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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第17話―2 架空の王と神

『な、なんだ!?』


 当然アウリン1率いる先鋒集団の三個中隊のアウリン達もそれに気が付いた。

 だが、シャフリヤールの速度は反応することを許すようなものでは無かった。


 ただでさえシャフリヤール攻撃のために速度を出していたのだ。

 アサシン型による探知と注意の呼びかけが行われたまさにその最中に過ぎ去ったシャフリヤールに対し、彼女たちは何ら対応が取れず、慌てて自分たちのハストゥール(母艦)に報告と指示を乞う事になった。


『こちら第一中隊、シャフリヤールが超高速で……』


『こちら第四中隊、たった今シャフリヤールが……』


『こちら第七中隊! 敵旗艦がこちらに接近中……』


 しかしその報告はほとんど間に合わなかった。

 先鋒集団の報告がハストゥールのメインオペレーターに伝わったのとほぼ同時に、中衛の第四中隊と後衛の第七中隊からも同様の報告が入ったのだ。

 その通信を聞いたクク中佐は椅子から立ち上がると同時にオペレーターに向かって叫んだ。


「全アウリン中隊は直ちに減速及び旋回開始! 急いで本艦周辺に戻してください! 魔導炉の再起動及び風の杖によるハストゥールの緊急覚醒、及び拘束外装の一部解放……40%まで行います!」


 普段のおどおどした様子とはあまりにも違うその姿に、艦橋内の視線が一斉に向いた。

 そしてその視線の一人である軍師長が疑義を呈した。


「……クク中佐、事情は分かる。アウリンを戻すことも緊急覚醒も賛成だが、拘束外装の解放は……」


 だが、何もクク中佐の様子だけがその視線の理由では無かった。

 拘束外装の四割解放という命令がその理由だった。

 しかし、クク中佐はそのあどけない表情から危機感を消そうとはしなかった。


「急いでください。状況から考えてワシントン級宇宙戦艦の反物質推進による高速機動です。先ほど接舷していた巡洋艦によって人間が全て退避して無人機動状態の場合、最悪本艦の機動力を上回ります……」


「……ハストゥールを解放するリスクは分かって命令しているんだな?」


 再度の軍師長の問いにも、クク中佐は力強く頷いた。

 それを見た軍師長は、もう何も言わなかった。


 ハストゥールという戦艦は、異世界派遣軍や火人連の他の艦艇とは根本的に異なる構造をしている。

 魔導炉と呼ばれる魔導力学と魔法技術、及び縮退炉からの電力供給を前提にした特殊な機関を動力にしている点。


 生体眼球というアイオイ人の目と接続同期可能な巨大な生体機関をセンサー代わりにしている点。


 そして最大の相違点が、その船体を構成する部材の大半が有機物質である点だった。

 

 そう。

 戦艦ハストゥールとは、たった一隻だけ成功したベルフ人の超技術の産物である”肉艦”のコピーなのだ。


 ”肉艦”とはいわば巨大な一個の生命体だ。

 ベルフ人は生来の強靭な生命力とある種のテレパシーの様な生体通信機関によりこの巨大な人口生命体と意思疎通を果たし、そして人間が馬や犬を使役するように自在に操っていた。


 しかし、人間はそうはいかない。


 巨大な肉塊が独自の生態系と思考形態の上で行う全ての思考と行動は人間の心を蝕み、うごめく肉塊は視界からさらに精神を蝕む。


 ましてやテレパシーなど人間は使うことが出来ない。


 だからこそ、拘束外装と呼ばれる特殊装甲によってハストゥールの意思と肉体を抑え込み、風の杖による莫大な電気エネルギーと、それを魔導炉によって肉艦のエネルギー源に変更することによって与えられる飢餓感と満腹感によって疑似的な制御を行っているのだ。


 そういった意味合いで。

 拘束外装の解除というのはハストゥールの運用者にとっては最も忌むべき選択肢であった。


 拘束外装を解除するという事は即ちおぞましい肉塊を艦の内外に露出させ、人間の精神を守り、言うことを利かせる手段を喪失する事に他ならない。


「もちろんです。ですが、ハストゥールの生存本能を利用しない限り、敵戦艦には勝てません」


 クク中佐が言った瞬間、今度は観測手のアイオイ人が叫び声を上げた。


「敵戦艦、来ます! 敵砲の想定有効射程まであと……五秒!」


「人口重力装置最大緊急機動! 操舵手操作任せます! 艦内総員対ショック体制!」


 クク中佐が艦内通信を全開にしつつ叫んだのと、一瞬のうちに目視圏内に接近してきたシャフリヤールが無数のレーザー砲やレールガンを放ったのほとんど同時だった。


 だが、ハストゥールはそれら全てをぬるりとした異様な動きで回避すると、視認困難な程の速度でその場を通り過ぎたシャフリヤールの後ろを追ってまるで海中を生き物が泳ぐような動きで旋回し追いかけだした。


「きゃああああああああああああああ」


「ぐぅううううううう……」


 外からの見た目に反して、ハストゥールの艦内では人口重力装置で吸収しきれない強大なGが発生していた。 

 通常の操舵ではありえない、肉艦が意思の力で魔導炉からのエネルギーを用いて起動している時特有の衝撃だった。


「操舵手いいですよ! そのままシャフリヤールを追跡しなさい! 神官長は風の杖のエネルギーを最大出力で充填してください。後ろから主砲で攻撃します!」


「わかりました……参れ参れ参れ……風よ参れ。吹け吹け吹けよ……風の加護よ吹けよ。風の杖よ、加護よ来たれ……」


 叫んだククの背後でニュウ神官長が詠唱すると、再び艦橋内に魔法陣が浮かび上がる。

 そうしている間にも、ハストゥールは瞬く間にシャフリヤールとの距離を詰めていく。

 クク中佐やニュウ神官、そして乗員たちは3G程の重力に耐えながら、じりじりと接近し続けるシャフリヤールの艦尾を見据えていた。


「魔力充填完了!」


「ハストゥール、主砲はっ……」


 砲手の報告を受けたクク中佐が発射を命じようとした瞬間、シャフリヤールが動きを見せた。

 先ほど緊急発進した時と同様に、艦尾が爆発したような巨大な反物質推進による爆発が生じたのだ。


「操舵手、離されないで! 加速してください!!」


 ククがそう命じ、操舵手が加速させるべく操舵装置を操作しようとするが、それを制する声が上がった。

 観測手の一人のアイオイ人からだっった。


「駄目だ、加速するな! 今の爆発は偽装だ……敵は減速して後方に回り込む気だぞ! 右舷を行くぞ!」


 その言葉の通り、滑り込むような動きでシャフリヤールはハストゥールの横を後方にすり抜けていく。

 クク中佐が対応を命じる間もなく、一瞬のうちに後ろを取られてしまったのだ。


「敵艦発砲!」


「回避ー!!!」


 再び発射される無数の砲弾を、ハストゥールはまるで戦闘機の様な高機動で巧みに回避していく。

 ここに、全長1キロ越えの大型宇宙戦艦同士によるドックファイトが開始された。

予告より遅れて申し訳ありませんでした。

お盆でいろいろとバタついておりました。


次回更新予定は8月20日の予定です。

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