第18話―3 戦場の様子
「ふふ、ふふふふふ……」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
ルーリアトの月軌道で、ポリーナ大佐は一人笑っていた。
周囲には火星艦隊別動隊の先鋒部隊であった四隻の標準艦……その残骸が空しく漂っていた。
「はぁ……ふふ、楽しい……ああ、ああ、楽しい……」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
ポリーナ大佐はいつもの軍服姿では無かった。
全身にピッタリとフィットする特殊素材のスーツに身を包み、その上に戦闘機や戦車を彷彿とされる汎用装甲を身に着けている。
だが、それ以上に特異なのが彼女が脚部と背部に身に着けて……いや、装備している巨大なメカだった。
強化機兵の脚部と戦闘機と航宙艦のパーツが複雑に入り組んだようなその装備によって、ポリーナ大佐は今や小型艦に匹敵する威容を誇っている。
パーツから垣間見える様々な武装や、未だ高熱を帯びるスラスター類がある種の殺意すら感じさせるほどだ。
中でも、両肩から伸びた巨大な腕の様なパーツは最たるもので、鋭利な指先は悪魔のそれを思わせた。
「標準艦……重巡洋艦並みと聞いてましたが……想像以上です……あはっ……」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
再び、ポリーナ大佐は笑う。
ポリーナちゃん、と姉妹達に懐かれた時の彼女の優しい笑みではない。
全てのタガが外れ、心の底から悦んでいるいる。
そういった類の笑顔だ。
「……有人艦で、こんなに重装備なら……さぞかしいっぱい乗ってたんでしょうね……ふふ、ふふふふふ……」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
そうして、彼女は左の戦闘アームを眼前に寄せて、握っていた手を開いた。
そこには、先ほど脱出ポッドから確保した捕虜が握られていた。
当然ながら宇宙服を身に着けてはいるが、あくまで簡易的なものだ。
薄い簡易宇宙服は、彼……もしくは彼女の恐怖を反映してか小刻みに震え、先ほどからずっと小さな金属音を立てていた。
「ああっ♡ 震え……恐怖が具現化したような甘美な振動……何度……何度体験しても堪らないです……カルナーク空軍のパイロット以来です……」
そう言ってポリーナ大佐は、笑いながら戦闘アームを勢いよく握りしめた。
メキャリという宇宙服と肉と骨がひしゃげる感触がして、周囲に血液の玉が無数に弾け飛んだ。
「ああ、綺麗。そうですね……そういえば、宇宙空間で人間を殺したのは、初めてでした。カルナークには宇宙戦力が無かったから……」
ポリーナ大佐は笑う。
彼方に見える敵主力の無数の光点を見つめて。
ポリーナ大佐は笑う。
人間を殺せる、喜びに。
※
メーカーが調査した結果、ポリーナの精神構造には恐ろしい改造が施されていた。
人間に対して”好意”を抱き、それによって”三大原則”のような固定化された規則無しで人間に従わせると言うのが感情制御型アンドロイドである。
それが、ポリーナは人間に対して好意の結果として”殺意”を抱くように改造されていたのだ。
無論、ナンバーズに提供された半ばブラックボックス化された技術によって製造されているアンドロイドをこのように改造するなど、本来ならば出来るはずがない。
その点を、デグチャレフ博士は好意を示す方法として害を与えると言う思考構造を与える事で疑似的にアンドロイドの精神構造の変更を行っていたのだ。
つまり、ポリーナの異常な学習の速さと練度の理由はこれだった。
通常のアンドロイドと違い、人を殺す事に意味と執着を見出せる彼女は、異常な難易度の行為に驚くべき積極性を以って取り組むことが出来たのだ。
とはいえ、あまりにも危険すぎる行為だった。
デグチャレフ博士は当初は違法行為を否認していたものの、ポリーナについて解析が完了すると一転してそれを認め、そして開き直った。
曰く、この技術を用いれば最強のアンドロイド軍を作る事が出来る。
当然誰もがそれを認めも、望みもしなかった。
デグチャレフ博士はナンバーズと人類に対する反逆を企てたとして逮捕起訴され、数年後獄中で死亡した。
残ったポリーナについては、当初処分が検討されたものの、とあるアンドロイド技術者の発言により対応が一変。
アンドロイド教育に秀でたとある指揮官の下に配属され、カルナーク戦に参加することとなった。
技術者の名は賽野目、指揮官の名はハンス大佐と言った……。
※
「♪~~~~~~♩~~♬~~~~」
上機嫌に鼻歌を歌いながら、ポリーナ大佐は一番近い場所にあるアステロイド地帯……その一角にある補給コンテナへと向かっていた。
久しぶりに姉妹の目が無い場所で人間を殺せる喜びで、気分は上々だった。
姉妹達……人殺しだけが生きがいだった自分に、慈しむ事を教えてくれた最高の存在。
彼女達がいたからこそ、アンドロイドを愛で、人間をからかうと言う穏便な楽しみ方を覚える事が出来たのだ。
「けれども……戦況が悪いから、もう会えないかも……特にジークは空間戦闘ユニットが大好きだったから、通信じゃなくて見せてあげたかった……」
「デンドロビウム! いや、むしろガネーシャ……」などと言ってはしゃぐ妹の事を考えながら、ポリーナ大佐は進む。
「あ、そういえば……一木とグーシュはどうなるかしら?」
途中一瞬だけ、最近出会った二人の人間の事が頭に浮かんだ。
すると、心にじんわりした温かいものが滲んでくる。
先ほどの乗員には無い、より一層強い殺意だ。
物騒だが、ポリーナ大佐にとってはその人間の価値の証明でもあった。
好きであればある程、害を与えたくなる。
難儀だが、こう作った人間が悪いので仕方が無かった。
「……ああ、いけないいけない。我慢しないと……一木とグーシュが脱出に万が一成功しても殺さないように、今一杯殺さないと……」
スラスターを吹かし、ポリーナ大佐はアステロイド地帯に入っていく。
通信を完全に封鎖すれば、容易には見つけられないはずだ。
「宿営地は今めちゃくちゃ大変なのに……私だけ楽しんで悪いわ……」
そう言って姉妹を思うときだけ、ポリーナ大佐はいつもの母性的な笑みを浮かべた。
予定日時に更新できず、申し訳ありませんm(__)m
次回更新予定は8月31日の予定です。




