第19話―2 ハストゥールの顔
ルーリアトを照らす程の閃光の正体は、シャフリヤールから放たれた32発の反物質航宙魚雷の対消滅反応による巨大な爆発によるものだった。
反物質という危険物質を搭載する関係上、本来なら極短距離の標的に対して用いて、一定距離を進むと自爆するように設定される武装が航宙魚雷だ。
しかし今回は秒速数万キロという超高速下における使用のため、ミユキ大佐は交戦規定により禁止されていた長距離追尾モードでこれを使用した。
発射された32の航宙魚雷は内蔵されたAIにより瞬時にハストゥールを補足。
弾頭と推進共有の反物質を消費し、超絶的な加速と追尾を行いながらハストゥールに襲い掛かったのだ。
シャフリヤールとミユキ大佐にとって虎の子であったこの攻撃はしかし、失敗に終わった。
発射した際シャフリヤールの前方を航行していたハストゥールは航宙魚雷の発射を感知した瞬間、さらなる加速を行ったのだ。
それを見た火器管制を行っていたミユキ大佐はAIによる自己判断より先に航宙魚雷に加速を命じた。
航宙魚雷の加速用反物質は弾頭と共有だ。
つまり、加速や追尾を行えば行うほど肝心の対消滅による破壊力が低下することになる。
だが、ミユキ大佐はそれでも命中を優先させた。
航宙魚雷は絶大な威力を誇るが、次弾装填に時間がかかるのが欠点だ。
それ故に必中の位置につけるまでミユキ大佐はこれを温存していたのだが、まさかドックファイトをこれだけ続けた後でさらなる加速を行う余地があるとは想定外だったのだ。
「反物質を80%まで消費しても構わないッス! 当たれ!!!」
しかし、ハストゥールの動きはミユキ大佐の想定をさらに超えていた。
ハストゥールを包囲するように加速追尾を仕掛けた航宙魚雷をあざ笑うかのようにハストゥールは急減速を行ったのだ。
絶句するシャフリヤールとミユキ大佐をよそに、ハストゥールはわずかな隙間をすり抜けるようにシャフリヤールの後方へとまんまと抜け出した。
ほんの0.数秒前までハストゥールがいた場所で、32の反物質爆弾が強大な閃光を起こした。
だが、シャフリヤールとミユキ大佐に呆けている余裕は無かった。
爆発とほぼ同じタイミングでシャフリヤールを狙った巨大な粒子ビーム砲が後方から放たれたからだ。
下部スラスターからの噴射によりシャフリヤールはかろうじで躱した者の、強力な熱線により船体下部の広大な範囲を削り取られるように失う事となった。
「下部噴射口及び武装群が……大量消失……センサー類も消滅……詳細不明!! ミユキ大佐、このままでは!」
「上部及び側面噴射口で対処! 航行パターンを回避優先に変更するっス! 後部砲座及びVLSは牽制射撃!」
武装がほぼ主砲の粒子ビーム砲のみのハストゥールと違い、シャフリヤールには全方位に指向可能な大量の武装があった。
75mm速射レールガン、200mmレールガン、90mmレーザー砲、90mm粒子ビーム砲と同軸レーザー砲……。
だが、これらの武装はこの大型戦艦によるドックファイトにおいては火力と弾速において劣勢を強いられることとなった。
「後部レールガン及びビーム砲……ダメっス……やっぱり中小口径の武装じゃこの超高速戦闘だと当たらないっス」
発射されたシャフリヤールの攻撃はハストゥールの身じろぎしたような微かな回避軌道により空しく宇宙へと消えていく。
これはシャフリヤールの武装が通常速度での艦隊戦を想定した武装だからだ。
その上同格以上の大型艦相手ではなく、防空網と直掩艦を突破した相手を迎撃することを主眼に置いているため、最も威力のある武装でも200mmレールガンと90mm粒子ビーム砲という重巡洋艦の主砲以下の火力しかない。
このことが不利に働いた。
レールガンの弾速に近しい速度で航行する中で発射された砲弾は発射早々に威力を失い、粒子ビーム砲やレールガンはハストゥールの観測装備によって容易く発射タイミングや狙いを見切られ回避されることとなった。
対するハストゥールは地球製の粒子ビーム砲以上の強力な武装を有しており、通常のドックファイト同様のタイミングで狙いをつけ、シャフリヤールの船体を容易く捉えてきたのだ。
そして、最大の誤算が……。
「ミユキ大佐……本当に相手は有人艦なのか? 船体中央部……格納庫付近が限界だ! 次捻り込みをしたらシャフリヤールは真ん中から折れるぞ!」
「ちっくしょう……化け物め……」
有人艦相手ならば、長期戦に持ち込んだ方が有利だとミユキ大佐達が考えた事だった。
ハストゥールという戦艦の事前情報やアウリン隊の運用状況を考えるに、最低でもサイボーグ化された人間が運用している事は間違いないとされた。
だからこそ、ミユキ大佐とシャフリヤールは超高速下でのドックファイトを挑んだのだ。
如何に強力な重力制御技術を持っていようとも、全長1kmの宇宙戦艦で無茶なきりもみ機動をすれば絶対に巨大なGが生じる。
だからこそ、二人のアンドロイドだけで運用するシャフリヤールで高速戦闘を強いる事で相手の乗員を疲弊させ、あわよくば撃沈を狙う、というのがミユキ大佐とシャフリヤールの戦闘プランだった。
「それがまさか……こちらの方が先に耐えられなくなるとは……おまけにミユキ大佐、悪い知らせです」
「何っすか?」
不機嫌そうに聞いたミユキ大佐だったが、概ねシャフリヤールの言う事に検討はついていた。
姉妹達と一緒に帰還する可能性を、なんだかんだで捨てていなかったミユキ大佐だったが、どうやらいよいよ腹をくくると気が来たようだ。
妙に達観した心境でミユキ大佐は射線を確保しようとしていたハストゥールの鼻先に200mmレールガンの牽制射撃を行った。
「……今ので後部砲座の砲弾は弾切れです。正確には即応弾、ですが……。他の実弾砲座も概ね同様……あとは弾薬庫から各砲座に弾薬を移動させる必要がありますが、どう見積もっても通常航行状態で30分はかかります」
「ちっ……」
残弾無し。
ミユキ大佐は舌打ちすると、再び主砲発射位置を狙うハストゥールに対し、今度はレーザー砲と粒子ビーム砲による攻撃を試みた。
しかし、レーザー砲はハストゥールには通じず、粒子ビーム砲は粒子加速に数分を要するとエラーを伝えてきた。
ミユキ大佐は思わずシャフリヤールの顔を睨みつけた。
金髪の優男は、悲しそうに肩をすくませた。
「そっか……動力が……」
「力及ばず申し訳ありません……主機関の熱核エンジンも不調ですし、もはや……」
「いや、シャフリヤール……よくやってくれた。じゃあ、しょうがないっスね」
「ええ、残念ですが……」
そう言うと、シャフリヤールとミユキ大佐は主砲にエネルギーを充填するハストゥールを外部カメラを通じて睨みつけた。
二人は腹をくくったのだ。
生存を諦め、二人は最後の賭けに出た。
「上部噴射口付近に残存の全反物質を集中させるっス。化け物め、目にもの見せてやる……」
「船体が折れなければいいんですが……」
シャフリヤールはそう呟くと、メインスラスターの反物質と水素燃料を全面的にカットした。
その上で、前方の原則用噴射口からなけなしの反物質を用いた対消滅爆発による減速を実施した。
シャフリヤールの懸念は的中した。
全長4kmの巨体は半ばから折れ曲がり、あっという間に超高速推進状態から脱落していった。
みるみるうちに速度が落ち、必勝の主砲を放とうとしていたハストゥールに瞬きする間もなく近づいていく。
「くたばれ化け物!」
ミユキ大佐が渾身の叫びと共にカミカゼ特攻を試みる中、化け物と呼ばれたハストゥールの艦内は……地獄と化していた。
ココの所毎回更新予告から遅れて申し訳ありません。
少々体力と精神双方が疲弊しており、まあ、ご覧の有様です。
更新と執筆は止めたり長期の延期などはしないつもりですので、予告から一日くらいは遅れると思って気軽に考えていただけると幸いです。
次回更新予定は9月20日の予定です。
よろしくお願いいたします。




