第16話―1 七惑星連合
七惑星連合という組織の歴史は意外と古い。
カルナーク戦の二年目。
西暦2096年にカルナーク国民統合軍総軍師長にバダ・グリ66241・一等カルナークが就任した際に発令された、『地球軍観察作戦』にその源流を見る事が出来る。
この地球軍観察作戦とは、文字通りカルナークに対して攻撃を仕掛けてきた地球軍(異世界派遣軍)の様々な情報を収集し、反撃の糸口をつかむと言うものだった。
そしてこの作戦では単純な偵察活動以外にも様々なアプローチが試みられており、その一つに地球政府の敵対者ないし内部で反政府活動をしている政府との接触というものがあった。
その結果行われたのが異世界派遣軍がやってくる空間湾曲ゲートの向こう側への電波通信だった。
内容はカルナーク政府の概要と、地球連邦政府による侵攻を非難するありきたりな文面。
無論如何な暗号を施しても文明レベルの差から傍受、解析されることは確定済みな上に、
そもそもいるかどうかも分からない地球側の反政府勢力との接触等不可能だという意見も当時のカルナーク軍内には強かった。
だがパダ・グリ総軍師長は反対意見に対してこう述べて作戦を実行に移した。
『反政府勢力との連絡打通が目的ではないのだ。我々がこれを試み、無線通信を送る。この事実に対し、相手が見せる態度。それを見極める事から得られる情報が目的なのだ。賢者は棒で突つく事を目的としない。賢者は棒で突かれた相手の様子を見るものだ』
この言葉によって実行に移された反地球連邦政府組織に向けての電波通信は、送信後数時間で返事が来ると言う驚くべき結果をもたらした。
とはいえ驚くべき速さで返答が本当に来たわけでは無かった。
成立間もない火星政府が、国民向けのプロパガンダの一環として送った地球連邦政府への反抗を呼びかける通信が入れ違いに届いたのだ。
この通信成功に両国政府は狂喜した。
作戦の本質を分かっていた一部責任者は冷静に捉えていたが、それ以外の熱狂しやすい層はこの事実を異常なほど大きく見て取ってしまったのだ。
パダ・グリ軍師長や火星評議会の作戦立案者の制止も聞かず、その上通信相手への返事すらも聞かずに両国政府は自国民に対して対地球連邦政府反抗同盟、「惑星同盟」の誕生を発表した。(カルナーク側では惑星統治政府二国間軍事同盟)。
この実体が何もない、宣伝上の存在こそが現在の七惑星連合の母体となった。
そうして結成されたこの組織が多少なりとも実体を持ったのは三か月後。
地球側の妨害電波やカルナークのある恒星系の様々な天文現象、空間湾曲ゲートを電波が超える際の様々な影響などを乗り越え、ようやく両国間の通信が安定し、ようやく双方が『通信を受け取った。相談なんだが同盟を組もう』という本来なら発表よりも先に送ってしかるべき通信を入れてからだった。
バツの悪さと実益の無い事が分かり切っていたこともあり、同盟締結はあっさりと了承された。
晴れて正式なものとなった惑星同盟は担当者が置かれ、双方の環境次第で三日程度のタイムラグでの連絡が可能となった。
勿論これら一連の動きは地球側でも把握されていた。
ところが、当時のロペス大統領をはじめとした地球連邦政府が火人連の存在を公に認めない姿勢を取っていたことと、大した通信が行われていない事もあり早々に地球連邦政府と異世界派遣軍は興味を失ってしまった。
こういった情勢の中、互いに近況報告と文化交流、地球連邦政府の悪口を言い合うだけの微笑ましい体制が2105年まで続いたが、それはあっさりと終わりを告げた。
2105年。
パダ・グリ軍師長率いるカルナーク国民統合軍第4軍の一部が火星に転移してきたからだ。
この衝撃的な事態のきっかけはこの前年。
火星でとある地下遺跡が発見された事が始まりだった。
当時火星では地球からの移民と環境安定化によるベビーブームによる人口増加に対応する手目に急ピッチでドーム都市や地下都市の建造が準備されていた。
その仮定で地下探査を行っている際、シドニア・メンサエ北部。
かつて人面岩があると言われ話題になった地点の地下に、綺麗な立方体の巨大地下空間が発見されたのだ。
これだけでも驚くべき事だったが、各種反応から明らかな人工的施設だと判明した事で動きは加速した。
これが百年前なら宇宙人の遺跡だ! というある種純粋な驚きだっただろうが、この時代はナンバーズの来訪後である。
火人連の評議会はこれがナンバーズないしナンバーズを創りだした先史文明の遺跡ではないかと考え、大規模な調査チームを結成したのだ。
こうして開始された調査によって、地下空洞が未知のセラミック系複合材質で建造された人口施設であることが確定し、さらに空間湾曲ゲートの固定設備に似たリング状の巨大設備が発見された事で火人連評議会はこれが先史文明の物だと確信を持った。
都市建造予算が流用され、乏しい人材や違法に流出したアンドロイドと言った貴重な人材機材が多数投入され、施設の解析が進められた。
こうした活動は投入したリソースに反して数か月間全く成果を出さなかったが、とある事実が事態を急変させた。
施設にいくつかあった文字のような記号が、とある種族のものと一致したのだ。
その種族とはカルナークの原住種族、アイオイ人だった。
更新予定から遅れて申し訳ありませんでした。
次回更新予定は7月24日の予定です。




