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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第20話―2 戒厳令

こうして戦いの第一幕はひとまず幕を降ろし、次の戦いへの準備へと移行し始めた。


 双方の主力は羽を休めつつ次の一手への布石を打ち、そして一方は地上へ降りる準備を始め、もう一方は宇宙への撤退の準備に勤しんでいた。


 だが、実の所こうした慌ただしさに包まれていたのは何もこの星系だけでは無かった。

 七惑星連合の艦隊による攻撃と、シャフリヤールの撃沈を量子通信により知った各星系の艦隊や駐留軍は情報と命令を求めて混乱し、矢継ぎ早にエデン星系の異世界派遣軍本部に通信を入れ、慌てて撤退や防衛の準備に奔走した。


 しかし、もっとも混乱していたのは本国たる地球だった。

 

 それは、シャフリヤールとハストゥールによる一騎打ちが始まるのとほぼ同時刻に行われた放送が理由だった。


 唐突に全ての公共、民間を問わない主要な放送を停止して行われた政府によるその映像に映し出されたのは、大統領をはじめとする連立与党の四人組と、まるで四人組を従えるかのように威風堂々と直立する、一人の海兵隊将校だった。


 その海兵隊将校には多くの者が見覚えがあった。

 つい先ごろ、グーシュリャリャポスティという名の美少女異世界人と人気野党政治家との世紀の論戦の際、場を取り仕切っていた役人の片割れだったからだ。


「あー、全ての地球連邦市民……いきなり映画やらゲームやら……楽しい所をぶった切って悪かったな。海兵隊異世界派遣任務部隊参謀長、スルト・オーマ大佐だ。後ろのこいつらは知ってるよな? 大統領とその仲間たちだ。ああ、今日はこいつらはただの立ち合いだから、気にしなくていい、OK?」


 スルト大佐はふざけた態度で、あまりにも場違いな言葉でいきなり話し始めた。

 あまりの光景に、動画を見た人々はこれが何らかの娯楽作品のプロモーションやAIで作った合成映像だと思った程だ。


 しかし、そんな反応を予期したようにスルト大佐は続けた。


「ちなみに合成でもプロモーションでもないぜ? ほら、右下に政府広報のロゴとライブ映像及び未加工映像の保証ロゴがあるだろ? これ、ほーんものなんだよ」


 この言葉に地球市民は困惑した。

 スルト大佐の言う通り、画面の右下にあるロゴはこの映像が生放送であり、改ざんされていない事を厳格に証明保証したものである事を示していたからだ。


 そして、スルト大佐はたっぷりと全地球市民の反応を楽しんだ後、声にたっぷりと愉悦を含ませて宣言した。


「今日はな。お前たちに本当の事を知らせるためにこうして話してるんだよ」


 スルト大佐の態度に反して、後ろの四人組の顔が苦し気に歪んだ。







「……なあ、いい加減教えてくれよ。俺たちどこに向かってるんだよ?」


 第013機動艦隊旗艦”ランスロット”の師団長控室で、一木の同期である上田拓代将が膝の上に抱いている小柄なアンドロイドに尋ねた。


 彼らはエデン星系の本部駐留部隊として訓練に勤しんでいたのだが、つい先ほど唐突に控室で別名あるまで待機を命じられ、指揮下の師団との連絡まで禁じられたのだ。

 そうして訳が分からないまま艦隊は出航しすでに数時間。

 不安とフラストレーションが限界に達していた。


「ふぅーははははははは! だーめだ上田代将! これは……なんかこうエライ所からの命令で規定時刻までは知らせてはダメなのだ。吾輩命令は守るしっかり者の作戦参謀ゆえ、教える事は出来ぬ」


 まん丸眼鏡におかっぱ頭のその少女型アンドロイドは、ギザギザの歯をむき出しにしてサメの様に笑った。


 こんな身なり、こんな言動だが、この機動艦隊の作戦参謀を務める参謀型アンドロイドだ。


「いやいやいや、さっき三十分間頭撫でたら教えるって言ったじゃねえかよつじ子! 命令は守るけど嘘はつくのかよー?」


「つじ子ではないデグチャレフと呼べバーカ!」


「誰が馬鹿だこのちびっこ! このこのー」


 子供をあやすように言うと、上田代将はつじ子……もといデグチャレフ(自称)大佐を全身もみくちゃに撫でまわした。

 つじ子もといデグチャレフ(自称)大佐は幼稚園児の様にキャッキャッとはしゃいでいる。


 そんな光景を、部屋にいる他の師団長たちは生暖かい目で眺めていた。

 

「飽きもせんとよーやるな……」


 同じく一木の同期である(おう)代将が恰幅のある体を揺らしながら言った。

 まだ二十代半ばなのだが、七三分けに眼鏡、恰幅のいい体格のせいで中年の様な貫禄がある男だ。


「なんつーか、こういうガキンチョみたいなタイプに好かれるんだよなあ……」


 上田代将がデグチャレフ(自称)大佐の頬を揉みながら呟く。

 とはいえ、上田代将の行動がそこまで突飛という訳でもない。

 

 こういった暇な時間をアンドロイドと過ごして潰そうと言うのは異世界派遣軍の人間にとってはありふれた光景であり、そしてそう言った事のために福利課という部署のアンドロイドがいるのだ。


「いやいや、いくら何でも作戦参謀に好かれるのは異常ですって。普通……艦隊参謀って言ったらもっとこう、僕たち平の師団長にとっては雲の上の存在じゃないですか?」


 そう言って上田代将にツッコミを入れたのは津志田代将だった。

 彼女の言う通り、一木のような特殊な場合を除いては、艦隊参謀というのは師団長とは滅多に接触することの無い、階級とは別の概念で上の存在だ。

 このように膝の上でベタベタ甘えるのは珍しい光景と言えた。


「けど……ここの参謀たちはちょっと……いえかなりおかしい連中だから……」


 我関せずといった様子で携帯端末で本を読んでいた前潟代将が嫌そうに言った。

 この第013艦隊の参謀たちは個性豊かな……面々なので彼女の言いようの的を射ていた。

 思わず頷きだした一同に対し、デグチャレフ(自称)大佐はお冠だ。

 頬を膨らませて抗議の声を上げた。


「なんだその言いようは! まるで吾輩たちが変人みたいではないか!?」


「いやつじ子よお……まるで、じゃなくて事実だろうが。精神がイカれてほとんど意識の戻らない主席参謀(モーリス大佐)や体重3トンの肥満体型の内務参謀(ベリアル大佐)……現地人と100%口論になる外務参謀(ヌー大佐)に、最前線に行かないと作戦立てられない作戦参謀(おまえ)……こんな連中が変人じゃなくて何なんだよ?」


 個性と言うには我の強すぎる面々を思い返し、上田代将はため息をついた。

 しかし、デグチャレフ(自称)大佐は尚も食い下がった。


「な、なにおー! お前たちは知らんのだ! 真の変人参謀というのはだな……049艦隊の連中みたいなやつらを言うんだ! あのやべー奴らの事を知ったら、吾輩たちの常識人っぷりにむせび泣くぞ」


「049って、弘和のいる艦隊よね……そんなに酷いの?」


 唐突に、前潟代将がデグチャレフ(自称)大佐ににじり寄った。

 額が付くほど顔を近づけたので、流石のデグチャレフ(自称)大佐も少し引いている。


「う、うむ……先日、テロリストにやられたミラーっていう外務参謀がいるんだが、そいつは人間に暴力を振るうのだ。それだけでも異常なのに、あいつらそれを庇うらしいのだ。他にも師団長を試食係にして激マズ料理食わせる奴とか殺人狂とかシスコンメンヘラとか女装巨根野郎とかやべー連中だらけなのだ」


 デグチャレフ(自称)大佐の言葉に、師団長たちは顔を見合わせた。

 最近の一木とのやり取りでは気が付かなかったが、ただでさえテロリストが襲撃するような危ない場所にも関わらず、部隊自体が随分と危なっかしい所のようだ。


「一木さん大丈夫かな……」


「一木はん……呪われてんとちゃいます?」


「一木ちゃんマジ不幸属性だねー」


「弘和……」


 各々が思い思いに一木に思いを馳せる中、少し居心地悪そうにしていたデグチャレフ(自称)大佐がハッとした表情を浮かべた。


「あ、モーリスから連絡なのだ。艦隊の移動先及び本艦隊の任務。そして現在地球連邦が置かれた状況を説明するから艦隊指揮所に来るようにとの事なのだ」


 四人の一木の同期と、他の師団長たちは顔を見合わせた。

 感づいてはいたが、どうやら大事が起きている事を改めて実感したのだ。


 一同はデグチャレフ(自称)大佐を肩車した上田代将を先頭に、一路艦隊指揮所に向かった。

艦隊の番号が049だったり042だったりズレている……申し訳ありません。

正しくは049です。


次回更新予定は10月7日の予定です。

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