたので、他の師団長たちも同様のようだった。
「まあ、それも当然だよねえ……でも事情が事情だから、すまないね」
「いえ……それで司令。一体何が起きているのですか?」
前潟代将が尋ねると、デービッキ司令は手元の端末をチラリと見た。
「ちょうど時間だ。説明より先に、あなた達にも見てもらいましょう。……私も知ったのはついさっきだから、頭を整理するのにちょうどいいしね」
「? い、一体どういう……」
前潟代将達が状況を飲み込めずにいる最中、艦隊指揮所のメインスクリーンに突然ライブ映像が映し出された。
驚いて目をやると、そこには驚くべき物が映し出されていた。
「な、」
「ナ……」
「な、なん……」
「ナンバーズ!?」
連立与党の党首たち四人を従え、無数のカメラに囲まれ佇む巨大でずんぐりとした影。
素焼きの陶器の様な艶の無い黄土色の体に、遮光器土偶の様な独特な顔。
地球に栄光と支配をもたらし、その姿を消した機械の支配者。
ナンバーズの一人がその姿を世界に晒していた。
『さあ、諸君……地球人類諸君……この私、ナンバー2”スルト・オーマ”が君たちに宣告しよう』
野太い男の声でそのナンバーズは喋った。
政府要人や交渉に当たっていた外交官や軍人を除けば、地球人類がナンバーズの声をそれと認識して聞いたのは、これが初めてだった。
『我々は君たちを……見限った!』
楽しそうな、まるで子供がはしゃぐような調子で、ナンバーズは人間に告げた。
次回更新予定は10月12日の予定です。




