第15話―3 殿
異世界派遣軍の警戒活動を担当していたのは第4530護衛戦隊。
軽巡洋艦リマを旗艦に、護衛艦ガゼル1~4と護衛艦ゼブラ1~4の八隻からなる戦隊だった。
彼女たちは当初の任務だった艦隊主力の護衛から任務を変更されていた。
即ち、敵艦載機部隊の足止め。
シャフリヤールからの物資とアンドロイド達の移送が完了するまでの時間稼ぎ、捨て石だ。
しかし彼女達には悲壮感は無かった。
この任務が持つ重要性。
負傷したアブドゥラ・ビン・サーレハの命を救い、一木弘和がルーリアトを脱出する時間を稼ぎ、ひいては地球連邦政府全体の益となる貴重な時間を稼ぐ。
その意味を深く理解していたからだ。
彼女たちはミユキ大佐達と同様の高揚感に包まれた状態で一路敵艦載機の予定進路付近へと集結した。
「こちら30戦隊よりシャフリヤール。予定宙域に到着した。これより長距離迎撃に移る、送れ」
褐色の肌を持つ活発な印象の美女である軽巡リマがシャフリヤールに通信を入れた。
慌ただしいのか、シャフリヤールと艦務参謀からは『了解。全力で迎撃せよ』との短い一文のみが返ってきた。
「……いや、ミユキ大佐は見たいんだね。あの妙な艦載機がどの程度戦えるか」
リマはジッと正面の宇宙空間を見つけめた。
すでに光学系で視認できるほど敵の第一陣は接近していた。
可能ならば視認できない距離の段階で対空ミサイルによる長距離迎撃を試みたかったが、各個撃破を避けるため終結を優先した事が裏目に出たようだ。
「いや……ならばむしろ……」
しかし軽巡リマは考えを変更した。
無難に護衛戦隊の最もスタンダードな迎撃手順である、長距離対空ミサイルによる迎撃、レーザー砲による迎撃、レールガンないし実体主砲による迎撃、対空機関砲による迎撃という多層迎撃手段を用いず、敵の長く伸びきった隊列をある種利用した迎撃を行うことにしたのだ。
「ガゼル、ゼブラ!」
「「はいよ!」」
軽巡リマが通信を入れると、威勢のいい返答が返ってきた。
一つのSAが四隻の船体をコントロールする関係上、駆逐艦のSAは機能面では軽巡洋艦SAを上回るため、多少大人びた印象の女性姿をしていた。
ガゼルとゼブラもご多分に漏れず、すらりとしたモデルのような体系の成人女性の姿をしていた。
「今から指定する通りに迎撃を行う! いいか……」
指示を出すと、八隻の護衛艦からはいかにも楽しそうな反応が返ってきた。
搦め手ではるが、上手くいけばシャフリヤールが到着するまで持ちこたえる事も可能だろう。
リマは心中で微かな希望にすがった。
(感情制御システムがもたらす高揚感……それなのに、微かに怖い……私も焼きが回ったかな?)
そう思っても、希望と期待は消えなかった。
号令を掛ける瞬間も、ミサイルと対空砲によって敵艦載機部隊が一瞬で壊滅する光景が脳裏をよぎった。
「……目標、敵中衛部! スペースアロー全問発射!! 発射後は全艦目標を先頭集団に変更。主砲による迎撃を開始せよ!」
敵がこけおどしである事を祈りながら、軽巡リマは声を張り上げた。
今回は短めで申し訳ございません。
次回更新予定は7月17日の予定です。




